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第9章

第206話

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「おいおい、何構えてんだ?」

「もしかして俺たちと戦おうってのか?」

「………………」

 アウレリオが武器を構えたのを見て、エルナンとプロスペロは警戒心を高めつつ問いかけてくる。
 ただ、隙を見せたらすぐにでも攻撃をできるように、アウレリオは返事をせず2人を見つめる。
 しかし、ふざけているようでも、2人とも高ランク冒険者。
 アウレリオが動いた時の事を考えて、いつでも対応できるように隙を作らない。

「マジかよ?」

「一線から引いてたお前が、俺たちに勝てるわけないだろ?」

 キュウの入った檻をプロスペロに渡す。
 片手が塞がるが、遠距離戦闘タイプのプロスペロなら十分なためだ。
 そして、エルナンは槍をアウレリオに向ける。

「やってみないと分からないだろが!?」

「「なめんなよ!」」

 お互いが殺気を放ち、一触即発の空気が流れる。



「おいっ!!」

「「「……?」」」

 キュウを捕まえるために魔法をぶっ放した利していたため、住人たちも逃げて行き、人がいなくなったはずの村はずれで、ピリピリした空気が流れる中、突如話しかけてくる者が現れる。
 空気の読めない奴がいるなと、アウレリオたち3人が声がした方をチラッと見る。

「……ケイ!?」

 声をかけてきた人間の顔を見て、アウレリオの殺気が引っ込む。
 現れたのがケイだったからだ。

「なんだ? こいつ?」

「関係ないやつは引っ込ん……」

 エルナンとプロスペロの方はケイのことなど知らないため、近付いてくるケイに睨みを利かす。
 それでも近付くケイに対して槍を向け、脅しをかけようとしたエルナンだったのだが、その言葉が言い終わる前にケイを見失う。

「おいっ! キュウ! 大丈夫か!?」

「「っ!?」」

 姿を見失ったと思ったら、ケイはいつの間にかアウレリオの近くへと移動しており、いつの間にかキュウの入った檻に話しかけている。
 何が起きたのか分からないエルナンとプロスペロは、目を見開いて驚く。

「クゥ~ン!」

「…………」

「良かった! 生きてる!」

 少し離れた所からケイについてきていたクウも、ケイの側に駆け寄り、檻の中のキュウを見つめる。
 ケイを呼びに行くためとはいえ、キュウを置いて行くことになり、結果大怪我を負っているキュウを見て悲しそうな鳴き声を上げている。
 ケイとクウの声に反応したのか、檻の中のキュウが僅かに動く。
 それを見たケイは、ホッと息を吐く。
 大怪我を負っているが、何とか生きているようだ。
 これなら回復魔法をかけることで助けることができすだろう。

「あっ!?」

「いつの間に……」

 ケイがキュウの入った檻を持っていることにワンテンポ遅れて気が付いたエルナンたちは、驚きと共に怒りの表情をケイに向ける。

「テメエ!! 返しやがれ!!」

「こいつは俺の従魔だ!」

 持っていた檻をいつの間にか取られていたため、プロスペロが取り返そうとケイに向かって近付いていく。
 しかし、ケイが言った言葉を聞いて足を止める。

「フカシこいてんじゃねえぞ!」

「全然顔が違うじゃねえか!?」

 自分の従魔だというケイの言葉に、エルナンたちは手配書を取り出して、描かれた顔と目の前の男の顔を見比べる。
 しかし、その2つの顔は全く似ていない。
 ケイは変装用のマスクをしているのだから当然だ。

「何だこの檻?」

「……ミスリル製の檻だ。このケセランパサランが魔法を使うと聞いて用意されたものだ」

 2人のツッコミを無視するように、ケイはキュウの檻の扉を開けようとする。
 しかし、力でこじ開けようにも、うんともすんともいわない。
 困っているケイに対し、側にいるアウレリオが檻の説明をする。
 特殊な金属によって作られた檻で、キュウの魔力を使えないようにする物らしい。

「おい! この檻のカギ寄越せ!」

 カギがかかっており、魔力が使えなくてはケイでは開けるのは難しそうだ。
 仕方がないので、エルナンたちへカギを寄越すように手を向ける。

「馬鹿か?」

「渡すわけねえだろ!」

 折角捕まえたというのに、カギを開けられたら意味がない。
 2人は当然ケイの言葉を拒否する。

「しょうがないな……、クウ!」

「ワン!」

 どうするか考えたケイは、クウに呼びかける。
 それに返事をし、クウはケイの前でお座りをする。

「こいつ持ってろ!」

「ワン!」

 これからのことを考えると、この檻を持ったままだと中のキュウがしんどい思いをさせるかもしれない。
 そう思い、ケイは檻の上部につけられた取っ手の部分を、クウに咥えさせて持たせた。

「この犬このも……」

 手配書を出し、キュウだけでなくクウのことも確認したアウレリオは、密かに呟いていた。
 完全に手配書通りの姿だ。

「アウレリオはどうするんだ?」

「えっ!? …………お、俺はお前と争う気はない」

 キュウとクウのことを静かに気にしていたアウレリオに、ケイは突然話しかける。
 鋭い目付きを見る限り、ケイは自分に敵対するのかどうかという質問を投げかけてきたと分かる。
 ケイの実力をこの10日で分かっているつもりなので、アウレリオは敵対する木など消え失せていた。
 そのため、アウレリオは戸惑いながらもそのことを告げた。

「じゃあ、こいつら見ててくれ」

「わ、分かった」

 アウレリオの言葉をあっさりと受け入れたケイは、檻の中のキュウとその檻を咥えたクウを見ていてくれるように頼む。
 敵対するという選択をするかもしれない相手に、あっさりと保護を頼むなんて、拍子抜けの感が否めない。
 しかし、ケイに聞きたい事があるアウレリオは、逃げられるくらいならとケイの頼みを聞き入れたのだった。

「何だ?」

「やんのか?」

 武器を抜き出して自分たちの前に立ったケイに、エルナンたちは戦闘態勢に入る。
 どうやら、この2人にはアウレリオのような直感がないらしく、ケイの強さを表面的にしか見てないのか、どこか舐めたままの態度でいる。

「痛めつけてカギを出させる」

「…………はっ? 何言ってんだ?」

「気でも触れちまったのか?」

 ストレートにいうケイの言葉に、エルナンたちは馬鹿にしたように問いかける。

“パンッ!”“パンッ!”

「「っ!?」」

「おぉっ! 上手く避けたな?」

 ケイの両手の銃から放たれた弾丸に、エルナンたちは驚きと共に回避の行動をおこなう。
 顔面ギリギリの所を通り過ぎるように、2人は何とかその攻撃を避けることができた。
 結構近い距離なのに弾を躱したため、ケイは上から目線で2人の反射速度を褒めた。

「ヤバいぞ!」

「あぁ……」

 たった一回の攻撃で、ケイが危険な相手だと判断したエルナンたちは、マジな顔をして言葉を交わす。

「どっちでも良いからカギ出せや!」

 キュウに大怪我を負わせた2人に対し、かなり怒りが湧いているケイは、ドスの利いた声で言いながら両手の銃をそれぞれに向ける。
 内心では、2人をただで済ますつもりはない。
 キュウの怪我を早く治したいケイは、久々に本気の一端を見せることにしたのだった。

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