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第10章

第230話

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「奴らが何しに向かって来ているというんだ?」

「恐らくはこの蛇の討伐の手伝いかと?」

 部下の報告に八坂は首を傾げる。
 敵対している上重派の者たちが、今この状況で何をしに来るというのか分からないからだ。
 八坂に問われた永越は、咄嗟に思いついたことを口にする。

「奴らがそんなことをするようなお人好しか?」

 その永越の答えに対して、駆け寄ってきた比佐丸がツッコミを入れる。
 たしかに、町へと迫る蛇を抑えきれずにいれば、美稲の町だけの話では済まなくなる。
 美稲の町は奧電の町に比べればたいしたことないが、八坂の存在を考えれば蛇の討伐は不可能ではない。
 まさか、八坂の領地である美稲の町の住人のためと、上重が部隊を動かすはずがない。

「じゃあ、何故?」

「分からん!」

 永越の問いに、比佐丸は短く答える。
 はっきり言って、今は上重のことを考えるよりも巨大蛇の相手が優先だ。
 そのため、比佐丸はそのまま蛇へと斬りかかっていった。

「理由はいい! 今は蛇を倒すのだ!」

 この場で他のことを考えているほど時間はない。
 美稲の町の剣士たちが斬りかかっていくが、八坂のように傷を付けるには至っていない。
 せいぜい、堅い表皮を薄く斬りつける程度で、このまま戦っても大ダメージ与えられるとは思えない。

『タイミングがおかしい……、もしかしてこの蛇……』

 今は話し合いよりも蛇の討伐となり、全員蛇へと向かって行く。
 ケイもそれに続くが、頭の中では違和感を覚えていた。
 美稲の町の剣士たちは、蛇が出てすぐに動いた。
 しかし、それと大差ない程に上重の連中も動き出したとなると、あまりにも速すぎる。
 そのため、一つの思いが頭をよぎる。

「シャーー!!」

「ぐわっ!」

「くっ!?」

 傷を付けることができないからだろうか、蛇は剣士たちに群がられても町へと向かう足を止めない。
 しかし、時折僅かな傷が入りチクッとするのか、ハエを振り払うが如く尻尾を振って剣士たちへ攻撃をしてくる。
 体躯が大きいがゆえに攻撃の速度も鈍いが、大きいなら大きいだけにそう撃範囲が広い。
 そのため、尻尾を躱しきれずに攻撃を受ける物が出てきた。
 中にはその一撃で戦闘から離脱せざるを得ない者もいた。

“パンッ!”

“キンッ!”

「硬いな……普通の銃弾では無理か?」

 ケイも参戦し銃で攻撃をするが、蛇の表皮はかなり堅い。
 飛んで行った銃弾を弾いてしまった。
 他の剣士たちが斬りかかっているため、巻き添えで撃ってしまってはいけない。
 なので、威力は抑えているとは言っても、攻撃が通用しないのでは役に立たない。

「だったら……」

“パンッ!”

「キシャッ!?」

「おぉ! 効いた!?」

 思い付きで攻撃したら、普通の銃撃でも蛇に血を出させることに成功する。
 痛みを感じたからなのか、蛇はケイに目を向けて光線を発射してくる。
 美稲の剣士たちとは違い離れて戦っているのもあって、ケイ1人に向かっての攻撃。
 当然ケイには通用せず、その攻撃を余裕を持って躱す。

「しかし、これでは焼け石に水だな……」

 ケイがした攻撃は、八坂が付けた傷を狙った攻撃で、弾が当たって血が出ても、結局蛇の巨体を考えると致命傷にはなりえない。
 そこばかり狙って攻撃をしようにも、どれだけの数の銃撃をしなければならないか見当もつかない。

「このままでは町に……、やるしかないか……」

 怪我を負わせられる人間は少なく、傷を負わせてもたいした怪我ではない。
 しかし、接近戦しかできない剣士たちは、愚直に攻撃を繰り返している。
 蛇の攻撃で離脱する人間が少ないのはせめてもの救いで、かなりの時間をかければそのうち倒せるかもしれないが、ケイの攻撃同様どれだけ攻撃し続けなくては分からない。
 上重の者たちが迫ってきていることを考えると、できれば蛇を早々に倒したい。
 なので、ケイは動くことにした。

「八坂様! 少しで良いので皆を一旦退かせてもらいますか?」

「しかし……」

 八坂のもとへと近付き、ケイは剣士たちを退かせる指示をしてもらうよう告げる。
 強力な攻撃をするとなると、剣士たちを巻き込まない自信がないからだ。
 はっきり言うと、邪魔だ。
 しかし、ケイの攻撃がたいして通用していないことは八坂の視界にも入っていた。
 なので、八坂はケイの提案に人の足を踏む。

「その時、一撃放って蛇に大打撃を与えます!」

「…………分かった。お主にかけてみよう!」

 このまま攻撃し続けるのも止む無しと思っていたところもあったが、八坂としても倒せるなら少しでも早く倒したい。
 ケイの目に自信があることを感じ取ったのか、八坂は少し間を置いた後、その言葉に乗っかることにした。

「ありがとうございます」

「キュウ! 合図をしたら蛇に目くらましだ!」

【りょうかい!】

 魔法特化のキュウも魔法で攻撃をしたいところだが、ケイ同様に剣士たちに当ててしまいそうなのでなかなか手出しができずにいた。
 仕方がないので、大人しくポケットの中にいたのだが、出番が来たことで嬉しそうにケイに返事をしてきた。

「全員いったん下がれ!!」

「っ!? 八坂様!?」

 八坂が大きな声で指示を出すが、最初その指示を出したのが八坂だと気付かなかったのか、止まっている時間も惜しい剣士たちはすぐには止まらない。
 しかし、八坂の指示だと気付いたのか、少しずつ攻撃の手を止める者たちが増えていく。

「退けい!!」

「「「「「っ!! はいッ!」」」」」

 八坂の二度目の声に、さすがに全員気付いたのか、剣士たちはどんどんと蛇から距離を取っていった。

「キュウ!!」

【ハイッ!】

 剣士たちが全員離れたことを確認したケイは、先程の指示通りキュウに合図を送る。

“カッ!!”

「ッ!? シャッ!?」

 ケイの指示に従い放ったキュウの魔力が、蛇の目の前で閃光を放ち蛇の目をくらませる。
 思いがけない攻撃に、蛇はようやく足を止める。
 しかし、めがみえなくなったことに驚いたからか、長い巨体をドカンドカンと地面へ打ちつけ暴れ回る。
 どうやらピット器官のない蛇のようで良かった。
 ピット器官とは目で獲物を感知するというより、獲物が出す赤外線を感知して捕食するという夜行性の蛇が持っている三の目と呼ばれる器官だ。
 これがあった場合、キュウの閃光魔法をしたところで意味がなかったが、反応的を見る限りこの蛇にはなかったようだ。

「くらえ!!」

“ズドン!!”

 この瞬間ができるまでに、ケイはケイで準備をしていた。
 とは言っても、魔法の指輪からある武器を取り出しただけだ。
 出した武器はバズーカ。
 本当のバズーカを良く知らないので、中の原理はケイが使っている銃とそれほど大差がない。
 しかし、魔法はイメージが大事強力な威力を出すにはこの方がイメージしやすい。
 見た目はドッキリで使うようなバズーカだが、錬金術によって徹底的に強化しているのでかなりの高威力にも耐えられるはずだ。
 それを肩に担いで、蛇が移動を止めた瞬間を待っていた。
 巨大な的と化した蛇に向かって、ケイは凝縮した魔力を撃ち放った。

「ギジャーーー!!」

「チッ! 避けやがった……」

 ケイが放った強力な魔力の弾丸が飛んで行くと、蛇の体の一部を抉り飛ばす。
 脳天を狙った攻撃だったが、野性の勘か何かで危険を察知したのか、蛇は頭を動かして頭への直撃は回避した。
 だが、抉れた体からは大量の血を噴き出し、怪我を負った部分から下の動きが鈍っていく。

「すごい!」「なんて攻撃だ……」

 その一撃で蛇の7割もの部分が行動不能になったのを見て、剣士たちが驚愕の表情でケイを眺める。

「あとは目に気を付けて攻撃してください!」

「「「「「お、おぉ!!」」」」」

 体が言うこと聞かないのか、蛇はいづを止めて痛みに苦しんでいる。
 この状態の蛇なら、目から出す光線に注意すれば危険はないはず。
 ケイの指示を受けた剣士たちは、止めを刺しに蛇へ襲い掛かった。

「……もっと強化しないとだめそうだな」

 先程撃ったバズーカを見て、ケイは独り言を呟く。
 たった一発撃っただけなのに、かなりの熱を持ってしまっている。
 もう一発撃ってケイが仕留めたいところだが、次撃ったら暴発してしまいそうだ。
 改良の余地ありと判断し、魔法の指輪にバズーカを収納したケイは、剣士たち同様止めを刺しに動き出した。

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