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第7章

第152話

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「何がおかしいの?」

 ケイの疑問の声に、息子のレイナルドが反応する。
 多くの魔物が人族の集団に襲い掛かっている風景にしか見えない。
 それの何がおかしいのか分からなかったからだ。

「本体の男がいない」

「えっ? ……本当だ」

 たしかに多くの魔物がいるが、その中には魔物を操っている男の姿が見えない。
 時折魔物が召喚されてきているということは、それ程離れてはいないのかもしれない。
 ケイとレイナルドは、望遠の魔法を使って周囲を見渡し始めた。

「いたっ! あそこだ」

 周囲を見渡していると、レイナルドが少し離れた所にある林から魔物使いの男が出てくるのを発見した。
 その背後には、色々な種類の魔物を従えている。

「もしかして殺られた分を補充して来たのか?」

 王都からここまでには、リシケサの兵だけでなく多くの魔物の死骸が転がっていた。
 いくら多くの魔物を使役できるからと言って、無限という訳ではないはず。
 殺られれば当然その分補充しなければ数が減っていく。
 なので、それを補充する必要がある。
 そのため、ケイは林の中に入って補充しに行っていたのだろうと判断した。

「数は増えてもあれじゃあ……」

 ケイの言いたいことはわかる。
 数の補充をしてきたというのも、恐らくはあっているとレイナルドも思う。
 というのも、奴が引き連れている魔物は無視系の魔物と言っても、蟻のように強力なパワーを持っているとかではなく、噛みつくくらいでしか攻撃できないような虫の魔物ばかり従魔にしてきたように見える。
 あの程度の魔物をぶつけようとしても、果たして役に立つのかは怪しいところだ。

「時間稼ぎかな……」

「時間稼ぎ? ……なるほど」

 ケイの呟きに、レイナルドはその意味を考える。
 そしてすぐその意味を理解した。
 あの魔物使いは自身の強さはいまいち。
 そのため、使役した魔物で相手を弱らせるという作戦を取っているのだろう。
 あの魔物使いは結構な魔力を持っており、多くの魔物を使役できる特殊な能力を持っているようだ。
 しかし、先ほども言ったように、使役した魔物が減れば補充しなければならなくなる。
 奴が魔力を消費するとしたら、魔物と従魔契約する時とその魔物を召喚するという時くらい。
 魔物との契約にはたいした魔力は使わず、召喚する時の方が魔力を消費するので、契約した魔物を連れて歩くか、現地で従魔の数を増やす方が魔力の消費は少ない。
 だが、あの男が使役している魔物の数は膨大。
 いくら魔力が多い方だと言っても、あれだけ従えていれば魔力の消費は激しい。
 それに、敵に投入する魔物の数をどんどんと増やさなければ、追いこんで行くことなどできないだろう。
 魔力回復、魔物の補充をする時間を稼ぐにしても、大した魔物でなくても従え必要があるのかもしれない。

「食事を取ったのか? 少し体がふっくらしている」

 魔物使いの男は、封印から解かれた時はガリガリで骨と皮のような体をしていた。
 それが今は少し肉が付いたようにも見える。

「その分少し魔力が増えているかな……」

 肉体が改善されたからだろう。
 魔物使いの魔力が少し増量されているように見える。

「無間地獄ってことかな?」

 ケイの分析を聞いていて、あの男の攻略法を考えていたレイナルドだったが、魔物を倒さないと男に近付くことができないうえに、魔物をどんどん追加されて行くことを考えると、先に体力が尽きるのはこちらになるかもしれない。

「いや、いつまでも続けられるということでもないだろう」

 はっきり言って、あの男を倒すのは難しそうに思える。
 そのことを例えてみたレイナルドだったが、ケイの方はそう思っていなかった。

「奴が数を増やすより早く魔物の数を減らすしかないな」

 たしかに魔物の相手は面倒だが、追加投入されるよりも早く、そして多くの魔物を退治していけば良いだけのことだ。

「それと魔物の補充をさせないようにすることだな」

 奴が面倒なのは、魔物の補充をしてくるところもある。
 その補充する隙を与えないことも攻略の鍵になって来るだろう。

「数が多いけど?」

 ケイが言っていることはもっともなことではあるのだが、如何せん数が多すぎる。
 補充をさせないというのも、レイナルドにはなかなか難しいところだと感じる。

「人間を相手にするよりはまだ楽じゃないか?」

「……なるほど」

 数だけで言えば、以前攻め込んで来たリシケサの者たちよりも多くの魔物を送っている気がする。
 それがあるから難しいと思っていたレイナルドだが、ケイは数よりも質の方が重要だと思っていた。
 魔物はたしかに攻撃力としては高い者ばかりだが、知能が低く攻め方が一辺倒な上に、連携という物をたいしてして来ない。
 しかも、魔法を使った攻撃をしてくるのは少ない。
 それを考えると、連携などを取ってくる人間の集団を相手にする方がかなり面倒に思えてくる。
 ケイのその説明に、レイナルドはなんとなく納得する。

「でも……」

「ん?」

 色々と話してきたが、レイナルドはあることが気になった。

「あの魔物使いは何で逃げている兵たちを追いかけているのかな?」

「……たしかにそうだな」

 封印が解かれて、目の前に敵がいたから抵抗するために魔物を召喚したというのは分かる。
 しかし、逃げて行った敵をわざわざ追いかけるのは意味が分からない。
 深追いして反撃にあってやられたら、せっかく封印が解かれた意味がなくなる。

「このままだと、派遣していた軍が参戦して来るんじゃ……」

 リシケサの国は北と東の国と仲が悪い。
 いつ攻め込んでくるか分からないため、軍を国境付近に配備している。
 ここからはまだまだ遠いが、東へ向かえばその配備した軍の所へたどり着いてしまうだろう。
 そこまでいかなくても、王都の崩壊で他の町から兵が集結してしまう可能性もある。
 そんなことになったら、やられる可能性が高まるだけだ。

「封印が解けたばかりで何も考えていないのか……、封印された腹いせをしているのか……」

「知能が低いのかな?」

 魔物使いの男がやってることがよく分からないため、ケイたちはなんとなく馬鹿なのかと思った。
 たいしたことない魔物を従えて、また魔物使いは兵たちを追いかけて行っている。
 それを見ると、やっぱり馬鹿と思ってしまうのは仕方がないかもしれない。

「このまま放って置いていいの?」

「ん~……、どうするか?」

 このままだと、せっかく封印を解いてあげたというのに、魔物使いはやられてしまう可能性がある。
 できればもっとこの国に被害をもたらしてくれると、ケイたちとしては気分が良いところだ。
 ケイとレイナルドは、魔物使いをどうしようか悩むのだった。

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