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第9章

第200話

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「…………見つかんないな」

【そうだね……】「ワウ~……」

 エスペラスを探すことを始めたケイたちだったが、3日経っても見つからずにいた。
 見つからないことに若干つまらなそうに呟くケイ。
 そして、ケイの呟きに従魔のキュウとクウも同意する。
 島ではよく見る植物のため、ケイたちはなんだかんだ言っても見つけられると思っていた。
 しかし、蓋を開ければ全然見つかる気配がない。
 キュウを見た魔物が獲物と思って襲い掛かって来て、動かない肉の塊が増えるだけだった。
 アンデッド化しないように焼却する時間がかかり、とても面倒くさい。

「本当に貴重なんだな……」

【島だったらすぐ目に付くのにね】

 キュウが言うように、ケイたちが住むアンヘル島には多く自生している。
 しかし、アウレリオの話だと、人族大陸ではどういう訳だかエスペラスの樹がなかなか成長しないらしいが、これだけ見つからないということは本当に貴重な植物になっているようだ。

「………………」

【どうしたの?】「ワウッ?」

 キュウの言葉を聞いた後、ケイは急に足を止めて無言で考え込む。
 急に動かなくなったケイに、キュウたちは不思議そうに問いかける。

「…………島だったら?」

 クウの鼻を頼りにしつつ探していたケイたちだったが、元々そんなに匂いがしない樹と実。
 生えていたとしても近くでないと、クウは反応しないだろう。
 探すにしても、何かしらのヒントがないかと考えてはいたのだが、キュウの先ほどの言葉でなんか引っかかった。
 何度も言うように、エスペラスはアンヘル島には良く生えている。
 ここの山にも生えているという話だが、道が険しく取りに行けないそうだ。
 貴重というと、採取して売り捌こうとする者も現れると思うが、ドロレス病では使うが、他の病には代用となる薬草があるので、別に必要という訳ではない。
 なので、無理して手に入れようとするのは、ドロレス病患者へ高額を吹っ掛けようと企んでいる者ぐらいだろう。
 それでも、命を懸けて手に入れるような代物ではない。
 生えているのは分かっていても、放置されているはずだ。
 そこを探すなら、アンヘル島でエスペラスが生えているところの特徴を思いだすことが、見つける近道なのではないかとケイは考えたのだった。
 
「…………たしか、火山の近くの方が多く生えていたような?」

【そう言えばそうだね!】

 島の北部には以前噴火した山がある。
 今では硫化ガスもある程度納まり、島の人間には時折訪れる温泉地帯というイメージが強いかもしれない。
 特に、その火山の麓にエスペラスの樹が自生していたように思える。
 そのことをケイが思い出すと、キュウも同じような景色を思い浮かべていた。

「この山って火山なのか?」

 エスペラスが島に生えている状況を思い出して、同じ状況の場所がないか探し始めたケイたちだが、そもそもここが火山なのかという疑問が湧く。
 違うとなったら、エスペラスが生えている可能性がグッと下がる気がする。

「ワンッ!」

【そうだって!】

 独り言のように呟いたケイの疑問に、クウが反応を示す。
 その吠えた言葉を、キュウが通訳してくれた。
 それによって、ここが火山で間違いないようだ。

「ワウッ、ワウッ!」

【火山の変な臭いがするって!】

 続いて、キュウはクウの言葉を訳してくれる。

「変な臭いって……硫黄の臭いか?」

「ワウッ!」

【そうだって!】

 人間のケイには何も感じないが、あの卵の腐ったような独特の匂いを、クウは僅かに感じ取っているらしい。
 火山の変な臭いというと、温泉地でよく嗅ぐような硫黄の臭いが頭に浮かぶ。
 そのことかと尋ねると、クウは頷きで返した。

「土壌? 地熱? 硫化水素? 何かが樹の成長に関係しているのか?」

 火山付近に自生しているということは、ケイでも考えられることは色々ある。
 この世界だと植物も特殊な物があったりするので、何が成長の要因になっているか分からない。
 単純に考えるならば、火山灰の積もった土壌が関係しているのではないだろうか。
 他には地熱も考えられる。
 地下茎が伸びるのに熱が関係しているのかもしれない。
 あと、植物どころか人にもあまり良くないが、硫化水素も考えられる。

「…………山頂へ行ってみよう! 火口付近ならもしかしたら生えているんじゃないか?」

【うん!】「ワンッ!」

 火山の匂いが僅かということは、もしかしたら火山と言っても活動はしていない、もしくは弱い活動しかしていないのかもしれない。
 ケイたちが今いる中腹より、火口付近の方が先程考えた条件に近くなるはず。
 そのため、ケイたちは火口付近に行ってみることにしたのだった。





「っ!?」

「あっ!? クウ?」

 険しい山道を魔物の相手をしながらも進んで行き、ケイたちは火口に近付いていった。
 山頂らしき場所が遠くに見えて来た時、クウが急に走り出した。
 クウもかなりの戦闘力に鍛えているので、この山に出てくる魔物なんかは相手になっていない。
 とは言っても、どんな魔物が潜んでいるか分からない。
 一匹で勝手に行動すると、いきなり攻撃を受けてしまう可能性がある。
 そのため、ケイは走り出したクウを追いかける。

「ワンッ!」

「どうした? 急に走り出してって……」

 ある程度走り、ようやく立ち止まったクウの下に近付くと、周辺を見て言葉が詰まった。

「あった!!」

【あった!】「ワンッ!」

 山頂には小さいながら火口があり、その付近にはケイたちが目的にしていたエスペラスの樹が生えていた。
 ようやくの発見に、ケイたちは喜びの声をあげる。

「でも少ない! 小さい!」

 しかし、すぐにテンションが落ちる。
 発見したエスペラスの樹は、たった二株生えているだけしかなかった。
 170cmほどの身長をしているケイ。
 島では肩の付近まで伸びる樹のはずなのだが、ここに生えている樹はどちらも腰の当たりまでしか成長していない。
 島の樹が素になっているため、ケイにはここの樹が何だか弱々しく感じてしまう。

「実も全然生っていないな……」

「ない!」「ワフッ!」

 その小さい樹に肝心の実が生っていないかを見ると、数粒くらいしか発見できなかった。
 成長していないからなのかもしれない。
 せっかく見つけたのに実が全然生っていないため、キュウとクウもシュンとしている。

「とりあえず取って帰るか……」

【うんっ!】「ワンッ!」

 もう空は暗くなってきている。
 落ち込んでてもしょうがないので、ケイたちは生っている全部の実を取って村に帰ることにした。

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