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第10章

第247話

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「えっ? 連合軍が押されている?」

「えぇ……」

 ケイたちが坂岡たちを倒してから1週間が経った。
 八坂の報告によって、将軍家の指示によって他領から続々と兵が送られてきた。
 早々に同竜城は包囲され、佐志峰や上重たちは逃げることも出来ずに城に立てこもった。
 日が経つにつれて更に兵は増えていき、城は完全に孤立した状態になっていた。
 籠城戦になったが、集まった兵数を考えればどう考えても上重たちは終わりだ。
 後は潔く切腹するくらいしかないと思われていた。

「何でそうなるのですか?」

 蓋を開けてみたら、連合軍の方が押されているという八坂の報告を受け、ケイは意外に思って問いかける。
 数も質も揃っている連合軍の方が押されているなんて、信じられなかったからだ。
 分からないのは、どれだけもつかが分からないくらいのものでしかなかった。

「他領から多くの兵が来ているのではないのですか?」

「その通りなのですが……」

 ケイに問いかけられた八坂も、少し困ったような表情をする。
 日向の兵はそんなに弱いのかと、他の国の人間であるケイに思われているのではないかと思っているのかもしれない。
 たしかに、包囲を開始した頃の話であればなんてことないのだが、大軍による完全包囲の状態から押されるなんて、どうしたらそんな風になるのかが知りたくなってくる。

「元々、軍同士の連携はよくはないのですが、想定外のことが起こりまして……」

「想定外?」

 八坂に聞いた話だと、どこも自分の領地を重視していて、他領よりも地位的に上に行きたがる関係にあるらしい。
 戦争をし合うような関係ではないが、仲良くし合う関係でもないといったところだろう。
 しかし、こんな時にそれで足を引っ張り合うほど、どこの兵も愚かではない。
 多少の協力はしてはいるが、それとは関係ないことで問題が起きたのだ。

「綱泉の殿が手に入れていた魔物を解き放ちまして……」

「人選ミスでも?」

 起きた想定外の問題というのは、どうやらこの事らしい。
 日向の剣術は、魔物よりも人相手といった方が向いている。
 美花も、島に流れ着いた時はそんな風な印象が強かった。
 だからだろうか、魔物の相手をするには苦手な種族という印象が強い。
 そのため、人を相手にする事ばかり考えていたどこの領の兵たちも、人選をミスったということなのだろうかと思った。

「人選ミスというか、その解き放った魔物がどれも強力なのです」

「……以前の巨大蛇やファーブニルもその殿さまが?」

「恐らく……」

 ケイたちが1週間前に相手にした巨大蛇やファーブニルも、かなりの強力な魔物だった。
 巨大蛇はケイが結構あっさり倒したようだが、あれはケイの特性武器があったからというのもある。
 それも1発きりで壊れてしまったので、もしもまた巨大蛇が出たらケイもファーブニルと戦うなんてしないで逃げていたかもしれない。
 そんな化け物のような魔物をいくつも持っているなんて、とんでもなくいかれた殿さまだとしか思えない。

「本当にどうやって手に入れたんでしょう? ファーブニルなんてかなりの化け物ですよ!」

 この事を、ケイはこの1週間ずっと気になっていた。
 ファーブニルを手に入れるなんて、金を積んだからってどうにかなるような物でもないような気がする。
 大陸でも、SSS(トリプル)ランクの冒険者とパイプでもない限り、手に入れるなんてことは不可能だろう。
 自由人の中でも、さらに自由に生きるのがSSSランクの冒険者だ。
 そのSSSランクでも、金で動くようなものがいるとは考えにくいところがある。

「その化け物に勝ったケイ殿もすごいですが……」

「勝てはしたけど、負ける可能性もありました」

 ファーブニルの攻撃を受けた時は、本当に死ぬかと思った。
 謙遜でもなく、負けて死んでしまった可能性も本当にあったかもしれない。

「それで? 私に頼みとは?」

 今日ケイたちが八坂に会いに来たのは、頼み事があると比佐丸から聞いてきたからだ。

「連合の要請により、我々も参加をすることになったのですが……」

「……俺にも協力をしてほしいということでしょうか?」

 西地区の人間は、前の戦いで疲弊しているのは分かっているはず。
 それでも参加を要請するなんて、よっぽど魔物に手こずっているのかもしれない。
 八坂としてもそれが分かっていても、その要請を断ることができないらしい。
 西地区は、やはり自分たちで守りたいという気持ちがあるからだ。
 その西地区の食客として、戦闘力の高いケイに参加してもらいたいのだろう。

「厚かましいとお思いでしょうが、お願いできないでしょうか?」

「……八坂殿には世話になっているので、断れないですね」

 先週の戦いの礼として、八坂には宿代や食費を出して貰っていた。
 別にそれを特別感謝している訳ではないが、この西地区は美花の両親にとっても重要な地。
 どんな魔物がいるのか分からないが、ケイはとりあえず参加を了承した。

「かたじけない」

 ケイはたしかに綱泉や織牙の関係者だが、それは妻の美花にとってであって、別にケイが関わる必要はない。
 それなのにもかかわらず了承してもらえた八坂は、感謝の言葉と共にケイに頭を下げたのだった。

「ケイ! 俺も行くぞ!」

「……善貞、お前では……」

 八坂の手前黙って聞いていた善貞が話に入って来た。
 しかし、それを八坂が止めようとする。
 善貞が魔闘術を完全に使いこなせていないということを知っているからだろう。

「キュウとクウの側にいるなら良いぞ」

「っ!? ケイ殿?」

 止めようとした八坂とは裏腹に、ケイは善貞の同行を条件付きで了承した。
 それに八坂は意外そうな表情で問いかける。

「実戦を見るのも重要です。それに、キュウとクウが付いてれば、もしもの時には逃げるくらいできるでしょう?」

 1週間善貞の面倒を見てきたが、少しずつ魔闘術を持続する時間が増えてきた。
 それでも、完璧という者ではないが、戦場に来ている兵は恐らくほとんどが魔闘術の使い手なはずだ。
 他の人間を見ていれば、自分の良くない所が分かるかもしれない。
 そのため、ケイは善貞の同行を認めたのだ。

「ケイ殿が良いと仰るなら……」

「よっしゃ!」

 善貞は、今はケイの弟子のような存在になっている。
 師匠に当たるケイが認めたので、八坂は渋々認めることにした。
 参加できることになった善貞は、嬉しそうにガッツポーズをした。

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