上 下
150 / 375
第7章

第150話

しおりを挟む
「どこでもスタンピードって所かな?」

「おぉ、お前上手いこと言うな」

 レイナルドがシャレにならないようなことを言うが、ケイはまさにその通りだと思い褒めていた。
 現在、ケイとレイナルドは王都内で姿をローブで隠しつつ、町の時計台から王城を見下ろしている状況だ。
 ケイたちによって封印されていた何かが解放されてから、町は少しづつ騒がしくなってきている。
 どうやら、その何かが魔物を召喚して暴れているとのことだ。
 普通の人間は必要としないので、望遠の魔法は使えない。
 なので、市民は噂が広がって知る所になっているのだろうが、ケイたちは遠くから王城をのんびり眺めながら、その出現した何かに目を向けている。

「虫系の魔物使いかな?」

「あぁ、そうだな……」

 城からは多くの魔物が出てきている。
 その多くは蟻。
 その蟻相手に兵たちが奮闘しているのが見える。

「あっ! サンダリオの奴逃げてやがるな……」

 よく見てみると、王になったサンダリオは兵に誘導されながら城から避難している。
 サンダリオが殺されるところを見て、島に帰りたいところだが、これでは無理そうだ。

「…………出てきた」

「あれだな……」

 城からワラワラと出てくる虫たち。
 その中にボロボロの服を着た1人の男が、一際大きな蟻に乗って現れた。

「女王蟻か?」

 多くの魔物を使役するには、かなりの魔力を必要とする。
 しかし、数多くの魔物を使役するには他の方法もある。
 それは蟻や蜂の女王を従える方法だ。
 女王の指示に従って行動する兵隊を間接的に使えば、魔力を省エネできる上に数の確保ができる。
 数を必要とするにはうってつけのなのが、蟻や蜂の魔物なのだ。
 その蟻を使役しているのが、女王蟻に乗ったあの男なのだろう。

「確かに魔力が多いみたいだね……」

 出てきた男は蟻だけでなく、他にも虫の魔物を召喚して周囲を破壊して行っている。
 立派な城も、魔物によって穴が幾つも開けられている。
 リシケサの兵たちも懸命に魔物の相手をしているが、倒しても増えてくる魔物の相手でいっぱいいっぱいになっている。
 とても城の破壊を止められる状況ではない。

「……なんかおかしいな」

「何が?」

 このままなら城の崩壊も遠くないだろう。
 しかし、ケイはそんなことはどうでもよく、封印から解かれた男のことをじっと見ている。
 そして、その男の違和感に首を傾げた。
 レイナルドは、何がおかしいのかケイに問いかける。

「あの魔物使いの魔力の流れが普通の人と違うような……」

「えっ?」

 望遠の魔法で見ながら、ケイは魔物使いの男のことを鑑定してみる。
 もしも戦うことになった場合、男が脅威になるかを判断するためだ。
 鑑定してみると、男の体に流れる魔力に違和感を感じる。
 これまで見てきた人間とは微妙に違うように感じる。

「……確かに」

 ケイの言葉を聞いたレイナルドも、男を見てみる。
 そして、同じく違和感を感じた。

「あれだけの魔物を操られたら封印したくなるのも分かるな……」

 違和感の正体は分からないが、封印から解かれた男はドンドン魔物を召喚していく。
 城はもう原形を留めていないほどに破壊されている。
 ワラワラと蠢く多くの虫の魔物に、レイナルドは若干引き気味に呟く。

「パッと見た感想だと、あいつ自体はそんなに強くない気がする」

「そう?」

 たしかに多くの魔物は厄介だが、それを抜きにすれば、たいした脅威には思えない。
 封印が解かれたばかりで、弱っているのかもしれないが、それでもケイは戦って勝てる気がする。
 魔物のことが頭から拭えないレイナルドは、そうは思えないのか、ケイの評価に首を傾げている。

「お前でも倒せるんじゃないか? 魔物がいなければだけど」

「それ無理って事じゃん」 

 あの男相手に戦うとなると、魔物の相手が不可欠になる。
 魔物がいなければ勝てるということは、そんな状況に持ち込まなければ勝てないということだ。
 スタンピードを一人で止めなければならないなんて、無茶が過ぎる。
 ケイの言葉に、レインルドはツッコミを入れた。

「父さんやリカルド殿なら倒せるのか?」

「……たぶんな」

 ケイなら膨大な魔力を利用し、魔法で魔物を削ってから戦うことになるだろう。
 魔物の数がどれほど出るのか分からないが、なんとなく勝てる気がする。
 カンタルボス王国の王であるリカルドも、あの肉体から繰り出す圧倒的パワーで魔物を倒してしまうだろう。
 封印が解かれた男の怖いところは、奴自身の戦闘力などではなく、大量の魔物を使役する力だ。
 それがなければたいした相手ではない。
 なので、リカルドも恐らくは勝てるだろう

「あっ! 崩れた……」

 虫たちの破壊によって、とうとう城が崩れ出した。
 それを見て、リシケサの兵たちは唖然としている。
 国の象徴でもある城が、無残にも瓦礫の山へと変わってしまったからだ。
 城が破壊され、魔物の集団に囲われたままの男は、今度は町の破壊に進みだした。
 サンダリオの指示を受けたのか、多くの兵が連携を取って魔物へと向かって行っているが、数は魔物の方が上のようで、ジワジワと町が魔物に破壊されて行っている。
 ケイたちとリカルドの襲撃で、評判の落ちたリシケサは隣国の侵攻に注意をしている。
 そのため、兵を呼び戻したくても呼び戻せないのだろう。
 王都の兵は増えてはいないようだ。
 このままでは王都の壊滅がされてしまうかもしれない 

「そろそろ、放っておいて帰ろうか?」

「そうだな。市民の避難が開始されたみたいだし……」

 時計台から見下ろすと、王都の兵たちが不利だということを聞いた市民たちが、慌てて町から逃れようとし始めていた。
 人族の全滅などとまでは思っていないので、ケイは市民のことは見逃すことにした。
 これ以上ここにいてもやることもないので、レイナルドに転移の扉を開いてもらい、ケイはアンヘル島へと帰っていったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

無人島ほのぼのサバイバル ~最強の高校生、S級美少女達と無人島に遭難したので本気出す~

絢乃
ファンタジー
【ストレスフリーの無人島生活】 修学旅行中の事故により、無人島での生活を余儀なくされる俺。 仲間はスクールカースト最上位の美少女3人組。 俺たちの漂着した無人島は決してイージーモードではない。 巨大なイノシシやワニなど、獰猛な動物がたくさん棲息している。 普通の人間なら勝つのはまず不可能だろう。 だが、俺は普通の人間とはほんの少しだけ違っていて――。 キノコを焼き、皮をなめし、魚を捌いて、土器を作る。 過酷なはずの大自然を満喫しながら、日本へ戻る方法を模索する。 美少女たちと楽しく生き抜く無人島サバイバル物語。

いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
電車をおりたら普通はホームでしょ、だけど僕はいつもの電車を降りたら異世界に来ていました 第一村人は僕に不親切で持っているものを全部奪われちゃった 服も全部奪われて路地で暮らすしかなくなってしまったけど、親切な人もいて何とか生きていけるようです レベルのある世界で優遇されたスキルがあることに気づいた僕は何とか生きていきます

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...