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第7章

第138話

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「……何だ!?」

 サンダリオだけでなく、このテラス周辺に集まって来ていた市民や演説をしていたベルトランも、何やら町中が騒がしいことに気付き始めた。
 とは言っても、何が起きているのか分からない。
 ベルトランは演説を注視して、近くの兵に目配せをする。
 それによって一人の兵が動き出し、様子を見に向かって行った。

「獣人だ!!」

 その兵はすぐに戻って来た。
 慌てたように走ってくると、大きな声をあげた。

「獣人が攻めてきたぞ!!」

 まさかの発言に、集まった者たち全員が一瞬固まる。
 それに対して、兵はもう一度何が起きているのかを説明した。

「なっ!? 王都襲撃だと……」

 一瞬固まっていたのは、王のベルトランも同じだ。
 王都襲撃なんて大それたことが、何の兆候も見せずに突然襲いかかって来たのだから仕方がない。

「おいおい……」
 
 なんとなく騒がしい感じがしていると思ったが、まさかの強襲にサンダリオは顔を青くした。
 こんなことをするくらいなのだから、何か目的があるのだろう。
 その目的が何なのかは、色々と考えられるが、一番可能性の高いものが考えつく。
 それは、自分たち王族の暗殺だ。

「こんなとこにいる訳にはいかない……」

 そのため、サンダリオはテラスから踵を返して城内へと向かい出した。
 襲撃が鎮圧されない限り、建国祭などと言っている場合ではない。
 もうここにいるのは敵に狙われるだけなので、市民や父のことなど気にせず避難を始めたのだった。

「皆のもの避難せよ! 王都の警備兵よ。侵入者を始末せよ!!」

「「「「「ハッ!!」」」」」

 サンダリオがいつの間にかいなくなっていることに気付かず、ベルトランは王らしく指示を出し始めた。
 獣人の集団が海を渡って来たとか、どこかに集まっているとかいう噂なり情報が耳に入っていたならなら、そんなのは早々に討伐隊を編成して送っていたはずだ。
 しかし、そんなことは自分の耳には入って来ていない。
 どうやって集まったのかは分からないが、王都には多くの兵が配備されている。
 それらが集まれば、獣人の集団であろうと潰せるはずだ。

「城門は閉めろ! 中に獣人の1匹たりとも侵入させるな」

「ハッ!!」

 今日は建国祭ということで入城を許したが、中には獣人のスパイも混じっている可能性もある。
 集まった市民を全て城から追い出し、ベルトランは城に立てこもることにした。
 敵が城内に入れずにいれば、王都の兵たちの集結によってすぐに鎮圧できるはず。
 サンダリオとは違い、腹の座ったようなどっしりした態度で、ベルトランは城内へと入って行った。





「ファウスト殿! 城門が閉まったとのことですが?」

 リシケサの王城を目指して走っていたケイたちとカンタルボス王国兵たちだが、思っていた以上に王都内の兵の集まりが早い。
 とは言っても、一気に大量に、という訳ではなく少しずつ増えているといった感じなため、ケイたち襲撃犯の方がどんどん王都兵を倒していっている。
 王城へ迫る中、市民たちは家の中へと逃げて行った。
 逃げる者の中には、王城へ逃げようとした者もいたのだが、王城は城門が閉まっているとチラホラ言っていた。
 この可能性は考えられたため、何か策があるのだろうと思っていたケイは、作戦を立てたファウストに問いかけた。

「ハコボたち諜報兵が城内に潜入しています。我々が近付けば彼らが開けてくれることになっています」

「なるほど……」

 今日の侵入に合わせて、ハコボたちは潜入調査をおこなってくれた。
 それによって、今日が一番決行に適しているということになったのだ。
 彼らの高い隠密性なら、心配する必要はないだろう。

「よっ!」

 ファウストの話を聞いたケイは、ならばと高い建物に上り、ケイたちや獣人たちがいる所に集まって来ている兵がいるか眺めた。
 すると、多くの兵が色々な所からこちらへ向かって来ていた。

「……急ごう!! 思ていた以上に集まりが早い!!」

「「「「「おうっ!!」」」」」

 こんな時なのでいちいち敬語を使っている場合じゃない。
 彼ら獣人はカンタルボスの兵なので、ケイの指示を聞く必要はない。
 しかし、ケイは自国の王であるリカルドと引き分けるほどの戦闘力の持ち主。
 それだけでも一目置かれているのだが、リカルドとの仲が良いということも噂になっている。
 王が認め、実力もある。
 強さを重視しがちな獣人なら、わざわざ反抗するようなことはしない。
 ケイの指示を受けた者たちは、走る速度を上げ、王城へと向かって行ったのだった。





[我々はエルフの国、アンヘル王国と同盟国カンタルボス王国の者だ!!]

 王城にたどり着くと、ケイはファウストに小さい紙が渡された。
 音量拡大の魔法を使って、その紙に書かれていることを城内の者たちへ届かせてくれと言われ、ケイは素直に従った。

[我々の島へ何の交渉もなく攻め込んだことは許せん!! 今日はその報復に来た!! 大人しく王族の首を差し出せ!!]

 自分たちの狙いは王族だと知らしめ、非戦闘員は相手にしないと遠回しに伝える。
 これで、少しでも向かってくる敵が減ってくれることを願った。

「エルフだと……?」

 玉座の間で椅子に腰かけ、獣人制圧の報を待っていたベルトランだったが、外から聞こえて来た大きな声に耳を疑った。

「エルフがどうやってここまで来たと言うのだ!?」

 エルフには、つい最近煮え湯を飲まされた。
 新島の発見と、そこにエルフがいるという情報は、王都にいる兵には広がっていた。
 それらを手に入れるべく、大船団を用いて動いたにもかかわらず多くの兵が死に、生き残った者たちも逃げ帰って来たということもすぐに広まってしまった。
 箝口令を引いたにもかかわらずそうなったため、ベルトランはその噂を口に出した者を片っ端から捕まえて牢にぶち込んだ。
 それによって、とりあえず鎮圧に向かい出したというのに、まさか逆襲を受けるとは思ってもいなかった。
 これではまた噂が再燃する。
 またもイラつかせることをしてきたエルフに対し、ベルトランは怒りを椅子の肘掛けを殴ることで抑え込んだ。 
 所詮、城門が開かなければ奴らは兵たちに制圧される。
 そのため、高みの見物と思っていたのか、ベルトランはすぐに怒りが静まりおとなしくなった。

「へ、陛下……」

「何だ……?」

 このまま黙って待っていれば、制圧の報が届く。
 そう思っておとなしく紅茶を飲んでいたベルトランの前に、一人の兵が走って来た。
 真っ青な顔をして、言葉が詰まり、何が言いたいのか分からずベルトランは首を傾げる。

「城門が開かれました」

「……な、何だと!?」

 ベルトランは、またも一瞬固まった。
 城内に入れなければどうにでもなると思っていたのに、それがあっさりと覆った。
 侵入されたと分かったら、こんな所でのんびりしていられない。

「くそっ!!」

 ベルトランは、怒りの表情に変わり、そのまま玉座の間から出て行ったのだった。

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