エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第9章

第209話

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「大丈夫かい? おやっさん」

「あぁ、あんたの回復薬は結構効くな……」

 エルナンとプロスペロの2人を駐在兵へと引き渡した後、ケイたちは2人に怪我をさせられた人たちの回復へ向かった。
 ケイなら魔法でも回復できるが、怪我人も多いし疲れるので、回復薬中心で行くことにし、現在は宿屋の店主に回復薬を飲ませていたところだ。
 別にケイが悪いわけではないためここまでする理由はないのだが、さすがに見てみぬふりもできなかったのだ。
 ケイが借りていた部屋の鍵を渡さなかったことで怪我をしてしまった宿屋の店主も、ケイ特製の回復薬によって復活した。
 治った店主は、村で作られている回復薬よりも性能が良いことに感心していた。
 他に怪我をした村人たちには、アウレリオに配るのを手伝ってくれたのもあって、大体の人の治療が済んだ。
 残りは大きな怪我をしている様子もないので、自分たちで手当てしてもらうよう放置した。
 とりあえず死人が出なかったのは良かったが、四肢の一部を失ってしまった人が数人いたため、ケイはエルナンたちにもう数発弾丸を撃ち込んでおけば良かったと密かに思った。

「ハッ!!」

「おぉ! スゲエな……」

 予定では今日のうちに村から出て行くつもりだったが、エルナンたちのせいでもう一泊することになってしまった。
 とは言っても、泊まっていた部屋を壊されてしまった。
 そのため、店主は他の宿に泊まることを勧めてくれたのだが、店主が作る夕食が美味くて結構気に入っている。
 なので、ケイは土魔法を使って壁を作り直し、外見からは壊れたようには見えなくなった。
 それを見ていた店主は、ケイの魔法の凄さに驚き、改修費が浮いたことに喜んでいた。





「よう! 今日こそお別れだな……」

「あぁ……」

 翌日、村の門を出てすぐの所で待っていたアウレリオに会い、ケイは別れを告げる。
 それにアウレリオも短い言葉を返すのだが、表情が暗い。
 待ち伏せしていたのもあるし、ケイに何か言いたい事でもあるようだ。

「ハァ……」

 その表情を見なくても、ケイは何が言いたいのか予想はつく。
 なので、ケイはため息を吐き、自分から言うことにした。

「もう分かっていると思うが、俺はお前を騙していた……」

「…………」

 そう言って、ケイは変装用のマスクを取って見せる。
 そのマスクの下の顔を見て、アウレリオは無言で納得の表情をする。
 エルナンたちと同様に、アウレリオもキュウを探していた。
 ケイが隠していたのもあって姿を見なかったし、連れていたのも猫だったはず。
 何か違和感があったが、ケイの顔が依頼書とは違っていたので一旦引いたが、やはり自分の直感通り、マスクを取ったケイは依頼書通りの顔をしていた。

「バレた以上、トンズラさせてもらおうと思うが……」

「頼む!」

 ケイの言葉を遮るようにして、強い口調と共にアウレリオは深く頭を下げる。

「そのケセランパサランが大切なのは分かる。だが、そいつを俺に譲ってくれ!」

「断る!」

 依頼書の魔物を見つけたのだから、当然達成のために連れ帰りたい。
 特に、アウレリオにとっては妻のベアトリスを救うためにも何としても手に入れたい。
 力で無理やりとしたいところだが、この10日でケイの実力は嫌という程理解したつもりだ。
 とてもではないが、無理やりなんてことは不可能だ。
 そのため、アウレリオに残った方法は頼み込むしかない。
 しかし、思った通りに言って来るアウレリオの言葉を、ケイはあっさりと拒絶する。

「キュウは譲れないが、お前に渡す物がある」

「……俺にくれる物?」

 ケイの拒絶の言葉を聞き、絶望にも近い表情をしたアウレリオだが、その後の言葉に意外そうな顔へと変わる。
 自分が何か貰う理由が、思いつかなかったためだ。

「これはっ!?」

 顔を上げたアウレリオへ、ケイは魔法の指輪から袋を取り出す。
 両手で持たなければならないほどの大きさの袋を渡され、アウレリオはその袋を少し開けて中身を覗き込む。
 その中身を見た瞬間、彼は目を見開いた。

「何でこんなに……?」

 その袋の中には、大量の赤い実が詰まっていた。
 その赤い実には見覚えがある。
 妻のベアトリスの病の症状を抑えるために必要となる薬の一種で、特に入手が困難なエスペラスの実だ。
 エスペラスの生息域は解明されておらず、見つけたとしても入手に行くのが危険な所ばかりで、取りに行く者も僅かしかいない。
 その入手が困難な実が、これだけ大量にあるなんて信じられない。

「ここ数日でこれだけ集めるのは大変だったぜ……」

「数日で集めた?」

 驚いているアウレリオは、ケイが何となしに呟いた言葉に反応する。
 これだけ集めたのだから、何十年と集めたのかと考えたのだが、ニュアンスからいって、まるで最近採取に行ったかのようだ。

「探すにしてもどこに生えているか分からないのに……」

「ほれ!」

 どうやって手に入れたのか聞こうとしたアウレリオに、ケイは小さいメモ用紙をポケットから出して渡す。

「活火山? 火山活動が活発な方が良い?」

 メモ用紙には、エスペラスが生息している可能性が高い場所の条件が書かれていた。
 これが本当なら、まだ誰もその生息域を解明していないというのに、ケイがそれを発見したということになる。

「まだ絶対とは言えないが、そのメモの条件通りに探せば見つけられるはずだ。もしもその袋のエスペラスが足りなかったら、探しに行くと良い……」

 何度もそのメモを見つめるアウレリオに、ケイは告げる。

「ちょっと危険だが、お前なら大丈夫だろう?」

 条件通りに探すとなると、ガスや地形などから普通の人間では危険すぎる。
 しかし、元とはいえ高ランクの冒険者のアウレリオなら、対策を立てて挑めば平気なはずだ。

「欲張って噴火寸前の山に登るなんてするなよ!」

 最後にケイは軽い口調で注意をしておく。
 妻のためなら何でもする。
 ケイにもその気持ちが分かるが、無茶をしてアウレリオが命を落としては元も子もない。
 この数日ケイが集めた分だけでも恐らく治るとは思うが、一刻も早くと焦って、無茶をしないとも限らなかったからだ。

「ありがとう! あり…が……とう!」

 手渡された袋とメモを大事そうに抱えながら、アウレリオはまた深くケイに頭を下げる。
 しかも、何度も何度も行い、段々と涙を流し始めた。
 これだけの数のエスペラスの実があれば、ベアトリスを救うことができるはず。
 メモは保険としての意味でくれたのだろう。
 何年もの間アウレリオたち夫婦を苦しめてきたドロレス病。
 ベアトリスは当然として、その介護をすぐ側でしてきたアウレリオも心が弱っていたらしい。
 それからようやく解放されると思い、張り詰めていたものが切れてしまったのだろう。

「泣くなよ! ……カミさん大事にしろよ」

「あぁ!! ありがとう!!」

 嬉し泣きをした上に何度も感謝され、ケイは気恥ずかしくなる。
 いつまでもそうしていそうな気がしたので、ケイはアウレリオに背を向けて次の町へ向かおうと歩き出した。
 その背中に、アウレリオはまたも頭を下げる。
 自分はできなかったが、アウレリオには愛する人を救ってほしい。
 美花のことを思いだし、少し表情を暗くしたケイは、アウレリオの方へ顔を向けることなくそのまま歩みを進めていったのだった。

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