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第7章

第145話

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「ハッ!!」

「フンッ!!」

 リカルドが地下で近衛兵たちと戦っている頃、エリアスとファウストの兄弟は、囚人兄弟のトリスタンとハシントと戦っていた。
 兄同士、弟同士で戦っているが、エリアスたちが思っていた以上にトリスタンたちには実力があった。
 ただ、トリスタンたちは武器がなく、使えるのは足に付けられた鉄球くらいのものだ。
 トリスタンたちはその鉄球を盾のように使い、エリアスたちの攻撃を防いだ後、反撃をするスタイルで戦っている。
 剣を使って戦っているエリアスたちは、その攻撃を受けることはなく、いまだ無傷だ。
 それに反して、トリスタンたちは鉄球だけでは防ぎきる事などできず、ちょこちょこと切り傷を増やしていている。

「「「「っ!?」」」」

「んっ? 何だこの煙!?」

 エリアスたち優勢で戦っていると、地下へと続く階段から白い煙がモクモクと沸き上がって来た。
 これにはトリスタンたちだけでなく、エリアスたちも驚いた。
 地下から上がって来たと言う事は、父であるリカルドたちに何かあったのかもしれない。
 そして、煙はドンドンと沸き上がり、ここにいる4人の姿を覆い隠した。
 誰がどこにいるかは、全く見えることができない。

 その状態で動いたのはエリアスたちだった。
 自分たちは獣人のため、鼻を使えばだれがどこにいるかは分かっている。
 しかし、人族のトリスタンたちはそうはいかない。
 何も見えなくなっているうちに仕留めてしまおうと、エリアスとファウストはトリスタンたちに襲い掛かった。

「っ!?」「……っと!?」

““ガキンッ!!””

「「っ!?」」

 煙の中を静かに動き、襲い掛かったエリアスたちの剣を、トリスタンたちは鉄球で防いだ。
 それは、視界が煙で見えなくなっているのにも関わらず、さっきまでと大差ない動きだった。
 静かに襲い掛かったのにそのように反応するということは、ちゃんとエリアスたちのいる場所が分かっているということだ。

「何だ? この状態で戦えないとでも思ったのか?」

「俺たちはそんな雑魚じゃねえっての……」

 トリスタンとハシントは攻撃を止められたことに驚いているエリアスたちの表情を、煙で見えないにもかかわらず言い当てた。
 どうやら思った通り見えているようだ。

「でも、騎士のようなエリートは、俺たちみたいに魔物と戦うことが少ない。だから探知ができないのが多いんじゃなかったっけ?」

「そいえばそうだな……」

 ハシントの言葉にトリスタンは納得する。
 盗賊でつかまった2人だが、そうなる前は冒険者として働いていた時期がある。
 警備などで戦う事がある騎士たちの稽古は、対人に対しての稽古が多い。
 そのため、決まった型を訓練することが多く柔軟な発想ができない。
 視界を遮られた時にどう戦うかなどという訓練なんてやったりしないのではないだろうか。
 逆に冒険者の時は、強い魔物を狩る方が金になるため、色々な魔物の色々な攻撃に対応するためにどうしてもバリエーション豊富な戦い方が求められる。
 そんな中、探知が自然と鍛えられたのは偶然だが、必然だった。

「……思っていたより面倒だな」

「兄上には策がありますか?」

 トリスタンの攻撃はパワー重視。
 かと言って、遅いわけではないがエリアスは躱せる。
 1撃でも食らえば痛手を負うかもしれないが、武器が鉄球だけでは当てられることはだろう。
 攻防を繰り広げながらふと思うのは、本来の武器を持った状態の彼らと戦いたかったということだが、今はそんな状況ではない。
 一方、速度勝負のファウストとハシントだが、ファウストの方が全てが僅かばかり上を行っていて、こちらも大差がないようだ。
 どうやって攻撃を当てようか考えているエリアスに対し、ファウストには何か策があるような口ぶりだ。

「あることにはあるが……」

 エリアスにも実践で試してみたい技術が一応ある。
 しかし、まだ練習段階で実践で試したことがない。
 できればもっと完成した段階で試してみたいのだが、ほぼ互角の相手などなかなか巡り合うことはない。

「やってみるか……」

 他に策が見つからないことだし、実戦で試せるのはこの機会しかないかもしれない。
 そう思ったエリアスは、この策を試してみることにした。

「行くぞファウスト!」「了解!」

 攻防を繰り広げている間に、煙も薄くなってきて、視界も少しづつ回復してきている。
 僅かにトリスタンたちの影が見えている状況で、エリアスたちは気合いと共に床を蹴った。

「「っ!?」」

 先ほどまでよりも上がった速度でエリアスたちが動く。
 その速度に、トリスタンたちは驚きで目を見開く。
 残像のように動くエリアスたちの移動に、何とか探知だけは反応するが、体の方が間に合わない。

「がっ!?」「ぐわっ!?」

 トリスタンとハシントが相手に懐に入られたと分かった瞬間、鉄球を投げつけるようにして攻撃をしてきた。
 しかし、そんな攻撃が速度の上がった2人に通じる訳もなく、エリアスたちはあっさりと躱して剣を振った。
 それによって、腹を裂かれたトリスタンとハシントは、大量の出血をして床へと倒れ伏したのだった。

「……兄上も同じことを考えていたのですね?」

「そうみたいだな……」

 エリアスたちがやったことは、父のリカルドがケイと戦った時にやった技術だ。
 ケイもセレドニオとライムンドに追い込まれた時に真似をしたが、必要なとき必要な分の魔力を纏う魔闘術の1つだ。
 獣人は魔力が少なく、戦う時には使い道がなかった。
 しかし、リカルドはケイが魔力を使いこなすことによって、自分と同等の戦闘力を見に付けたことに感化された。
 少ないとは言っても、魔力を使えば獣人も強化できるのではないか。
 そんな思いつきを、いきなり本番でやってしまうのが父であるリカルドのすごいところだが、エルフのケイにとっては諸刃の剣だが、獣人にとっては使いこなせた方が良い技術かもしれない。
 エルフのケイは、魔力を纏っていない場所に攻撃を食らえば大ダメージを受ける。
 だが、獣人の彼らからすると、生身が頑丈なため失敗して攻撃を受けても、ダメージを受けても大怪我をすることは少ない。
 失敗した時のリスクが低いということだ。
 これによって、獣人の戦闘の幅が広がったということだ。
 しかし、これはれっきとした魔闘術の一種。
 使いこなすのは相当な才能がないとできないことだ。
 天才の子は天才とは限らないのだが、どうやらエリアスたちはリカルドの才を受け継いだようだ。

「練習したのか?」

「結構ね……」

 ファウストは、エリアスが自分と同じように練習しているとは知らなかった。
 しかも、アンヘル島に行ったときにカルロスに魔闘術を教わって練習していた自分とは違い、独学で成功させる所まで持ってきているとは思わず、やっぱり兄には勝てないと思ったのだった。



「ようっ! こっちも片付いていたか……」

「「父上!?」」

 トリスタンたちを倒し、少し休憩をしていたエリアスたちのいるところへ、地下への階段からリカルドたちが上がって来た。
 こんな事なら、少し待ってリカルドに参戦して貰えば簡単に済んでいたかもしれない。
 ちょっと無茶をする必要もなかった。
 まぁ、リカルドが数的優位で敵と戦うということを良しとするかは分からなかったが。

「城下の見晴らしが良いところへこいつを連れ行く。始末が終わったらさっさとずらかるぞ」

「「はい!」」

 紐を結ばれ逃げられない状態のベルトランを指さして、リカルドは今後のことを話し始める。
 当初の予定通りに進んでいるらしく、エリアスたちは返事をする。

「サンダリオの奴を探している城内のカンタルボスの兵を集めろ!!」

「「はい!!」」

 予定通りではないとすると、この国の王子のサンダリオの姿が見つからなかった。
 もしかしたら、城内を探していた者が見つけているかもしれない。
 転移するには集まっていた方が時間の短縮できる。
 息子たちに連れてきた兵の招集を任せ、リカルドはケイたちと共に城の上部へと向かって行ったのだった。

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