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第8章

第182話

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「どうしたの?」

 マカリオの寝室を出ると、みんなケイが出てくるのを待っていたようだ。
 そして、ケイが神妙な顔をしていることに、長い付き合いからか妻の美花がすぐに反応した。

「……いや、何でもない」

 別に前世の記憶があることを美花に話しても良いのだが、今までなんとなく言うタイミングを逃してきた。
 言っても信じてもらえるか分からないし、信じてもらえたとしても別に悩んでいることでもない。
 変な奴だと思われるのもなんか嫌なので、今更伝えるつもりはない。
 なので、ケイは首を横に振って美花へ答えた。

「父に何か言われましたか?」

「いえ、楽しく話させてもらいました」

 美花の言葉で気になったのか、次にセベリノがケイに問いかけてきた。
 その口ぶりは、まるでマカリオがケイへ困ったことでも言ったのだろうと思っているようだ。
 ケイとしては返した言葉通り、マカリオと話せて楽しかった。
 自分と同じ境遇の人間がいると知り、どこか気持ちが楽になったというのが本音だろうか。
 それにしても、先程の言葉からするに、セベリノのマカリオへ対する態度には僅かな溝があるようにも思える。
 それも分からない訳ではないが、年齢が年齢なだけに、マカリオに優しくしてやってほしいところだ。

「……実は、マカリオ殿は時折我々では付いて行けない発想をするお方なのでな」

「リカルド殿も……ですか?」

 もう一人マカリオが苦手にしているような人間がいた。
 聞いた話だと、マカリオはカンタルボス王国の先々代の頃から関係があるそうだ。
 つまりは、リカルドの祖父の時代からになる。
 生まれてから今までの自分のことを知られているというのは、結構面倒なことだ。
 良いところも悪いところも全部知られているため、交渉がとてもやりにくい。
 武では恐れ知らずなリカルドでも、交渉の場面ではとてもマカリオを打ち負かせる気がしない。

「……良い人だと思いますが?」

「……そう……ですか?」

「マカリオ殿のお眼鏡に適ったようだな……」

 ケイの言葉に、セベリノとリカルドの見る目が変わったように思える。
 なんとなく嬉しそうだ。
 その後の話によると、マカリオに気に入れれるかどうかで、魔道具の依頼時の対応が違うらしい。
 リカルドのことは赤ん坊のころから知っているのでちゃんと対応してくれているが、大昔に横柄な態度でマカリオに接した者は、酷い目に遭ったという話だ。



 昔のある国に、力が全てといった脳筋の王が就くことがあった。
 その王は、当時ドワーフ王国の王になったばかりのマカリオに対して、

「我が国がこの国を守ってやる。だから我が国の依頼を優先してもらおう」

「…………」

 明らかに新米国王であるマカリオを舐めた態度だった。
 ただ、マカリオはそれを黙って聞いていた。
 その後、その舐めた態度を取った王のいる国は、周辺国に睨まれ、圧倒的武力によって国自体がなくなるといったところまで追い込まれたそうだ。

「それのどこにマカリオ殿が関わっているのですか?」

 リカルドとセベリノが話す昔話。
 獣人大陸の歴史の一部として聞いている分には、なかなか面白い。
 だが、マカリオに睨まれたら困ることになるという説明にしては、メインで出て来ていない気がする。

「その周辺国が使用した武器が問題だったのだ」

「…………まさか?」

 リカルドのその話の流れで、ケイはなんとなく嫌な予感が脳裏をよぎった。
 
「その周辺国に武器を渡したのが父でした」

「やはり……」

 思った通りの答えがセベリノから話された。
 リカルドたちは知らないが、マカリオは転生者だ。
 小5までとは言っても、日本で見たことがある武器を作ろうとすれば、かなりの武器を作り出せるはずだ。
 しかも、この世界には魔法がある。
 しっかりしたイメージがあれば、程度に差はあれ結果を得られる。
 あとは、それをしっかりとした魔道具という形に作り上げる研究をするだけだ。

「その時出来たのが大砲ですね」

「……そうですか」

 いきなり大砲作ろうなんて、同じ転生者のケイからしたら何故と聞きたくなる。
 銃とかの武器の方が簡単に思いつきそうな気がするが……。
 ケイもリシケサ王国の侵攻に対して利用させてもらったが、もしも、見たことも聞いたこともない状態で砲撃を食らえば対処法が分からず、あっという間に壊滅に追い込まれても仕方がない。

「その脳筋の国王はどうなったのですか?」

 一応、その脳筋も国を手に入れるだけの実力の持ち主。
 多少の抵抗くらいはしたはずだ。

「孤軍奮闘も虚しく、至近距離から砲撃が直撃し吹き飛んでしまいました」

「…………そうですか」

 いくら強くて頑丈だろうが、至近距離で砲撃を食らって耐えられるとは思えない。
 化け物染みた強さを誇るリカルドでも、吹き飛びはしなくても、内臓が無事で済むことはないだろう。
 全魔力を集めた状態で放たれたのなら、ケイなら一発くらいはどうにかできるかもしれないが、いつ撃つかも分からない大砲を至近距離で止めるなんて、防御が間に合わずミンチのようになるだろう。

「大砲を与えられた国々もそれがあったからか、父と敵対はなるべくしないように対応するようになりましたね……」

 大砲を使いながらも、明日は我が身という気持ちが湧いてきたのだろう。
 余程でない限り、この時のようなことをマカリオはすることはない。
 しかし、その時王になりたてのマカリオのひととなりを知る者はおらず、他の国が疑心暗鬼を生じるのも当然かもしれない。

「まぁ、今では他の国の方々も父のことを知っているので大丈夫ですが、一時はドワーフ王国を潰してしまおうかと考えていたくにもあったらしい」

 強力な武器を作り出されては、自分たちの国に攻め込んでくるかもしれない。
 ならば、いっそのこと今のうちに総攻撃をかましてしまおうと考えた国があるそうだ。
 強すぎる力は、余計な軋轢を生みだす素になる。
 マカリオはそのことを考えなかったのだろうか。

「まぁ、気に入られたようだから何の心配もないだろう」

 ケイは礼儀をちゃんとするイメージがあったので心配はしていなかったが、マカリオが2人きりになりたがったことに、リカルドはケイが何か気に障ることでもしたのかと考えてしまった。
 しかし、それも取り越し苦労のようだったことに、リカルドは一安心した。

「マカリオ殿にも挨拶できたし、そろそろ帰るとしようか?」

「えぇ、そうですね」

 マカリオに会えるのは厳しいと思っていたが、元々今日帰る予定だった。
 あまり長いこと国を空けておくと、リシケサ王国の時のように人族が攻め込んで来ていた場合、ケイがいないのは相当きついことになるだろう。
 リカルドも仕事を息子たちに任せたままにしていては、王妃のアレシアにまた叱られるかもしれない。
 そうならないためにも、ケイたちは自分たちの国へ帰ることにした。

「皆さんお気をつけて!」

「「「ありがとうございます!」」」

 セベリノはわざわざ港まで見送りに来てくれ、ケイたちの乗った船を送り出してくれた。
 ケイと美花、それとリカルドはセベリノに感謝の言葉と共に軽く頭を下げる。
 その後、セベリノが小さくなるまでケイたちは手を振り続けたのだった。


 アレシアに叱られたくないのか、急いで帰りたがったリカルドのためにケイは転移魔法を使うことになった。
 バレないように人気のない所に移動してから転移したと言っても、急にいなくなってカンタルボスに戻っていたということになったら、気付く人間もいるかもしれない。
 ケイはそのように思ったのだが、転移なんてそうそう思いつく人間なんていないとリカルドは言った。
 魔法をあまり使わない獣人だから、なおさらそんな魔法があるなんて考えないとのことだ。
 それに人を使って噂を流せばバレることはないそうだ。
 転移でリカルドと護衛兵たちをカンタルボスに送り届けると、ケイたちはアレシアやエリアスたちに挨拶をしてすぐにアンヘル島へと転移していった。

「やっぱりここが一番落ち着くな」

「そうね」

 いつも見た景色に戻ってきて、ケイたちは思わずホッとしたように呟く。
 もうここが自分たちの帰る場所なのだと思っているからなのだろう。

「あっ!? 2人とも今帰って来たのか!?」

 村の近くで狩りをしていたらしく、息子のレイナルドがケイたちの姿を見て驚く。

「「ただいま!」」

「おかえり」

 ケイたちは、ちょっとした旅行になったドワーフ王国への旅も、この一言を受けようやく終わったのだと感じたのだった。

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