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第7章

第158話

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「……脆いな」

 強めに殴ったらあっさり動かなくなったサンダリオを見ながら、リカルドは呟く。
 もう少しくらい戦う力があると思ったのだが、これでは話にならなかった。

「ヒッ、ヒィ~!!」

 一緒にいた太った貴族の男は、王であるサンダリオが殴られて動かなくなる所まで見ており、リカルドを相手に戦おうとする意志は完全に失せていた。
 涙・鼻水・涎を流しながら、みっともなく腰を抜かしている。

「……終わっちゃいましたね」

「申し訳ないケイ殿。あまりにも弱いので殺ってしまった」

 長身のリカルドの背後に立っていたためか、サンダリオと太った貴族の男はケイの存在に気付いていなかった。
 しかも、リカルドの拳1発で終わってしまったので、話すこともできないうちに終わってしまった。
 ケイも1発くらい殴りたかったはずなのに、自分だけで終わらせてしまったため、リカルドはちょっと申し訳なさそうにしていた。

「気にしないでいいですよ。リカルド殿」

 ケイは元々日本人。
 別に人殺しが楽しいとは思ったことはない。
 ただ、家族や仲間を守るためには戦わなければならないと思っているし、やられたらやり返すという気持ちだけは持っているだけだ。
 半沢〇樹じゃないが、今回のように倍返しするのは当然だと思っている。
 最終的にこの国をめちゃくちゃにできればそれで満足なので、別にサンダリオを誰が殺そうが関係ない。
 それがリカルドでも、隣国の手によってでも全然構わなかった。

「エ、エルフ……」

 リカルドが話しかけたことによって、ケイがいることに気付いた貴族の男は、その耳を見て小さく呟く。
 この貴族の男はその場を見ていないが、このエルフがサンダリオの父で先代の王であるベルトランを殺したというエルフだとすぐに察した。
 生きる人形でしかなかったエルフが、人を殺すようになったということを聞いているので、自分も殺されるのではないかと怯えたままでいる。

「この豚はどうするべきか……」

「そうですね……」

 怯えて蹴べ際まで逃げていた貴族の男を指さし、リカルドはケイに相談する。
 サンダリオを始末することだけを目的に基地内に進入したので、それが済んだ今この太った男には用がない。
 このまま放っておいても何の支障もない。
 装備を見る限り、魔族との戦いに参加しに来ているのだろうが、体型が完全に運動不足に見える。
 その装備も結構きらびやかな細工が施されている所を見ると、もしかしたら貴族なのかもしれないとケイは判断する。
 貴族なら多少は使い道があるかもしれないと、ケイはちょっとしたことを思いついた。

「おいっ!」

「ヒ、ヒィ~……」

 こいつにはちょっと動いてもらおうと、近付くとみっともない声をあげる。
 装備が一丁前のくせに、あまりにも見苦しい態度に、ケイは何だかイラついてきた。
 こういった連中に、昔のエルフの一族が好き勝手に扱われていたのかと思うと、何だか殴りたくなる。

“パンッ!!”

「あうっ!」

 思った時には思わず手が出ていた。
 魔力を纏っていないとは言っても、長い年月魔物を相手にしてきたことで、生身でもこの程度の男に負けるようなことはない。
 そんなに強くビンタしたわけではないが、貴族の男の口が切れ血が流れていた。

「話を聞け!」

「は、はい……」

 いい大人が涙や涎を流していることに引きそうになるが、こんな奴に無駄に時間を取られるのが嫌なので、ケイは少し語気を強めて話しかけた。
 貴族らしき男も無駄に刺激すれば命がないと思ったのか、震えつつも素直に返事をしてきた。

「名前は?」

「アレホ・デ・カルバル……です」

 どうせすぐに忘れるだろうが、ケイは一応この貴族の男の名前だけでも聞いておくことにした。
 貴族の男改めアレホが言うには、ここら辺の地方のことをカルバルというらしく、そこを治めているのがこのアレホなのだそうだ。
 爵位としては辺境伯らしい。
 いつ隣国が攻めて来るかも分からないようなこの地を受け持つのだから、実力などの面を考えるとこんなので良いのかと、ケイは関係ないながらも心配な気がする。
 本人曰く、大体はここの軍の隊長の男に仕事を任せ、成果だけ自分のものとしていたそうだ。

「サンダリオが誰に殺されたか、できる限り広めろ」

「そ、そんなことで……」

 ケイが出した条件のようなものに、貴族の男は意外な表情をする。
 たったそれだけのことで命が助かるのならお安いことだ。

「それが重要なんだよ」

 ケイの狙いとしては、この男に先代ベルトランだけでなく現王のサンダリオまでもがエルフと獣人に殺されたと言いふらしてもらうのが狙いだ。
 王都の城内から突如消えるようにいなくなり、その行方が分かっていないエルフと獣人がまたも現れたと聞かされれば、疑心暗鬼を生むことができるはず。
 それがこの国だけでなく周辺の国にまで広がってくれれば、島にちょっかいを出そうとする者たちへの抑止力になるかもしれない。

「じゃあ、行きましょうか?」

「そうですな」

 エルフと獣人に手を出すと恐ろしい報復が待っていると広めた所で、またケイたちの島に近寄ってくる者はいるかもしれない。
 しかし、何もしないよりはマシだろう。
 これでもう本当にやることもなくなったので、ケイとリカルドは帰ることにした。

「しっかり広めろよ」

「は、はい」

 エルフのケイだけだと、もしかしたらしっかり広めるか分からなかったため、リカルドも一旦足を止めてアレホに向かって念を押す。
 ケイ以上に恐ろしいリカルドに睨まれ、アレホはまたも顔を青くしながら首を縦に振った。

「…………………やっぱり、いない……」

 ケイとリカルドが謁見室からいなくなると、アレホは深く深呼吸した。
 そしてすぐに気が付いた。
 もしかしたら、ケイたちが前回のように姿を消す所が見れるのではないかと。
 そして謁見室から廊下に出てみた。
 そしたら、案の定2人の姿は消え失せていたのだった。

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