上 下
159 / 375
第7章

第159話

しおりを挟む
「おっす、終わったぞ」

「お帰り」

 サンダリオを始末し、基地内から転移したケイたちは、近くの山へと来ていた。
 虫の魔族によって呼び寄せられた魔物たちの残りを始末をするために、リシケサの兵たちが戦っているのが見える。
 まさか、この間に自分たちの王が殺されているとは思ってもいないだろう。
 ケイたちが戻ってきた場所には、レイナルドが待っていた。

「リカルド殿があっさりと済ませてくれたよ」

「ハッハッハ……、殴ったら一発だったわ」

 レイナルドも知りたいだろうと、ケイはどういう風にサンダリオを倒したのかを説明し始めた。
 とは言っても、リカルドが言ってしまったので、詳しく説明するようなことなんかはないのだが、一応どういう風に終わったかを話した。

「父さんたちが殺ったって分かるの?」

 リカルドならサンダリオをあっさり殺ってしまっても仕方ない。
 なので、そこには何も思わないが、殺した人間がエルフや獣人だと広まらないと抑止力に繋がらない。
 ケイが思ったのと同じことを、レイナルドは心配になった。

「豚みたいな貴族の男がいたから、そいつ脅して広めるように言ってきた」

 レイナルドの質問に、リカルドが答えを返す。
 サンダリオの側にはアレホとか言う太った貴族がいたので、ケイたちが脅してきたことを告げる。
 ケイに対してはたいして恐怖を抱いている様には思えなかったが、リカルドが最後に念を押した時はしっかりと返事をしていたので、どうにか広めてくれることだろう。

「そいつで大丈夫なの?」

「豚でも辺境伯らしいから大丈夫だろ?」

 脅したからと言って、そいつの言うことを信じる者がいるか分からない。
 そのため、レイナルドは不安そうに尋ねてくる。
 たしかに、アレホの奴しか目撃者がいないのでは、信用してもらうことができるかどうか分からない。
 むしろ、犯人として捕まるかもしれない。
 それでも辺境伯の地位にいるような男なら、きっと何とかしてくれるだろう。

「あっ!?」

「んっ?」「ムッ?」

 ケイたちが話していると、基地の方で何か動きがあった。 
 先程ケイたちが言ったような特徴を持った太った男が、基地から出て来て何か騒ぎ始めていた。
 それを、ケイとレイナルドは望遠の魔法で、魔法が苦手なリカルドは、望遠の魔道具を使ってそれを眺める。
 
「もしかして、自分が見つけた時にはサンダリオが死んでいたという風に説明しているのかな?」

「……かもな」

 基地から出てきたアレホは、身振り手振りで他の兵たちに説明をしているようだ。
 アレホのいうことを確認するためだろうか、近くにいた兵たちはすぐさま基地内へと走り始めた。
  
「いや、もしかしたら犯人はまだ基地内にいると言っているのかもしれないぞ」

「なるほど……」

 ケイとリカルドは基地内から転移してきたため、近くにいた兵たちは基地から出てきた者はいないと分かっているはず。
 アレホも、廊下を見たらケイたちの姿が消えたようにいなくなったと思ったはずだ。
 王都の王城を攻め込んだエルフと獣人は、大量の兵に包囲された状態から姿を消したと広まっている。
 それを今回も利用して、ケイたちが犯人だということを広めるつもりなのかもしれない。

「あいつ、なんだかこれで撃ちたくなるな……」

 レイナルドの言うこれとは、遠距離狙撃用のライフルのことだ。
 虫の魔族が逃走を計ろうとしたのを邪魔したのは、実はレイナルドだったのだ。
 逃げられて魔族の仲間を増やされでもしたら、かなり面倒なことになる。
 人よりかは対処しやすいという思いがあったとしても、数が多ければ魔力が持つかというのが不安になってくる。
 人族の連中は好かないが、ここで始末しておいた方が良いと思った。
 そのため、ケイから預かったライフルを使って逃走阻止をしたのだった。
 アレホが騒いだことで、段々と兵が基地に集まってくる。
 魔物の次は、先代の王を殺したエルフと獣人の相手をすることになったため、兵たちは疲労しながらも気合十分で基地内へと入って行く。
 アレホはそれを見て、どことなくどや顔をしているように見える。
 その顔が気に入らないのか、レイナルドは物騒なことを言い出す。

「やめとけよ。あんなのでも役に立つんだから」

「殺らないよ」

 ちょっと本気で言っているように聞こえたので、ケイはレイナルドに注意をする。
 レイナルドも本気で言ったつもりはない。
 なので、ちゃんと否定をした。

「仕事があることだし、そろそろ帰ろうか?」

「そうですね」

 今回リカルドは、国内での書類仕事をしなければならなかいため、見に来ることができないでいた。
 しかし、やっぱりリシケサの王都襲撃で仕留め損ねたサンダリオの始末を見届けたいだろうと、ケイはリカルドの息子のエリアスに頼んで連れてくることに成功したのだった。
 ただし、絶対に今日のうちに帰ってくるように念を押された。
 それをしないと、リカルドの妻のアレシアが何をするかわからないと脅しのようなことを言われていた。
 それを聞いたリカルドは、顔を青くして頷いていた。
 ケイはアレシアがそんなに怖いようには思えないが、リカルドが怯えるほどなのだから、それはきっちり守ることを約束した。
 リカルド1人だけなら長距離転移も苦ではない。
 目的のサンダリオの始末も住んだことだし、約束通りリカルドをカンタルボスの国に送り届けるため、ケイは転移魔法を発動させたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

蛇と龍のロンド

海生まれのネコ
ファンタジー
一つの宇宙の片隅にある、魔界の神により平定されたことに端を発する宇宙文明。 多くの星々の者達が宇宙を旅して共生関係を作り上げてから、四万年が経過した。 平和の中で成熟した、科学文明の中。 ただひたすらに平々凡々と生きようとしている青年が一人。 彼は自分に秘められた運命が何なのかを知らず、取りあえず楽して今日を生き抜こうとしていた。 ※「転生初心者の冒険」及び「転生魔王と麒麟の勇者」の、主人公を変更した続編です。 まずそちらをお読みいただけると嬉しいです。これ単品でも、何とか分かるようにはしてみますが……

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

処理中です...