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第9章

第196話

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「手合わせをすればいいのか?」

「あぁ、頼む」

 下手にアウレリオの話を聞いてしまったことで、ケイは感情移入してしまい、彼の頼みを断ることができなってしまった。
 そのため、早速彼のブランク解消を手伝うために、手合わせを行なうことになってしまった。
 ケイも、アウレリオの実力が気になっていたことから、少しばかり試してみたいと思っていたため、都合がいいと言えばいい。

「じゃあ、始めよう!」

 とりあえずお互い距離を取り、武器を構える。
 ケイはいつものようにホルスターから抜いた2丁拳銃スタイル。
 それに対して、アウレリオは背中にかけていた、片手でも両手でも使える両刃の、バスタードソードと呼ばれる剣だ。
 構え等を見るかぎり、ケイより少し背が高く、筋肉も付いていることから、力と技巧の割合が7対3といったところだろうか。

「そらそうだよな……」

 ただ普通に見るように、ケイが冷静にアウレリオを見ていると、アウレリオは全身に魔力を纏い始める。
 普通に歩く足運びやたたずまいから、相当な使い手だとは思っていたので、魔闘術を使えるのは容易に想像できた。
 そして、ケイもそれに合わせるように魔力を全身に纏う。

『……なんて魔力だ』

 アウレリオの纏う魔力と比べて、ケイの方が明らかに魔力の量が多い。
 魔闘術の発動速度と合わせても、魔力の扱いが今の自分とは比べ物にならないことをアウレリオは悟る。
 魔力の扱いが戦闘に影響を与えるとは言っても、それで戦いの全てが決まる訳ではない。
 このままだと手合わせする前に動けなくなりそうなので、そう自分に言い聞かせることによって、アウレリオは気合いを入れて地面を蹴る。

「っと!?」

 これほどの魔力を平気で使いこなすケイなのだから、本気で言っても大丈夫だろうと、アウレリオは思いっきり剣を振り下ろす。
 それをケイはバックステップで躱す。

『珍しい武器だな……。携帯型の銃か?」

 躱されることを予想していたアウレリオは、ケイの持つ武器に目を向ける。
 冒険者時代では、あまり見ることがなかった武器だ。
 この世界にも銃はある。
 ただ、遠距離攻撃をしようとすると、魔法や魔力を使った弓の攻撃の方が勝手が良い。
 この世界でも、銃は殺傷力が高いので魔法や魔力の扱いが苦手な者や、戦闘を主としない一般人が使うような武器という位置づけになっている。
 そのため、あまり進化しておらず、ライフルなどの銃が一般的といった感じだ。
 ケイが持っているような銃もないことはないが、結構重く、動き回るような戦闘ではあまり役に立たない。

“パンッ!!”

「っ!? 速い!」

 後方に飛んだケイを追おうとするアウレリオに、ケイが一発銃の引き金を引く。
 飛び出した弾の速度に驚き、アウレリオは少し慌てたように横へと飛ぶ。

「なるほど……、魔力を使って加速と威力上昇をおこなっているのか?」

「正解!」

 魔力を使いこなす者ならば、見ればたいていこの原理を理解できる。
 なので、ケイは動揺した様子なくアウレリオの問いに答える。
 遠距離で戦うのが得意な人間にしたら、これは良い武器の選択だと、アウレリオは感心する。

『接近戦が苦手ということなのか?』

 遠距離に釘付けにしたいということは、接近戦による戦闘が苦手ということが予想できる。
 ケイが向けてくる銃口から逃げるように動き回りつつ、アウレリオは接近戦を試みる。

「ハッ!!」

 接近すると、アウレリオは剣で突きを放つ。

「ぐっ!?」

 かなりの速度の突きだったが、躱したケイは肘をアウレリオの腹に打ち込む。
 躱すと同時にスムーズに攻撃をしてくる動作を見るに、とても接近戦が苦手な人間には思えない。

「この武器だから接近が苦手だと思ったか?」

 そう思うのも分からなくはないが、それだとちょっと考えが甘い。

「チッ!」

 肘を腹に食らったアウレリオだが、食らうと同時に自ら後方へ飛ぶことで威力を減らしたらしく、舌打ちと共にすぐさま体制を整える。

“パンッ!”“パンッ!”“パンッ!”

「っ!?」

「……避けるのが上手い。感覚が鋭いタイプか……」

 アウレリオが体勢を整え、自分に目を向ける前にケイは容赦なく銃を連射する。
 それを、アウレリオはギリギリで横に飛ぶことで躱す。
 さっきの肘打ちを受けた時と言い、反応が鋭い。
 手を抜いているとは言っても、こっちをを見る前に放ったちょっと厳しい攻撃だったのにもかかわらず、掠りもしないとは結構すごい。
 冷静に見て行動を起こすというより、直感を重視した動きに思える。

「野性味か……、リカルド殿を思いだすな」

 実力や動きは全然違うが、なんとなくリカルドのことを思い出してしまう。
 息子たちや島のみんなへもそうだが、仲の良いリカルドへも挨拶せずに出てきてしまった。
 今更ながらそのことを思いだし、少し反省する。
 帰ったらきっと文句を言われることはたしかだろう。

「それくらいは我慢するか……」

 リカルドならば自分も行きたかったと長いこと言われるだろうが、それも仕方がない。
 帰った時はそれを受け入れよう。

「似てる気もするけど……」

 他に気を向けているよりも、今はとりあえずアウレリオの相手だ。
 リカルドを思い起こさせる部分があるが、要はそれを使っても反応できない攻撃をすれば良いだけのことだ。

「っ!? なっ!?」

 魔闘術をしている足の部分に、ちょっと魔力を上乗せする。
 それだけで、ケイの移動速度が上がる。
 咄嗟のことに驚きつつも、アウレリオは直感に従って剣を振り下ろす。
 しかし、その攻撃を、ケイは左手に持つ銃のフレーム部分で弾いて反らし、そのままアウレリオの懐に入り込む。

「ここまでだな?」

「……あぁ」

 懐に入ったケイが右手の銃口をアウレリオの目前に向ける。
 そのまま発射していれば、アウレリオは攻撃を躱すことはできないだろう。
 それが分かったのか、アウレリオはケイの終了の問いかけに頷きを返す。

「最後にちょっと体の反応が鈍かったな……」

「直感は良いが、体が鈍っているということか……」

 ケイが銃をホルスターへ収めながら、さっきの攻防のことを話す。
 それに対し、アウレリオは剣を背中の鞘に収めながら納得するように呟く。
 直感は鈍っていないが、体が鈍っているようで、戦っているとそのズレが顕著になる。
 それがブランクによる所だろう。

「じゃあな……」

「あぁ、また明日頼む」

「………………あ、あぁ」

 この一戦で終わりかと思っていたケイとは違い、アウレリオは数日相手をしてもらう気満々のようだ。
 ブランクの解消を手伝うと言ったため、今さら断ることができず、ケイはまた明日もここで会う約束をしてしまったのだった。

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