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第10章

第222話

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「……聞いていた通り、でっかい町だな」

【そうだね!】「ワンッ!」

「…………」

 奧電の町はかなり発展しており、多くの人でごった返している。
 賑わう人の群れを見つつ、ケイと従魔たちは観光を楽しみ始めた。
 そんな中、善貞だけが浮かない表情をしている。





 坂岡源次郎の誘いを受け、奧電へと辿り着いたケイたち一行。
 馬が引く荷車に乗っているだけで、道中はずいぶん楽をさせてもらった。
 過酷な山越えという話はどこへ行ったのやら。

「そろそろ我々はお暇したいのですが……」

 奧電の番所のようなところへ連れていかれ、一部屋与えられたケイたち。
 待遇としてはありがたいのだが、裏の狙いを知っているだけにあまり居心地がいいとは言えない。
 一応名目としては、事後処理にケイたちの証言を加えたいからと言っていたが、そんなのがいつまでも通用する訳ない。
 数日この邸内で過ごしていたが、証言なんて聞いてくることもなく、全く持っている意味がない。
 流石に飽きたので、そろそろ出て行きたいと思い、ケイはたまたま目通り叶って源次郎に会うことができたため、出て行きたい旨を伝えたのだった。

「いや、すまんな。今回の事件の報告をしたら、お主たちへの褒美を用意するとのお達しが出てな」

『そう来たか……』

 目通り出来たのも、ケイにこれを言うためだったのかもしれない。
 いつまでも事件の証言者で引っ張れるわけがない。
 新たに理由をでっちあげて、ケイたちをここにとどめておきたいのだろう。

「上もどれだけ出すかで揉めて、なかなか決まらないらしい。だからもう少しだけいてもらえるとありがたい」

 「褒美なんていらない!」と言いたいところだが、何か日向に来た記念に貰っておきたい気もする。
 なので、もう少しいてもいいかなとケイは悩む。

「じゃあ、いつまでもお世話になる訳にもいかないので、せめて宿へ……」

「それには及ばん。ここに泊まっていればいい」

 泊っている宿を伝え、褒美が出てからそこから受け取りに来ればいいだけの話。
 だから、この町から出なければいいだろうと、宿への移動を進言しようとしたのだが、話が終わる前に源次郎は言葉を被せて来た。

「えっ!? 宜しいのですか?」

「それほど長期勘になる訳ではないからな。お主たちは気にする事無くここにいてくれればいい」

 つまり、何か起きるにしても、そう遠くない時期だということなのだろうか。

『なんか必死だな……』

 よっぽど相手が面倒なのだろう。
 何だか源次郎の言葉や態度に、必死さが見え隠れしている。

「じゃあ、お世話になります!」

「おぉ、ありがたい!」

 好待遇なのに断ると、源次郎たちの現状を察しているということがバレるかもしれない。
 日向に来てまだたいして日数も経っていないのに、大陸横断時のように追われる立場になるのは嫌だ。
 なので、ケイはまだここにいることにした。

「しかし、せっかく奧電に来たのですから、町の観光に行ってもいいですか?」

「何っ?」

 ここにまだいるというのは受け入れてもいいが、何もせずにじっとしているのもつまらないので、町の中を見て回りたい。
 この邸に向かう途中で、うなぎ屋のいい匂いがしていた。
 ケイも島で釣ったウツボを使って蒲焼もどきを作ったりしたが、匂いを嗅いでしまうとやっぱり鰻のかば焼きが食べてみたくなった。
 それが頭から離れないため、観光もかねて食べに行きたい。

「そうか……、ケイは異国から観光に来たのだったな?」

「えぇ」

 源次郎からしたらケイにはここにいてもらいたいのだろうが、四六時中何もせずにいれば外出をしたいと言い出すのは当然のことだ。
 ここで寝泊まりするのは了承しているのだから、流石にこれは断れないはず。

「この者を付ける。案内役に使うと言い」

「……ありがとうございます」

 源次郎の紹介によって、1人の男がケイに頭を下げる。
 態度の悪い義尚でなかったため、ケイは胸をなで下ろす。
 たしか貴晴たかはるとか言われていた男だ。
 案内役とはいっているが、要するに見張り役ということだろう。
 断ってもいいのだが、これ以上余計なやり取りをして外出できなくなったらつまらない。
 ケイは内心渋々貴晴の動向を受け入れたのだった。





 そして、冒頭に戻る。

「何で奴の思い通りに動くんだ?」

 浮かない表情の善貞は、少し前を歩く貴晴に聞こえないような大きさの声でケイに問いかける。 
 無駄にしゃべって自分のことがバレないように、善貞はあった時とは反対に喋らなくなっていた。
 恐らく、源次郎側とは何かあったのかもしれない。
 ケイもそのことは分かっているので、理由を聞かないでいる。

「あんま気にすんなって! まだ何も命令されていない状況なんだから……」

 善貞の問いに、ケイは軽い口調で返す。
 宿も食事もほぼタダ。
 こんな状況はケイとしても楽でいい。
 お金はあるが、少しの間暮らせるくらいだ。
 魔物を狩れば、資金はすぐに手に入れることはできるが、近隣の魔物はなかなか金になりそうにないものばかり。
 無駄な手間がかからないので、今はこのままでも構わないと思っている。

「まさか、お前は奴らに付くのか?」

「そんなわけないだろ」

 源次郎のことは別に嫌いではないが、別に好きでもない。
 世話になっているので、少しくらいは何かしてやってもいいが、キュウを使って盗み聞きした内容から察するに何かお家騒動のようなことが起きているように思える。
 そんなのに関わり合うのは勘弁だ。

「お前はどっちなんだ?」

「……………」

 ケイに自分がした質問を返され、善貞は無言でうつむいた。
 源次郎たちとの関わり合い方から、恐らく善貞の家も関係しているのだろう。
 家名を隠しているし、豪華な拵えの鞘だとか、かなりの容量を内包できる魔法の指輪なんかを合わせて考え、ケイはそう判断していた。

「確か八坂家とか言ったか?」

「…………………」

 ケイが源次郎が言っていたという家の名前を言うと、善貞は更に黙りこくった。
 そんな反応したら、肯定しているのも同然でしかないではないか。

「まぁ、俺はどっちでもねえな。ただの旅行者だし」

 軽い口調で言うが、これはケイの本心だ。
 今の所、どっちがどうという訳も知らない。
 善貞から密かに聞いた話だと、市民には矢坂の方が人気があるとかという話だが、人気があるから正しいという多数決という名の暴力に従うつもりはない。
 関わるならどっちがどういう理由で動いているのか、理由を知った上で動くつもりだ。

「……バケモンみたいな奴が「ただの」なもんか!」

「失礼な……」

 ケイの出した答えに、善貞も納得した。
 彼は別に関わらないという選択もできる。
 善貞からしたら、関わりたくても関われないという事情があるため、ケイの自由さが羨ましく感じた。

「着きましたよ!」

 2人の会話に気付かない貴晴は、ケイの要望だった鰻屋に案内してくれたのだった。

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