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第9章

第194話

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「あ~ぁ、面倒だな……」

【?】「?」

 ピトゴルペスの町の近くにあるキョエルタの村に来たケイたち。
 田舎と言えば田舎だが、商店街には村で作られたであろう新鮮な野菜が多く、中々賑わっている。
 しかし、村なので宿屋は少なく、3つしかないとのことだった。
 そして、ケイたちはその3つの内の1つに泊まることにしたのだが、与えられた部屋でキュウとクウがくつろいでいる中、ケイは少しイラ立ったような声を急に上げた。
 その声に、キュウとクウは首を傾げる。

「あいつ明らかについてきてる」

【しつこい!】「ワンッ!」

 村を一通り見て回っている時、ケイたちがこの村に来ることになった原因となる男が視界に入った。
 探知に反応したのではなく、たまたま目に入っただけなのだが、そのお陰か離れたままで宿屋に入る事が出来た。
 何に根拠にケイたちの行方を察知しているのか分からないが、もしかしたら自分が気付かないうちに奴の探知に引っかかっているのではないかと深読みしてしまう。
 しかし、そうなると接触してこないというのが引っかかる。
 接触してこないということは、まだ顔はバレていないということになり、どんな探知をしているのか訳が分からない。
 どちらにしても、付いてきているのは確かだと感じる。
 それを呟くと、キュウとクウもケイと同じように嫌そうな顔をする。

「一度痛めつけておいた方が良いかな?」

 まだ旅も続く。
 このまま付いてこられると、日向に面倒事を持ち込むようで、何だか亡くなった妻の美花にも悪い気がする。
 ならば、今のうちに追跡を解消しておきたい。
 そのため、ケイはちょっと物騒なことを考えてしまう。

【キュウがやる?】

「駄目だ。前も言ったが、キュウだと危険だ。というか、もしかしたらお前を狙っているのかもしれない」

 主人であるケイの手を煩わせるのも良くないので、キュウが男と戦うことに立候補する。
 しかし、ケイはそれをすぐに却下する。
 付いてきている男はかなり強いように思える。
 ほとんど魔法特化の戦闘しかできないキュウだと、どうも勝てない相手だろう。
 ケイたちを追ってくる人間となると、キュウを手に入れようとしている連中が思いつく。
 この男も、もしかしたらそれと同じという可能性もある。
 キュウが負けて捕まったりしたら、ケイはとても困る。
 いや、捕まるだけならまだ取り返しに向かうことができる分マシだが、殺されでもしたらケイは怒りでどうなるか分からない。

「お前たちは宿屋でおとなしく待っていてくれるか?」

【ブ~!】

「ワンッ!」

 与えられた部屋の中なので、猫のマスクを外しているクウは、ケイの指示に素直に頷いた。
 しかし、ケイの役に立ちたいキュウからしたら、待っているだけなんて我慢できない。
 そのため、キュウはケイに念話で不服そうな声をあげてむくれる。

「すまんが我慢してくれ」

【……うん。分かった!】

 キュウの性格だとむくれる気持ちも分からなくはないが、危険と分かっている相手に送り出すことはできない。
 丸いキュウがむくれているのはなんとなく面白いが、おとなしくしていてもらわないと、今度はケイの方が戦いに集中できなくて危険になってくるかもしれない。
 それだけの相手かもしれないと、ケイは考えている。
 なので、機嫌を直して納得してもらおうと、ケイはキュウのことを優しく撫でる。
 キュウからすると、ケイに撫でられると気分が良くなり大体のことはどうでもよくなるため、すぐに気が変わって言うことを聞くことにした。

「じゃあ、行って来るな。俺が帰るまでカギは閉めておけよ」

【うん! 気を付けてね!】「ワンッ!」

 2匹とも納得したようなので、ケイは早速追跡者の相手をしに行くことにした。
 他にケイたちに付いてきている人間は感じられないので、部屋に置いて行けば大丈夫だろう。
 キュウたちもなかなか強いので、捕獲しようと部屋に入ってきても撃退できるだろうが、穏便に済ませるためにも鍵を閉めて待っていてもらう方がいい。

「さてと……」

 部屋の扉を閉めると、ケイの指示通り鍵が閉まる音がした。
 これでキュウたちはとりあえず安全になったので、ケイは安心して宿屋から出て行った。







「っ!?」

 キョエルタの村に来たのは良いものの、アウレリオの直感には何も引っかかって来ない。
 もしかしたら、ピトゴルペスの町で反応した者は、この村に寄らずに次の町へ行ってしまったのかもしれない。
 そのような悪い考えが浮かんで来始めていたアウレリオだったが、突如背筋に電気のような物が走った。
 冒険者時代、この反応があった時は危険が迫っている時の合図だった。
 しかし、それがあるのはダンジョン内や魔物の多くいる生息地だったりと、逃走も当然視野に入れた状態で感じた合図だ。
 村とは言え、人が住んでいる中で感じるなんて生まれて初めてかもしれない。
 場所の違いはともかく、この感覚を感じたら警戒心をMAXにしないとただでは済まない。
 そう思って、背後に目を向けて警戒心を高めると、目の前から嫌な予感がどんどんと近付いてきた。
 そして、その嫌な予感を自分に放ってきているのが人間で、手配書に描かれていた男だということにアウレリオは気付く。

「付いてこい!」

「…………」

 手配書の男が自分の目の前に来て、一言呟く。
 アウレリオは、それに素直に従うことにした。

『もしかしたら、これは手を出すべきではなかったかもな……』

 手配書の男の指示に従って付いて行っていると、どうやら村の外へ向かっているようだ。
 そして、その背を黙って見ていながら、どうにか逃げることができないかという算段ばかりを考えている自分にアウレリオは気付く。
 つまり、戦闘技術が鈍った自分では相手にするのは荷が重いと、感覚的に思っているということになる。
 内心、今更ながらに後悔しているアウレリオだった。

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