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第9章

第208話

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「アウレリオ!」

「んっ?」

 エルナンから受け取ったカギによって、ミスリル製らしき金属で出来た小さな檻に入れられていたキュウが解放された。
 しかし、キュウは攻撃を受けて大怪我を負っており、かなり辛そうに息をしている。

「キュウにこれを飲ませてやってくれ!」

「回復薬か?」

 そう言って、ケイは魔法の指輪から取り出した物をアウレリオに投げ渡す。
 受け取ったアウレリオが言ったように、渡したのは回復魔法だ。
 ケイが作った回復薬で、そこら辺の店で買うのよりも良い出来になっている。

「ほいっ! 飲め!」

「っ!?」

 全身毛玉でどこだか分かりづらかったが、アウレリオは受け取った回復薬をキュウの口へと持って行く。
 小さいので、回復薬をちょっとずつ口に含んで行くキュウ。
 飲んだ量が増えていくごとに、キュウの体の怪我が少しずつ回復していき、辛くて閉じていた目も開いていく。

「おっと!」

【しゅじん!】

 回復薬のビンを一本空けると、キュウの怪我は完全に治ったようだ。
 完全に痛みが引いたキュウは、アウレリオの手から飛び降り、魔法を使ってケイの胸へと飛び込む。
 アウレリオにとって、キュウは一応捕獲対象である。
 それがせっかく手にあったのに、離れて行ってしまったため、アウレリオは若干複雑な心境になる。

「大丈夫か? まだおとなしくしてろよ」

【うん!】

 胸へと飛んできたキュウを右手で受け止め、ケイは優しく話しかける。
 そして、元気に返事をするキュウを胸のポケットに入れてあげる。
 最近では定位置になりつつある場所に入り、キュウも何だか嬉しそうだ。

「おいっ! もういいだろ? プロスペロを治療するから武器をしまえよ!」

「あぁ、そうだったな……」

 キュウが解放されて怪我も治ったのだから、もう自分たちには用はないはず。
 そう思ったエルナンは、相棒であるプロスペロのことを心配する。
 ケイの足下にいるプロスペロは、痛みと出血で顔色が少し悪くなっている。
 このまま放って置いたら命も危ない。
 心配するのも当然かもしれない。
 エルナンが戦う意思がないことを示す為なのか、魔法の指輪に収納したのを見て、ケイはプロスペに銃を向けるのをやめて距離を取った。

「プロスペロ!」

“パンッ!”“パンッ!”

「うがっ!?」

 ケイがアウレリオの方に向かうのを見て、エルナンはプロスペロのところへと駆け寄る。
 その時、無防備のエルナンの両足へ銃口を向け、ケイは引き金を引いた。
 戦う意思がないと示すように武器をしまったのにもかかわらず銃弾を受けたエルナンは、太腿に穴を開けて倒れ込む。

「て、てめえ! 何しやがる!?」

 怪我の痛みで立ち上がれず、上半身だけを起こしたエルナンは、当然ながら抗議の声をあげる。
 無防備の人間に攻撃するなんて、信じられないと言いたげな目をしている。

「お前ら宿屋の主人とその周辺の家の人たちを大怪我させたよな?」

 エルナンたちは、恐らくアウレリオがここ数日会っているというケイに目を付けたのだろう。
 ケイがどんな男だか知らないが、アウレリオが意味なく時間を使う相手なら、何かしら直感が反応したのだろう。
 一緒に冒険者として仕事をしていた時、何度かその直感に助けられたこともある。
 その直感を、アウレリオ以上に信用していた2人は、ケイの部屋へ侵入することを決意したのだろう。
 そして、アウレリオがケイといなくなっている間に宿屋へと向かい、ケイの寝泊まりしている部屋のカギを出すように言ったのだろう。
 しかし、当然のように宿屋の主人は断ったため、2人は力尽くで主人からカギを奪い取った。
 その時、抵抗した主人は大怪我を負ったらしい。
 その後、窓から逃げたキュウたちを追う時、窓を壊したのを見られたとかいうくだらない理由で魔法をぶっ放したと住民たちが言っていた。
 何とか死人が出なかったのは良かったが、多くの怪我人を出した張本人であるエルナンたちに対し、村人たちは怒り心頭だった。

「彼らにお前らを捕まえてくれって頼まれたんだよ」

 煙の上がる宿屋に、外から戻ってきたケイが着くと、ケイは村人にどうしてこうなったのかを聞いた。
 理由を聞いて、暴れたその2人がどっちへ行ったか聞いた時、ケイは村人たちの代わりにぶっ飛ばしてきたやると約束したのだ。

「自分たちが好き勝手して、他の人間には同じことをされたくないって言うのは我が儘すぎるだろう? 自分がしたことは自分もやられるかもしれないということを考えないとな?」

「クッ……」

 たしかに自分勝手に行動し、多くの村人に怪我をさせた。
 その報復が来ると言う可能性は全く頭になかった。
 それもそのはず、自分たちが高ランクの冒険者だからだ。
 その高ランク冒険者の自分たちをあしらう人間が、こんな所にいると思わなかった。
 今更ながらに後悔し、エルナンはバツが悪そうに顔をうつ向く。

“パンッ!”“パンッ!”

「ガッ!?」

「これで抵抗できないだろ?」

 後悔したからと言って、それで許すわけがない。
 ケイはエルナンの両腕を撃ち抜き、動けないようにしてやった。

「このまま村人たちに渡してもいいが、このままだと2人とも死ぬな……」

 恐らく、怪我を負ったり、家族を傷つけられた村人たちは、怒りを2人へぶつけるだろう。
 そうなると、言葉だけではなく物理的という場合もある。
 村人の暴力で死ぬ可能性もあるが、ケイによって受けた怪我による出血多量死という可能性が高い。
 流石に血を止めずに渡す訳にはいかないため、ケイは土魔法で作った紐で2人を縛り上げ、その後、血が止まる程度の回復魔法をかけたやった。
 多めの魔力でケイが作り上げた特製の紐だ。
 抵抗しても、脱出できることはないだろう。

「駐在兵にでも渡しに行くか?」

「そうだな」

 村人に渡すにしても、怒りに任せて2人を殺してしまうかもしれない。
 それはそれでケイたちのせいではないので構わないのだが、10日ほどの滞在だが、ここの人たちには結構良くしてもらった思いもある。
 彼らを人殺しにするのは気が引けるので、アウレリオが言うように、国からこの村に派遣されている駐在兵に渡して、後のことは任せることにしたのだった。

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