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第9章
第184話
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「さて……、行くか?」
【うん!】「ワフッ!」
従魔のキュウとクウを引き連れ、ケイは軽く気合いを入れる。
2匹もその言葉に反応し、返事をする。
そして、朝の暗いうちから家を出て、誰にも会うことなく転移をした。
「レイナルドとカルロスがいれば大丈夫だろう……」
リシケサ王国の侵攻があったが、何年たっても他の人族の国はちょっかいをかけてこないでいる。
エルフと獣人によって王の暗殺という被害を受けたという噂は、ちゃんと広まっているのかもしれない。
生物の命を奪うことを禁止していたはずのエルフが、その掟を破るようになったと聞いて、人と比べて大量の魔力を持つ彼らが、いつ強力な魔法をぶっ放して来るか分からないとなると、関わり合わないのがたしかに一番だ。
ともかく、人族との問題が起きないのであれば、息子のレイナルドとカルロスに任せておける。
念のために魔法の指輪を置いてきたし、ケイは安心して出かけることにしたのだった。
「それにしても、ここも随分変わったな……」
日が出て、現在ケイは元リシケサ王国の王都だった場所に来ている。
封印されていた魔族をケイが解放したことにより潰され、そのままに放置されていたようだ。
かつての城の近くに地下室を造ったが、その付近に転移してここに立っている。
王都のあった場所には草が生い茂り、人が住んでいたという面影がなくなっていた。
その姿を眺めて、時の流れを感じていた。
「とりあえず、東に進めばいいだろう……」
「ワフッ!」
ケイと従魔たちが向かおうとしているのは、東にある島国。
つまり、美花の両親の生まれ育った日向の国だ。
何故日向に向かおうと思ったかというと、生前の美花の呟きだ。
日向の両親から生まれはしたが、一度も日向に行ったことがなかった。
結局、理由を聞くことができなかったので分からないが、ずっと日向から送られた追っ手から逃げていたらしい。
とても日向に行きたいなどと言うことも出来ず、アンヘル島に流れ着いたということだった。
亡くなってしまってからで申し訳ないが、連れて行ってあげたいと思った。
なので、形見の刀と共に、向かうことに決めたのだった。
【しゅじん! ひゅうがとおい?】
「遠いだろうな……」
ケセランパサランのキュウは、地図に描かれた日向の位置を見て問いかけてくる。
この星で最大の大陸である人族大陸を横断をしなければならず、どれだけの日数がかかるか分からない。
魔闘術を使って全力疾走すれば、かなりの時間短縮ができるかもしれないが、そんなことをするつもりはない。
急ぐ旅でもあるまいし、形見の刀とは言っても、美花に色々な景色を見せてやりたい。
なので、ケイは従魔2匹とのんびり東へ向かって行くつもりだ。
「耳さえ隠せば大丈夫だろう……」
人族大陸を、長い耳が特徴のエルフが移動していれば、貴族への貢物として捕まえようとしてくるだろう。
そうなると、アンヘルの時のように逃げ回らなければならなくなる。
そんな旅をしたいとは思わないので、ケイは秘策を用意しておいた。
というより、簡単に思いついた方法だ。
エルフだとバレないためには、特徴である長い耳を隠せばいい。
そしてできたのがダミーの耳だ。
耳の上に装着すると、普通の人族と同じ耳に見える代物だ。
魔物の素材を利用して、あっという間に作った割にはかなりいい出来だと思っている。
【キュウ! しゅじんまもる!】
「ありがとな」
エルフだとバレたとしても、キュウが守ると意気込んでいる。
ケセランパサランのキュウには子や孫がいる。
数年に一匹生まれるのだが、今では結構な数になってきている。
全部がケイの従魔という訳ではなく、村人の従魔になっている。
獣人には従魔を付ける風習がないが、ペットとして従魔にすることが流行っているらしく、もうすぐ一人に一匹ケセランパサランを付けるということになりそうだ。
ケセランパサランは元々は弱小の魔物で、別名魔物の餌と呼ばれるほどだ。
元が弱いからかアンヘル島内の魔物を何でもいいから倒させると、ぐっと成長する。
それを続けていると、魔法を使えるようになった。
今では、キュウの魔法はなかなかのものがある。
「ワンッ!!」
「クウも頼むな」
まるで、自分も頑張ると言っているようにクウが吠える。
美花から受け継ぐように従魔にしたが、ケイのことも好きなクウは、ケイのことをちゃんと主だと思っている。
だからと言って美花のことを忘れるつもりはない。
主人だった美花の大切な人と言う意味で、ケイのことを守りたいと思っているようだ。
見た目は完全に柴犬だが、これでも一応歴とした魔物の一種だ。
自分の身くらいは守れるだろう。
「まずは東にある町へ行って、身分証でも作らないとな……」
エルフのケイには身分証なんてものがない。
獣人にもないため、入国審査などは顔を確認しての通過になっているので、カンタルボスのリカルド王と共にドワーフのマカリオ王に身分証の作成してもらうことを検討していた。
名前と年齢程度が表示されるものなら、もう人族大陸に広がっていっていて、それを発行しているのが、グレミオと呼ばれる組織らしい。
グレミオは、様々な職業からの依頼を受け、それをグレミオに登録した者たちへ仕事として斡旋しているのだそうだ。
身分証があれば、しっかりと本人だと証明され、仕事の達成度などを書類にして他の人間と比べたりすることも出来る。
依頼の難易度によって、人選ができるようになる。
それに、身分の証明ができれば、町中に犯罪者を入れないで済むようになる。
治安面でも有効な使い道がある。
なので、年齢問わず発行する人間が多いらしい。
その身分証があれば、基本人族大陸では入国しやすくなる。
そのため、ケイはまず身分証を作りに、東の町へ向かうことにしたのだった。
【うん!】「ワフッ!」
従魔のキュウとクウを引き連れ、ケイは軽く気合いを入れる。
2匹もその言葉に反応し、返事をする。
そして、朝の暗いうちから家を出て、誰にも会うことなく転移をした。
「レイナルドとカルロスがいれば大丈夫だろう……」
リシケサ王国の侵攻があったが、何年たっても他の人族の国はちょっかいをかけてこないでいる。
エルフと獣人によって王の暗殺という被害を受けたという噂は、ちゃんと広まっているのかもしれない。
生物の命を奪うことを禁止していたはずのエルフが、その掟を破るようになったと聞いて、人と比べて大量の魔力を持つ彼らが、いつ強力な魔法をぶっ放して来るか分からないとなると、関わり合わないのがたしかに一番だ。
ともかく、人族との問題が起きないのであれば、息子のレイナルドとカルロスに任せておける。
念のために魔法の指輪を置いてきたし、ケイは安心して出かけることにしたのだった。
「それにしても、ここも随分変わったな……」
日が出て、現在ケイは元リシケサ王国の王都だった場所に来ている。
封印されていた魔族をケイが解放したことにより潰され、そのままに放置されていたようだ。
かつての城の近くに地下室を造ったが、その付近に転移してここに立っている。
王都のあった場所には草が生い茂り、人が住んでいたという面影がなくなっていた。
その姿を眺めて、時の流れを感じていた。
「とりあえず、東に進めばいいだろう……」
「ワフッ!」
ケイと従魔たちが向かおうとしているのは、東にある島国。
つまり、美花の両親の生まれ育った日向の国だ。
何故日向に向かおうと思ったかというと、生前の美花の呟きだ。
日向の両親から生まれはしたが、一度も日向に行ったことがなかった。
結局、理由を聞くことができなかったので分からないが、ずっと日向から送られた追っ手から逃げていたらしい。
とても日向に行きたいなどと言うことも出来ず、アンヘル島に流れ着いたということだった。
亡くなってしまってからで申し訳ないが、連れて行ってあげたいと思った。
なので、形見の刀と共に、向かうことに決めたのだった。
【しゅじん! ひゅうがとおい?】
「遠いだろうな……」
ケセランパサランのキュウは、地図に描かれた日向の位置を見て問いかけてくる。
この星で最大の大陸である人族大陸を横断をしなければならず、どれだけの日数がかかるか分からない。
魔闘術を使って全力疾走すれば、かなりの時間短縮ができるかもしれないが、そんなことをするつもりはない。
急ぐ旅でもあるまいし、形見の刀とは言っても、美花に色々な景色を見せてやりたい。
なので、ケイは従魔2匹とのんびり東へ向かって行くつもりだ。
「耳さえ隠せば大丈夫だろう……」
人族大陸を、長い耳が特徴のエルフが移動していれば、貴族への貢物として捕まえようとしてくるだろう。
そうなると、アンヘルの時のように逃げ回らなければならなくなる。
そんな旅をしたいとは思わないので、ケイは秘策を用意しておいた。
というより、簡単に思いついた方法だ。
エルフだとバレないためには、特徴である長い耳を隠せばいい。
そしてできたのがダミーの耳だ。
耳の上に装着すると、普通の人族と同じ耳に見える代物だ。
魔物の素材を利用して、あっという間に作った割にはかなりいい出来だと思っている。
【キュウ! しゅじんまもる!】
「ありがとな」
エルフだとバレたとしても、キュウが守ると意気込んでいる。
ケセランパサランのキュウには子や孫がいる。
数年に一匹生まれるのだが、今では結構な数になってきている。
全部がケイの従魔という訳ではなく、村人の従魔になっている。
獣人には従魔を付ける風習がないが、ペットとして従魔にすることが流行っているらしく、もうすぐ一人に一匹ケセランパサランを付けるということになりそうだ。
ケセランパサランは元々は弱小の魔物で、別名魔物の餌と呼ばれるほどだ。
元が弱いからかアンヘル島内の魔物を何でもいいから倒させると、ぐっと成長する。
それを続けていると、魔法を使えるようになった。
今では、キュウの魔法はなかなかのものがある。
「ワンッ!!」
「クウも頼むな」
まるで、自分も頑張ると言っているようにクウが吠える。
美花から受け継ぐように従魔にしたが、ケイのことも好きなクウは、ケイのことをちゃんと主だと思っている。
だからと言って美花のことを忘れるつもりはない。
主人だった美花の大切な人と言う意味で、ケイのことを守りたいと思っているようだ。
見た目は完全に柴犬だが、これでも一応歴とした魔物の一種だ。
自分の身くらいは守れるだろう。
「まずは東にある町へ行って、身分証でも作らないとな……」
エルフのケイには身分証なんてものがない。
獣人にもないため、入国審査などは顔を確認しての通過になっているので、カンタルボスのリカルド王と共にドワーフのマカリオ王に身分証の作成してもらうことを検討していた。
名前と年齢程度が表示されるものなら、もう人族大陸に広がっていっていて、それを発行しているのが、グレミオと呼ばれる組織らしい。
グレミオは、様々な職業からの依頼を受け、それをグレミオに登録した者たちへ仕事として斡旋しているのだそうだ。
身分証があれば、しっかりと本人だと証明され、仕事の達成度などを書類にして他の人間と比べたりすることも出来る。
依頼の難易度によって、人選ができるようになる。
それに、身分の証明ができれば、町中に犯罪者を入れないで済むようになる。
治安面でも有効な使い道がある。
なので、年齢問わず発行する人間が多いらしい。
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