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第10章
第227話
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「さてと……」
気を失った善貞を横にし、立ち上がったケイはある方向に視線を向ける。
「そろそろ出て来いよ!」
視線の先は、森の中なので樹々が生い茂っているが、人の姿はない。
しかし、ケイが何か勘違いした恥ずかしい人という訳ではない。
「んっ? バレてないと思ってるのか?」
同じ方向を見ながら、再度ケイは樹々に向かって声をかける。
いつまでも出て来ないので、独り言を言っているかのような空気になっているのが恥ずかしくなってきたケイは、もう力尽くで行こうかと考える。
“スッ!”
仕方がないので動こうとしたケイが一歩を踏み出す前に、樹の陰から1人の男が姿を現した。
「だれだっけ?」
「っ!?」
上重派の剣術部隊である隊長の坂岡源次郎。
ケイの前に現れたのは、その部下の義尚という男だ。
上から目線なうえに、カッとなって刀を抜いてきたから打ちのめした男だ。
そんなに時間も経っていないので顔も名前も憶えているが、気に入らない奴だというのはまだ変わっていない。
なので、ケイはわざと馬鹿にしたようなことを告げる。
すると、自分のことを打ちのめしたのにも関わらず、名前を憶えてもらえていないことに怒りが沸き上がり、目つきが完全に血走っている。
「…………」
「何か用か?」
姿を現した義尚は何を考えているのか分からず、ただ黙ってケイを睨みつける。
用がなければこんなことする訳がないとは分かっているが、義尚が口を開かないのでケイは仕方なく問いかけた。
「俺たちを見つけたことを上に伝えなくて良いのか?」
剣術部隊の下から姿を消した形になるケイたち。
元々、彼らは八坂への対抗のためにケイの戦闘力を利用しようとしていた。
口ぶりなどからいって、恐らく何か策を考えていたようだが、ケイが急にいなくなって中止したのかもしれない。
両方の様子を見たので、なんとなくだがそれぞれの色のようなものは分かった。
八坂を潰したい上重。
難癖付けて地位を落としたのにもかかわらず、八坂の方が市民からの人気が高い。
いつまで経っても目障りな八坂を、ケイたちのような係わりが無いような者たちによって密かに始末しようとしていたのかもしれない。
剣術部隊の邸内で、隊員とは思えないような人間を見かけたが、恐らく彼らも何らかの理由を付けて連れて来られた者たちだと思う。
パッと見たが、たいしたレベルの人間はいなかったようには思えるが。
「……確かに居なくなったお前たちを探して来いと言われてきた」
「どっちにも与さないから見逃せってのは通じないのか?」
思った通り、いなくなったケイたちを探しに来たようだ。
ケイたちがいなくなって一番困るのは、八坂側に付かれることだろう。
なので、ケイは揉め事に関わらないから見逃すように言ってみる。
「見つけてこいとは言われたが、生死の如何は言われていない。つまり、見つけた者の自由だ」
「……まさかやられた仕返しをするとか言うつもりか?」
刀を抜いたところを見ると、どうやら見逃してくれる気はないようだ。
町を出てから視線を感じ、そこで声をかける訳でもなく、森に入って行くのも黙って見ていた。
そして、姿を現した時からはビンビンに殺気を飛ばしていたのだから、その選択を取るというのはわかりきっていた。
「抜け!」
「実力差も分からないのか? お前なんて素手で大丈夫だっての……」
ちょっと前にワンパンでやられたことで、エリートと呼ばれる剣術部隊の人間ならケイとの実力差があることぐらいわかり切っているはずだ。
にもかかわらず、武器を構える時間を与えるなんて馬鹿としか言いようがない。
もしかして、ワンパンでやられた時は、魔闘術を発動していなかったからやられたとでも思っているのだろうか。
「貴様!」
刀を抜いて魔闘術を発動しているのなら、さっさと斬りかかってくればいいのにと思って、ケイが挑発がてら手招きすると、義尚は刀を構えてケイへ斬りかかった。
「チッ!」
殺気がこもった義尚の初撃を、ケイは難なく躱す。
近くには善貞が気を失って寝ているので、ここで戦ってると巻き込んでしまうかもしれない。
なので、ケイはキュウとクウに善貞を任せ、義尚を少しずつ別の方向へ誘導していく。
斬りかかった時には魔闘術を発動していなかったのに、一瞬で発動して攻撃を避けられたことに、義尚は舌打をする。
はっきり言って、それだけで実力差を分かるべきだ。
たしかに以前、不意打ちのように義尚を殴ったが、殴られる瞬間に魔闘術を発動できないような人間が実戦で通用する訳がない。
それだけで、剣術部隊がエリートと言っても義尚は下っ端の方なのだろうと分かる。
「どうした? 逃げるのはおしまいか?」
反撃をしないケイに対して、義尚は笑みの混じった表情をする。
ここまで来ると完全にピエロだ。
善貞のことを考えて離れる必要もなかったのかもしれない。
「馬鹿言ってんじゃ……」
“スッ!!”
義尚の笑みには自分の勝利を感じてのものかもしれないが、何を考えているかはケイの手の平の上だ。
挑発のようなもの言いをしてきた義尚へ話をしている最中、ケイの背後から男が静かに斬りかかって来る。
「……ねえよ」
「「っ!?」」
気配を消して待ち伏せしていたのかもしれないが、そんなのケイの探知からしたら見つけられない訳がない。
背後からの斬りつけも、ケイは軽く横に跳ぶだけで回避した。
「くそっ!」
「気付いていやがったか!?」
背後から斬りかかった男は、不意打ち攻撃の失敗に歯噛みし、義尚の方は上手く誘導できていたとでも
思っていたのだろうか。
ケイの方からすると、味方が潜んでいる所へ義尚が誘導しているのが分かりやすい攻撃だった。
内心、笑いそうになるのを我慢していたぐらいだ。
「……貴晴とか言ったっけ?」
奇襲をかけて来たのは、ケイたちを見張っているように言われていた貴晴という男だ。
ケイの中では、美味い鰻屋を紹介してくれた兄ちゃんというイメージが強いが、まんまと逃げられた貴晴は義尚と同様に面目ない状況に陥った。
その汚名を返上しようと、義尚と画策したのかもしれないが、相手が悪すぎる。
こんな下っ端2人が組んだところで、ケイに一撃加えることなんて出来る訳がない。
「おのれっ!」「この野郎っ!」
不意打ちに失敗した2人は、もう策がないのか、正面からケイへと斬りかかっていった。
相手がケイだからかもしれないが、はっきり言って、魔闘術をしているのに動きが遅い。
もしかしたら、魔闘術を使えるようになって間もないのかもしれない。
「遅っ!」
「ぐっ!?」「ごはっ!?」
こんなの相手に時間をかけているのがもったいないので、ケイは早々に終わらせることにした。
向かって来る義尚、貴晴の順に懐に入り、腹に一撃入れて離脱する。
2人とも、なすすべなく一撃を食らい、腹を抑えてその場に蹲る。
「返り討ちも想定して来たんだろ?」
「や、やめ……」「ひ、ひぃ~……」
“パンッ!”“パンッ!”
別に殴り殺すことも出来るが、手が汚れたら嫌なので、武器を使わないといったさっきの言葉を無視して、ケイは銃を抜いて2人の脳天に風穴を開けた。
【おかえり~!】「ワウッ!」
気を失って寝ている善貞の所に戻ると、従魔の2匹がケイに飛びついた。
「見張りご苦労さん」
飛びついてきた2匹を、ケイは撫でまわすことで労う。
【それは?】
「奴らが身に着けていたものだ。売れるかと思ってな……」
撫でられて気分が良くなったキュウは、ケイが片手に持った袋が気になった。
それに対して、ケイは簡単に答えを返す。
袋の中には義尚と貴晴が身に着けていた服と刀、それに財布が入っていた。
【……しゅじん、とうぞくみたい】
「酷いな。命を狙ってきた代償をもらっただけだ」
身ぐるみを剥いできたケイに、キュウは思ったことを口にする。
たしかにやってることが盗賊染みている。
そのツッコミに対し、ケイは平然としたように話す。
【したいは?】
「そこいらの魔物が処理してくれるだろ?」
ゾンビなどにならないように死体処理をしてきたにしては早すぎる。
そう思ってキュウが問いかけると、ケイは何でもないように答える。
本当はケイもいつも通りに火葬して処理しようと思ったが、森の中で魔物がちょこちょこ潜んでいるのが分かったので、そのまま放置してきた。
死んでまで雑な扱いをされ、可愛そうな2人組だった。
気を失った善貞を横にし、立ち上がったケイはある方向に視線を向ける。
「そろそろ出て来いよ!」
視線の先は、森の中なので樹々が生い茂っているが、人の姿はない。
しかし、ケイが何か勘違いした恥ずかしい人という訳ではない。
「んっ? バレてないと思ってるのか?」
同じ方向を見ながら、再度ケイは樹々に向かって声をかける。
いつまでも出て来ないので、独り言を言っているかのような空気になっているのが恥ずかしくなってきたケイは、もう力尽くで行こうかと考える。
“スッ!”
仕方がないので動こうとしたケイが一歩を踏み出す前に、樹の陰から1人の男が姿を現した。
「だれだっけ?」
「っ!?」
上重派の剣術部隊である隊長の坂岡源次郎。
ケイの前に現れたのは、その部下の義尚という男だ。
上から目線なうえに、カッとなって刀を抜いてきたから打ちのめした男だ。
そんなに時間も経っていないので顔も名前も憶えているが、気に入らない奴だというのはまだ変わっていない。
なので、ケイはわざと馬鹿にしたようなことを告げる。
すると、自分のことを打ちのめしたのにも関わらず、名前を憶えてもらえていないことに怒りが沸き上がり、目つきが完全に血走っている。
「…………」
「何か用か?」
姿を現した義尚は何を考えているのか分からず、ただ黙ってケイを睨みつける。
用がなければこんなことする訳がないとは分かっているが、義尚が口を開かないのでケイは仕方なく問いかけた。
「俺たちを見つけたことを上に伝えなくて良いのか?」
剣術部隊の下から姿を消した形になるケイたち。
元々、彼らは八坂への対抗のためにケイの戦闘力を利用しようとしていた。
口ぶりなどからいって、恐らく何か策を考えていたようだが、ケイが急にいなくなって中止したのかもしれない。
両方の様子を見たので、なんとなくだがそれぞれの色のようなものは分かった。
八坂を潰したい上重。
難癖付けて地位を落としたのにもかかわらず、八坂の方が市民からの人気が高い。
いつまで経っても目障りな八坂を、ケイたちのような係わりが無いような者たちによって密かに始末しようとしていたのかもしれない。
剣術部隊の邸内で、隊員とは思えないような人間を見かけたが、恐らく彼らも何らかの理由を付けて連れて来られた者たちだと思う。
パッと見たが、たいしたレベルの人間はいなかったようには思えるが。
「……確かに居なくなったお前たちを探して来いと言われてきた」
「どっちにも与さないから見逃せってのは通じないのか?」
思った通り、いなくなったケイたちを探しに来たようだ。
ケイたちがいなくなって一番困るのは、八坂側に付かれることだろう。
なので、ケイは揉め事に関わらないから見逃すように言ってみる。
「見つけてこいとは言われたが、生死の如何は言われていない。つまり、見つけた者の自由だ」
「……まさかやられた仕返しをするとか言うつもりか?」
刀を抜いたところを見ると、どうやら見逃してくれる気はないようだ。
町を出てから視線を感じ、そこで声をかける訳でもなく、森に入って行くのも黙って見ていた。
そして、姿を現した時からはビンビンに殺気を飛ばしていたのだから、その選択を取るというのはわかりきっていた。
「抜け!」
「実力差も分からないのか? お前なんて素手で大丈夫だっての……」
ちょっと前にワンパンでやられたことで、エリートと呼ばれる剣術部隊の人間ならケイとの実力差があることぐらいわかり切っているはずだ。
にもかかわらず、武器を構える時間を与えるなんて馬鹿としか言いようがない。
もしかして、ワンパンでやられた時は、魔闘術を発動していなかったからやられたとでも思っているのだろうか。
「貴様!」
刀を抜いて魔闘術を発動しているのなら、さっさと斬りかかってくればいいのにと思って、ケイが挑発がてら手招きすると、義尚は刀を構えてケイへ斬りかかった。
「チッ!」
殺気がこもった義尚の初撃を、ケイは難なく躱す。
近くには善貞が気を失って寝ているので、ここで戦ってると巻き込んでしまうかもしれない。
なので、ケイはキュウとクウに善貞を任せ、義尚を少しずつ別の方向へ誘導していく。
斬りかかった時には魔闘術を発動していなかったのに、一瞬で発動して攻撃を避けられたことに、義尚は舌打をする。
はっきり言って、それだけで実力差を分かるべきだ。
たしかに以前、不意打ちのように義尚を殴ったが、殴られる瞬間に魔闘術を発動できないような人間が実戦で通用する訳がない。
それだけで、剣術部隊がエリートと言っても義尚は下っ端の方なのだろうと分かる。
「どうした? 逃げるのはおしまいか?」
反撃をしないケイに対して、義尚は笑みの混じった表情をする。
ここまで来ると完全にピエロだ。
善貞のことを考えて離れる必要もなかったのかもしれない。
「馬鹿言ってんじゃ……」
“スッ!!”
義尚の笑みには自分の勝利を感じてのものかもしれないが、何を考えているかはケイの手の平の上だ。
挑発のようなもの言いをしてきた義尚へ話をしている最中、ケイの背後から男が静かに斬りかかって来る。
「……ねえよ」
「「っ!?」」
気配を消して待ち伏せしていたのかもしれないが、そんなのケイの探知からしたら見つけられない訳がない。
背後からの斬りつけも、ケイは軽く横に跳ぶだけで回避した。
「くそっ!」
「気付いていやがったか!?」
背後から斬りかかった男は、不意打ち攻撃の失敗に歯噛みし、義尚の方は上手く誘導できていたとでも
思っていたのだろうか。
ケイの方からすると、味方が潜んでいる所へ義尚が誘導しているのが分かりやすい攻撃だった。
内心、笑いそうになるのを我慢していたぐらいだ。
「……貴晴とか言ったっけ?」
奇襲をかけて来たのは、ケイたちを見張っているように言われていた貴晴という男だ。
ケイの中では、美味い鰻屋を紹介してくれた兄ちゃんというイメージが強いが、まんまと逃げられた貴晴は義尚と同様に面目ない状況に陥った。
その汚名を返上しようと、義尚と画策したのかもしれないが、相手が悪すぎる。
こんな下っ端2人が組んだところで、ケイに一撃加えることなんて出来る訳がない。
「おのれっ!」「この野郎っ!」
不意打ちに失敗した2人は、もう策がないのか、正面からケイへと斬りかかっていった。
相手がケイだからかもしれないが、はっきり言って、魔闘術をしているのに動きが遅い。
もしかしたら、魔闘術を使えるようになって間もないのかもしれない。
「遅っ!」
「ぐっ!?」「ごはっ!?」
こんなの相手に時間をかけているのがもったいないので、ケイは早々に終わらせることにした。
向かって来る義尚、貴晴の順に懐に入り、腹に一撃入れて離脱する。
2人とも、なすすべなく一撃を食らい、腹を抑えてその場に蹲る。
「返り討ちも想定して来たんだろ?」
「や、やめ……」「ひ、ひぃ~……」
“パンッ!”“パンッ!”
別に殴り殺すことも出来るが、手が汚れたら嫌なので、武器を使わないといったさっきの言葉を無視して、ケイは銃を抜いて2人の脳天に風穴を開けた。
【おかえり~!】「ワウッ!」
気を失って寝ている善貞の所に戻ると、従魔の2匹がケイに飛びついた。
「見張りご苦労さん」
飛びついてきた2匹を、ケイは撫でまわすことで労う。
【それは?】
「奴らが身に着けていたものだ。売れるかと思ってな……」
撫でられて気分が良くなったキュウは、ケイが片手に持った袋が気になった。
それに対して、ケイは簡単に答えを返す。
袋の中には義尚と貴晴が身に着けていた服と刀、それに財布が入っていた。
【……しゅじん、とうぞくみたい】
「酷いな。命を狙ってきた代償をもらっただけだ」
身ぐるみを剥いできたケイに、キュウは思ったことを口にする。
たしかにやってることが盗賊染みている。
そのツッコミに対し、ケイは平然としたように話す。
【したいは?】
「そこいらの魔物が処理してくれるだろ?」
ゾンビなどにならないように死体処理をしてきたにしては早すぎる。
そう思ってキュウが問いかけると、ケイは何でもないように答える。
本当はケイもいつも通りに火葬して処理しようと思ったが、森の中で魔物がちょこちょこ潜んでいるのが分かったので、そのまま放置してきた。
死んでまで雑な扱いをされ、可愛そうな2人組だった。
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