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第7章

第136話

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「お待たせしました」

「おぉ、ケイ殿……」

 妻の美花と次男のカルロスを連れて転移し、カンタルボスの王城へ来たケイは、王であるリカルドに謁見しに来た。
 リシケサ王都付近に作った地下施設には、ケイの息子であるレイナルドが見張りをしている。
 手が完全でなくても、レイナルドほどの戦闘力なら十分任せられる。
 ケイが他の地点にも地下施設を作り島に戻る時、ファウストも一緒に戻って来た。
 そして、先に城へ送って来たので、作戦の概要はもう伝えられているだろう。
 現れたケイを見ると、リカルドは笑顔で招き入れた。

「準備に手間取ってすいませんでした」

「いやいや、とんでもなく速いですよ!」

 なんとなくリカルドの様子が待ち遠しかったように見えたので、もしかしたら準備が遅かったのだろうかと思ったケイが謝ると、リカルドの息子のエリアスが慌てるように訂正してきた。
 こんな短期間で数百人が身を隠せる施設を2つも作るなんて、普通不可能だ。
 戦闘力においては自信があるが、そういった物を作ることに関しては、とてもではないがケイたちに太刀打ちできない。

「彼らが我が国の精鋭だ」

「…………なるほど」

 今回の戦いには、カンタルボスの兵に手を借りておこなう予定になっていたが、集められた兵を紹介されたケイは、彼らを見て納得の言葉を漏らした。
 リカルドが言うように、ケイが密かに彼らを鑑定してみると、誰もが一筋縄ではいかないようなレベルをしているように思える。
 言葉の通り精鋭揃いだ。

「ファウスト殿に聞いているとは思いますが、行きも帰りも2度に分けることになります」

 近場への転移となれば魔力の消費も抑えられ、一度に多くの人数を連れて転移できるかもしれないが、この獣人大陸からケイたちの島までは、東へかなり離れている。
 更に、島からリシケサ王国までは、同じだけの距離東に行った距離にある。
 カンタルボスからリシケサへ、一気に飛んでしまうということもできなくないが、魔力の消費のことを考えると、それは控えた方が良いだろう。 

「今日と明日の2度に分けて転移したいと思います」

「了解した!」

 ケイと美花とカルロスでは、180人程が転移で連れて行ける数だろう。
 そのため、精鋭の彼らは、リカルドの指示によって人数を2組に分け始めた。

「では、今日半分、そして、明日に残り半分をアンヘル島へ送ります」

 翌日に響かず一度で連れていけるのは180人。
 集められたのは300人と少し、手間がかかるが数回に分けて移動することで、多くの兵が潜んでいることがバレる確率は低くなるだろう。

「アンヘル島からも2日かけ、今日から1週間後に王城へと乗り込みます」

「了解した。では……」

 息子のエリアスとファウストと共に計画を練っていたので、リカルドにとってケイの説明は、確認のために聞いているといったところだ。
 ここに集まった者たちも作戦のことは説明を受けているため、用意は整っている。
 説明も終わった事だし、それではアンヘル島へ行こうとリカルドが言おうとした時、

「……あなたたちは駄目よ! 決行当日に直接送っていただくように美花様に頼んであります」

 王妃のアデリアが待ったをかけた。

「いや……」「母上!?」「しかし……」

「書類が溜まっているの。ギリギリまで仕事をしなさい」

 リカルドと2人の息子は、すぐさま反論をしようとした。
 3人とも、ケイの島へ行って少しはのんびりした時間が過ごせるのではないかと、密かに思っていたのだが、それが完全に潰されたからだ。

「……わ、分かった」「……はい」「……分かりました」

 アデリアに言われたらこれ以上の反抗は無駄。
 3人は渋々と言ったような感じで了承をしたのだった。

「…………それじゃあ、皆さん集まってください」

 3人は、近くにいたケイに助けを求めてきているような視線を送って来ていたが、ケイにはどうしようもない。
 申し訳ないがその視線は無かったことにして、連れていく予定の兵たちに話し始めた。

「どうぞ、中に入ってください」

「「「「「はい!!」」」」」

 武器などは魔法の指輪を装着した輸送班が運ぶので、鎧を纏っただけの兵たちがケイたちが開いた扉を通ってアンヘル島へと向かって行った。

「羨ましいな……」

「父上諦めましょう……」

 ケイの島へと行けて、1日はゆっくりできる彼らに、リカルドは小声で呟く。
 自分も一緒に行って、狩りなどして遊びたいところだ。
 しかし、アデリアの言うように仕事が溜まっている。
 本来はリカルドがやる仕事だが、エリアスが結構手伝っている。
 そのエリアスに言われて、さすがにリカルドも諦めるしかなかった。

「……では、また明日」

「……では!」

 半分の兵が扉を通って島へと向かったため、ケイたちもそのまま島へ戻ることにした。
 リカルドはいまだに残念そうな表情をしているが、どうしようもないのでケイは流した。
 そして、挨拶と共に軽く頭を下げ、早々に転移して行ったのだった。






「皆さん、3日後の食事から質素になります。今日は沢山食べてください」

 今日転移して来た者たちが集まった村の食堂で、ケイは彼らの前で話を始めた。
 3日後になればリシケサの王都近くの地下室で過ごし、ほとんど保存食で飢えをしのぐことになる。
 一応輸送班が食事も用意しているそうだが、美味い物をたらふくとはいかないだろう。
 なので、今日はこの島の料理で満足してもらいたい。
 そのため、彼らの前には数種類の料理が豪華に用意されていた。

「……こ、これが噂のアンヘル料理か……?」

「えっ? 噂になっているのですか?」

 一人の兵士が呟いた言葉に、ケイは思わず反応した。
 腕にはまあまあ自信があるが、そんな噂になっているとは思わなかった。

「この島に配属された者は、故郷に帰るのが嫌になると聞いております」

「そんな……」

 王であるリカルドが自慢のように話したのを聞いた者、この島の駐留兵として派遣されて来た者が、国に戻った時に話したことを聞いた者。
 耳に入った方法が違うらしいが、この島の料理はかなり良い評判になっているらしい。

「まぁ、喜んでもらえるならいいか……」

 翌日、転移で連れてきた残りの兵も、食事になった時に同じ反応をしていた。
 あまり期待されるとハードルが高くなって困るが、ここの料理を気に入ってくれる者の存在はケイとしても嬉しい。
 食は強力な力を持っているのだなと感じたケイであった。

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