エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
170 / 375
第8章

第170話

しおりを挟む
「えっ? 港へ入港できない?」

 もうすぐ港に入り、ドワーフ王国へと入国する予定だったケイたち一行。
 しかし、港は見えているのに停泊できる場所がなく、少し離れた海の上で留まっているしかない状況になっている。
 入港できないという情報を聞いて、ケイたちは呆気にとられた。

「どういう訳だか多くの船が停泊していて、この船を泊める場所が見つからない状況です」

 普段なら、漁船や小型の客船などが停泊しているとは言ってもいくつか停泊できる場所があるものなのだが、今日に限って何故だか泊める場所が見つからない。
 他にも停泊場所を探している船があるが、この船同様場所がなく漂っているしかできない状況になっている。

「……なんかあったのかな?」

 着岸できないのであれば仕方がない。
 なので、船は少し離れた沖で留まることになった。
 錨を下ろして、船をとりあえず泊めた状態で岸を眺めていると、何だか町が騒がしくなっているように思える。
 多くの人が慌てるように船に荷物を積んでいて、発車がいつでもできる状態になっている。
 その様子を見ていると、何かに追われているようにも見える。

「近付けなければ何が起きているのか分からないな……」

 リカルドも何が起きているのかは分からないが、何かが起きているということを察知した。
 しかし、望遠の魔道具を使用して見渡しても、遠い海の上からでは判断が付かない。

「ケイ! 見てくれば?」

 何が起きているのか分からないなら、船から岸まで飛んで確認だけでもしてくればいい。
 そうすれば、港に入れないでいる理由が分かるかもしれない。
 そのため、美花は軽い感じでケイに確認に行かせようとしてきた。
 ただ、この船の場所から岸にまでは結構な距離がある。

「いや、俺一人行っても……」

 別に岸まで飛ぶことができない訳ではないが、入国には色々と手続きが必要になる。
 初入国であるケイが審査もなしに入国すれば、不法入国を疑われるかもしれない。
 そんなことになったらエルフの印象が悪くなってしまう。
 なので、美花の提案にケイはためらってしまう。

「なら、私も行こう!」

「えっ?」

 ケイが様子を見に行くのをためらっていると、リカルドが一緒に行くと手を上げた。
 一国の王なのだから、何か起きているかもしれない所に乗り込んで行くのはいかがなものかと思う。

「ケイ殿のことも説明できるし、あそこまで飛べるとなると私くらいだろう?」

 たしかに、何度か入国経験のあるリカルドも一緒なら、ケイが密入国ではないということを証明してもらえるかもしれない。
 それに、この船から岸まで飛ぶにしても、かなりの実力がないと届かないだろう。
 となると、リカルドと一緒に確認に行ってくるしか選択肢がなくなってきた。

「護衛の人たちは?」

「美花殿の護衛に付いていてもらう」

 元々、リカルドは護衛なんて必要ない程の実力の持ち主だが、置いて行くのはどうなのだろう。
 ケイか美花の転移魔法でなら全員一緒に岸へと移動できるかもしれないが、あまり転移魔法が使えるということは知られない方が良いと言われている状況では、ここでそれを使う訳にはいかない。
 しかし、何かあったとしても美花を守ってもらえるなら、どうなろうが心配はなくなった。

「……じゃあ、様子を見に行ってきますか?」

「えぇ!」

 とりあえず、ドワーフ王に会うにしても、船のことをどうにかしなくてはならない。
 ケイはリカルドと共に、船から岸へと飛んだのだった。






「ぐっ!? いったいどうなってるんだ?」

 ケイたちが海岸へと降り立ったころ、魔物の大群と戦っていたドワーフたちは、町の城壁付近まで下がって来ていた。
 そして、味方が怪我をして離脱して減っていくのを見て、隊長格の男は悔し気に声をあげる。
 味方は怪我をしてジワジワと減っていくのに、魔物の群れは一定数からずっと変わらない。
 倒しても、その分補充されているかのように魔物が増えている。

「隊長! このままでは全滅してしまいます!」

 仲間の数が減っている上に、この魔物の数ではとてもではないが勝てる見込みがない。
 怪我人が運ばれて行っている様子で、恐らく町中の住人たちも慌てている状況だろう。
 このままでは町中への侵入も阻止できないかもしれない。
 部下の男は、隊長の男に対して一度退き、形勢を立て直すことを求めた。

「くっ!!」

 これ以上退くとなると、城壁を利用した戦いになる。
 これほどの魔物の数を相手に、籠城戦が通用するかは疑わしい。
 ならば、この場で玉砕覚悟で攻め込むという選択も浮かぶ。
 そのため、隊長の男は退くという選択をためらう。

「隊長!!」

 隊長の男が考えていることを察したのか、先程の部下の男はまたも隊長に退くことを求める。
 魔物がどうして減らないのか原因が分からない状況で、玉砕覚悟を選択するのはリスキーだ。

「撤退だ!! 総員城壁内へと避難を開始しろ!!」

「「「「「おうっ!!」」」」」 

 部下の考えは正しい。
 自分一人で突っ込むのなら自己責任で済ませることができるが、部下の命を請け負う立場ではそんなことを選択する訳にはいかない。
 反撃の機会をしっかりと見つければ、勝てないとは思えない。
 その機会を作るためには、敵のことをよく見て解析するしかない。
 隊長の男は、自分が殿の立場に立ち、部下たちが城内へ退くことを指示したのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ
ファンタジー
そのドワーフは熱く燃えていた。そして怒っていた。 魔王軍の侵攻で危機的状況にあるヴァルシパル王国は、 魔術で召喚した4人の異世界勇者にこの世界の危機を救ってもらおうとしていた。 ひたすら亜人が冷遇される環境下、ついに1人のドワーフが起った。 ドワーフである自分が斧を振るい、この世界の危機を救う! これはある、怒りに燃えるドワーフの物語である。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

処理中です...