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第8章
第181話
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「………………」
目の前の年老いたドワーフから発せられた言葉に、ケイは声を出せずに固まる。
鳩が豆鉄砲を食ったような表情とはこの事だろう。
信じられないと言ったように目を見開き、ドワーフの王であるマカリオ顔を見つめる。
『あれっ!? 違ったか?』
固まっているケイに、マカリオは自分の予想が間違っているのかと思い始める。
この1週間、魔道具の研究班から進捗状況は聞いていた。
そして、ケイの助言によって新しい魔道具ができたという話を聞いていた。
出来上がった魔道具を見せてもらい、引っかかるものを感じた。
なので、マカリオはケイと直接会うことを望んだのだ。
「何で……」
『んっ?』
反応がないため、マカリオが勘違いだったと息子のセベリノたちを呼ぼうとしたところで、ケイがようやく口を開いた。
『何で転生者だと……?』
『…………やっぱり、そうか……』
驚いて声も出なかったのは、老いたドワーフのマカリオが、日本語で美花も知らないケイの秘密を話して来たからだ。
久々に日本語を聞き、ケイも同じ言葉で返す。
すると、マカリオは納得したような表情をして頷いた。
この世界には、美花の両親の出身地である日向という国がある。
聞いた情報からだと、昔の日本と同じような文化を形成しているらしい。
そして、日向語という日本語と同じ言葉を使うことが、美花から聞いて分かっている。
このドワーフももしかしたら日向語を話しているという可能性もあるが、転生者なんて言葉が出てくるところを見ると、日向語というより日本語を使っているとケイは考えた。
『炊飯器なんか考えたら、そりゃ気付くよ』
この1週間で、魔道具研究所の研究員たちとケイが完成させたのが、炊飯器だった。
男性が調理をするとなると、酒のつまみしか作らないため、どうしても女性が料理をする機会が多い。
ドワーフ女性は手先が器用だから、料理も上手な人間が多い。
しかし、服飾などの仕事が忙しいと、料理に使う時間が短くなってしまい、いくら彼女たちでも手抜き料理をしたくなる。
そこで、そういった女性のために、料理を作る魔道具の開発をということになったのだが、研究所の人間は料理をしない人間ばかりで、何を作っていいか分からない。
こういう時に国王で天才のマカリオがいれば、何かしらのアドバイスをもらえるのだが、病でそういう訳にもいかない。
そこでケイが提案したのは、炊飯器だった。
ドワーフ王国も米は食べる。
ただ、パンとの比率が半々なのだそうだ。
朝と昼がパンが多く、夜が御飯という家庭が多いそうだ。
そうなると、作るのに困るのは夜の飯炊きではないだろうか。
コンロの魔道具もあるそうだが、まだ普及していないらしく、竈の家が多いとなると飯炊きの鍋から目が離せないし、時間がかかる。
せめて御飯が簡単にできれば、おかずの調理だけに専念出来て良いのではとケイが言うと、研究員たちは目を輝かせた。
そうして炊飯器を作ることに決定したのだが、マカリオからすると、すぐに炊飯器を思いつくなんてあからさまに怪しく感じたのだそうだ。
それを聞いて、ケイもなるほどと、思わず感心してしまった、
「普通にこっちの世界の言葉でいいか?」
「えぇ……」
マカリオもケイも、この世界で生きた年月の方が長いので、もう日本語よりもこの世界の言葉の方が使い慣れている。
そのため、マカリオはこの世界の言葉で会話することを提案してきた。
ケイもその方が良いので、その提案に賛成する。
「あんたも元日本人だろ? 実は俺もそうなんだ」
「そうですか……」
さっきの会話で思っていた疑問が解消され、マカリオは嬉しそうに話をし始めた。
元日本人が、異世界で出会うなんて、どれほどの軌跡なのだろうか。
ただ、マカリオもケイも、この可能性があるかもしれないということは、僅かに想像していた。
自分のように前世の記憶を大なり小なり受け継いでいる人間は、この世界にはもしかしたら何人かいるかもしれない。
さらに、それが自分と同じ日本人であるということもあるかもしれない。
何故なら、自分がそうだからだ。
自分という証明がある以上、同じような人間がいないと決めつける方がおかしいと思っていた。
ただ、その可能性は本当に極々僅かで、いたとしても会うことができるとは思ってもいなかった。
なので、ケイは心底驚いたのだった。
「そうはいっても、小学校5年の冬までだが……」
「俺は高校3年の夏に……」
お互い前世が日本人だった2人は、自分が前世でどうだったかを簡単に説明し始めた。
マカリオは、小5の冬に弟を助けて車に轢かれ、命を落としたそうだ。
それを聞き、ケイも海で子供を助けて海で溺れたことを話した。
「それにしても、日向の女性に会えるなんて羨ましいな……」
「そうですか?」
先程、美花のことを見ていたのは、文献通り日本人と同じ特徴だということが確認できたからだそうだ。
「そっちと違って、こっちはドワーフ女性だからな……」
愚痴のようにマカリオは言い出した。
死んだと思ったらドワーフに転生したことは、全然何とも思っていない。
何せ王子なのだから。
食事や生活で不便な思いをしたことはなく、自由に生きてこられた。
前世の知識があるので、魔道具開発を色々していたら天才とまで言われるようになってしまった。
ただ、問題があったとしたら、結婚相手だ。
父や大臣たちが王子である自分に薦めてくるのは、ポッチャリ体系の女性たちばかりだったそうだ。
前世の記憶があるせいか、マカリオはスマートな女性が好みだった。
一時は獣人の女性ととも考えたが、いくら仲が良くても一国に肩入れするのは好ましくないと言われて諦めることになった。
「中でもスマートなあいつを選んだんだが、セベリノを産んだらすぐに太ってしまって……」
「そんなこと言ったら怒られますよ」
王妃であるフェリシタスは、数年前にもう亡くなっている。
壁にかけられている絵を見る限り、とても優しそうな女性に見える。
そして、ドワーフ女性らしくポッチャリした体型をしている。
その絵を見て言われたら、ケイもちょっとマカリオの言いたいことも分からなくもないが、亡くなった方のことを言うのは気が引ける。
「……聞かなかったことにしてくれ」
ケイがマカリオに対して軽めに注意をすると、フェリシタスとの昔のことを思い出したのか、マカリオは寂しそうに呟いたのだった。
「話は一先ずこの辺にしておくか……、これ以上長くなると皆に心配されるからな」
「えぇ」
本当はもっと色々と話したいところだが、マカリオは病み上がりだ。
そんな人間と長話しして、また体調が悪くなりでもしたらセベリノたちに申し訳ない。
そのため、名残惜しいが、この辺で話を終わらせることにした。
「同じ日本人の転生者仲間だ。困った事があったらちょっとは手を貸してやるよ」
「本当ですか?」
カンタルボスという後ろ盾は一応あるが、獣人国家全てに一目置かれているドワーフ王国もとなると、国同士が離れているとは言ってもケイとしてはかなりありがたい。
欲しい魔道具を作ってもらおうと思った時には、頼らせてもらうつもりだ。
「まぁ、そんな長いこと生きるとは思えないがな」
「笑えないですよ」
言葉遣いは若いが、年齢的にはかなりの高齢。
顏のシワや白い髭を見ると、マカリオの言っていることが冗談に聞こえない。
「では……」
「あぁ、またな」
このままだと本当に長くなってしまいそうなので、ケイはマカリオへ一礼してドアの方へと進みだした。
そのケイの後姿に向かって、マカリオは軽く手を振って見送ったのだった。
目の前の年老いたドワーフから発せられた言葉に、ケイは声を出せずに固まる。
鳩が豆鉄砲を食ったような表情とはこの事だろう。
信じられないと言ったように目を見開き、ドワーフの王であるマカリオ顔を見つめる。
『あれっ!? 違ったか?』
固まっているケイに、マカリオは自分の予想が間違っているのかと思い始める。
この1週間、魔道具の研究班から進捗状況は聞いていた。
そして、ケイの助言によって新しい魔道具ができたという話を聞いていた。
出来上がった魔道具を見せてもらい、引っかかるものを感じた。
なので、マカリオはケイと直接会うことを望んだのだ。
「何で……」
『んっ?』
反応がないため、マカリオが勘違いだったと息子のセベリノたちを呼ぼうとしたところで、ケイがようやく口を開いた。
『何で転生者だと……?』
『…………やっぱり、そうか……』
驚いて声も出なかったのは、老いたドワーフのマカリオが、日本語で美花も知らないケイの秘密を話して来たからだ。
久々に日本語を聞き、ケイも同じ言葉で返す。
すると、マカリオは納得したような表情をして頷いた。
この世界には、美花の両親の出身地である日向という国がある。
聞いた情報からだと、昔の日本と同じような文化を形成しているらしい。
そして、日向語という日本語と同じ言葉を使うことが、美花から聞いて分かっている。
このドワーフももしかしたら日向語を話しているという可能性もあるが、転生者なんて言葉が出てくるところを見ると、日向語というより日本語を使っているとケイは考えた。
『炊飯器なんか考えたら、そりゃ気付くよ』
この1週間で、魔道具研究所の研究員たちとケイが完成させたのが、炊飯器だった。
男性が調理をするとなると、酒のつまみしか作らないため、どうしても女性が料理をする機会が多い。
ドワーフ女性は手先が器用だから、料理も上手な人間が多い。
しかし、服飾などの仕事が忙しいと、料理に使う時間が短くなってしまい、いくら彼女たちでも手抜き料理をしたくなる。
そこで、そういった女性のために、料理を作る魔道具の開発をということになったのだが、研究所の人間は料理をしない人間ばかりで、何を作っていいか分からない。
こういう時に国王で天才のマカリオがいれば、何かしらのアドバイスをもらえるのだが、病でそういう訳にもいかない。
そこでケイが提案したのは、炊飯器だった。
ドワーフ王国も米は食べる。
ただ、パンとの比率が半々なのだそうだ。
朝と昼がパンが多く、夜が御飯という家庭が多いそうだ。
そうなると、作るのに困るのは夜の飯炊きではないだろうか。
コンロの魔道具もあるそうだが、まだ普及していないらしく、竈の家が多いとなると飯炊きの鍋から目が離せないし、時間がかかる。
せめて御飯が簡単にできれば、おかずの調理だけに専念出来て良いのではとケイが言うと、研究員たちは目を輝かせた。
そうして炊飯器を作ることに決定したのだが、マカリオからすると、すぐに炊飯器を思いつくなんてあからさまに怪しく感じたのだそうだ。
それを聞いて、ケイもなるほどと、思わず感心してしまった、
「普通にこっちの世界の言葉でいいか?」
「えぇ……」
マカリオもケイも、この世界で生きた年月の方が長いので、もう日本語よりもこの世界の言葉の方が使い慣れている。
そのため、マカリオはこの世界の言葉で会話することを提案してきた。
ケイもその方が良いので、その提案に賛成する。
「あんたも元日本人だろ? 実は俺もそうなんだ」
「そうですか……」
さっきの会話で思っていた疑問が解消され、マカリオは嬉しそうに話をし始めた。
元日本人が、異世界で出会うなんて、どれほどの軌跡なのだろうか。
ただ、マカリオもケイも、この可能性があるかもしれないということは、僅かに想像していた。
自分のように前世の記憶を大なり小なり受け継いでいる人間は、この世界にはもしかしたら何人かいるかもしれない。
さらに、それが自分と同じ日本人であるということもあるかもしれない。
何故なら、自分がそうだからだ。
自分という証明がある以上、同じような人間がいないと決めつける方がおかしいと思っていた。
ただ、その可能性は本当に極々僅かで、いたとしても会うことができるとは思ってもいなかった。
なので、ケイは心底驚いたのだった。
「そうはいっても、小学校5年の冬までだが……」
「俺は高校3年の夏に……」
お互い前世が日本人だった2人は、自分が前世でどうだったかを簡単に説明し始めた。
マカリオは、小5の冬に弟を助けて車に轢かれ、命を落としたそうだ。
それを聞き、ケイも海で子供を助けて海で溺れたことを話した。
「それにしても、日向の女性に会えるなんて羨ましいな……」
「そうですか?」
先程、美花のことを見ていたのは、文献通り日本人と同じ特徴だということが確認できたからだそうだ。
「そっちと違って、こっちはドワーフ女性だからな……」
愚痴のようにマカリオは言い出した。
死んだと思ったらドワーフに転生したことは、全然何とも思っていない。
何せ王子なのだから。
食事や生活で不便な思いをしたことはなく、自由に生きてこられた。
前世の知識があるので、魔道具開発を色々していたら天才とまで言われるようになってしまった。
ただ、問題があったとしたら、結婚相手だ。
父や大臣たちが王子である自分に薦めてくるのは、ポッチャリ体系の女性たちばかりだったそうだ。
前世の記憶があるせいか、マカリオはスマートな女性が好みだった。
一時は獣人の女性ととも考えたが、いくら仲が良くても一国に肩入れするのは好ましくないと言われて諦めることになった。
「中でもスマートなあいつを選んだんだが、セベリノを産んだらすぐに太ってしまって……」
「そんなこと言ったら怒られますよ」
王妃であるフェリシタスは、数年前にもう亡くなっている。
壁にかけられている絵を見る限り、とても優しそうな女性に見える。
そして、ドワーフ女性らしくポッチャリした体型をしている。
その絵を見て言われたら、ケイもちょっとマカリオの言いたいことも分からなくもないが、亡くなった方のことを言うのは気が引ける。
「……聞かなかったことにしてくれ」
ケイがマカリオに対して軽めに注意をすると、フェリシタスとの昔のことを思い出したのか、マカリオは寂しそうに呟いたのだった。
「話は一先ずこの辺にしておくか……、これ以上長くなると皆に心配されるからな」
「えぇ」
本当はもっと色々と話したいところだが、マカリオは病み上がりだ。
そんな人間と長話しして、また体調が悪くなりでもしたらセベリノたちに申し訳ない。
そのため、名残惜しいが、この辺で話を終わらせることにした。
「同じ日本人の転生者仲間だ。困った事があったらちょっとは手を貸してやるよ」
「本当ですか?」
カンタルボスという後ろ盾は一応あるが、獣人国家全てに一目置かれているドワーフ王国もとなると、国同士が離れているとは言ってもケイとしてはかなりありがたい。
欲しい魔道具を作ってもらおうと思った時には、頼らせてもらうつもりだ。
「まぁ、そんな長いこと生きるとは思えないがな」
「笑えないですよ」
言葉遣いは若いが、年齢的にはかなりの高齢。
顏のシワや白い髭を見ると、マカリオの言っていることが冗談に聞こえない。
「では……」
「あぁ、またな」
このままだと本当に長くなってしまいそうなので、ケイはマカリオへ一礼してドアの方へと進みだした。
そのケイの後姿に向かって、マカリオは軽く手を振って見送ったのだった。
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