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第7章

第137話

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「行くぞ!」

「「「「「おぉ!」」」」」

 ケイたちの転移によって、カンタルボスの精鋭約300人が、ケイたちが作ったか室内に揃った。
 念のためここで1日過ごし、ケイたちの魔力も回復状態で準備万端だ。
 リシケサ王国の建国祭の今日、国王であるベルトランの挨拶により開始の合図になる予定だ。
 地下室の出口へ向かうと、リカルドが声を潜めつつ一言告げる。
 それだけで、全員が気合いの入った表情で小さい返事と共に頷きを返す。
 それを合図に、ここに集まった者たちは走り始めた。
 体力温存のために馬などの乗り物を用意したいところだが、馬を転移させるのにも魔力を消費する。
 とてもではないが用意できない。
 所詮、リシケサの王都はすぐ側なのだから別に用意する必要はないだろうと、連れてくることはなかった。

「んっ?」「なんだ?」

 馬がいなくても、獣人の彼らの足の速さはかなり俊敏。
 あっという間に王都の入場門に接近していった。
 今日が建国祭だというのもあり、入場しようとする者たちが列を作っている。
 それを捌いていた数人の兵が遠くに目を向けると、一塊の集団がこちらに向かって来ていることに気付いた。

「おいっ!!」「なっ!?」

 しかし、その集団が列を無視して物凄い勢いで門へと向かってきた。
 侵入者だと気付いた兵たちは、慌てて武器を取り迎え撃とうとした。
 門の側にある守衛所にいた者たちも、外の異変に気付いて外へと出てきた。

「獣人!?」「なんでこんなところに!?」「しかもこの人数……」

 人族大陸にいる獣人は、大体が奴隷にされた者たちだ。
 しかし、向かって来る彼らは奴隷の首輪も紋章もあるように見えない。
 そんな者たちがこれほどいることが信じられず、兵たちは焦ったような声を漏らす。

「おいっ!?」「あそこにいるのは……」

 ワイルドな顔立ちが基本の獣人たちの中に、見た目の美しい者たちが紛れている。
 その者たちをよく見てみると、その見た目と共に目を引く場所があった。
 耳が長い。

「エルフだ……、エルフだ!!」

 門を守る守衛たちの一人が、大きな声をあげる。
 幻となったはずの種族の出現に、最初は信じられないように呟いたが、こちらに近付くにつれて革新へと変わった。
 その者の言葉を聞いて、兵たちは色めきだった。
 捕まえれば地位も名誉も思いのままになるという、生きた人形が向かってきている。
 それにより、兵たちは気合いの入った表情でそれぞれ武器を構えた。

「邪魔するものは容赦しない!! 死にたくなければどけ!!」

「がっ!?」「うっ!?」

 まだ離れているが、この距離ならケイたちには問題にならない。
 門なんかで足止めされていたら、計画に支障が出る。
 欲にくらんだ目をしている兵たちへ、ケイはホルスターから抜いた銃を撃ち放つ。
 ここでの容赦は無意味。
 そうリカルドに言われていたため、ケイは立ち塞がる兵たちの頭に容赦なく風穴を開ける。
 ケイの攻撃によって兵たちがあっさりと全滅させられたため、リシケサ王国は王都に獣人たちの侵入を許したのだった。





「速くしろ! サンダリオ!」

「何だよ? 親父……」

 時間は少しさかのぼり、王城では建国祭の開始の挨拶をする予定である王のベルトランと息子のサンダリオが揉めていた。
 市民が集まっているというのに、今年もサンダリオが寝坊した。
 しかも、どこから連れてきたのか分からないが、城内では見たことも無いような女性との情事による寝坊だ。
 身元のよく分からない女には手を出すなと言い聞かせていたのにもかかわらず、まるで無視するようなことを平気でする息子に、怒りばかりが積み上がってくる。 
 できれば他の者に継がせたいところなのだが、王位継承権がある者がこの愚息しかいないことが更にイラ立たせる。
 ベルトランには王妃と側室は合わせて3人いた。
 サンダリオの母である王妃は、病により命を落とし、側室には子がなかなかできないでいる。
 もしかしたら、ベルトランには子種が少ないのかもしれない。
 ベルトランには弟がいたのだが、いい年こいて独身でいた。
 自由が一番とかいって、ベルトランの推薦もことごとく断っていた。
 こんな息子に継がせるくらいなら、その弟に継がせたいところだった。
 その弟も、5年前に原因不明の体調悪化によって命を落とした。
 こんなことなら王命と言う力を行使しても、どこぞの娘と結婚させて子を作らせておくべきだった。 

「今日は建国祭で市民の前に顔を出すと言っただろ!」

「ヘイヘイ……」

 毎年のことだというのに、自分が何故起こされたのか分からなかったサンダリオは、不機嫌そうに父について歩いていく。
 その髪は寝ぐせでボサボサ、服もボタンがズレて付けられ、とても王子らしからぬいでたちをしていた。
 建国祭と聞いたサンダリオは、全く興味なさそうに父に返事をする。

「行くぞ?」

「あいよ……」

 市民が王の顔を目にできる数少ない機会なだけに、このベルトランの挨拶は結構人気がある。
 その挨拶をするバルコニーに出る扉の前で、ベルトランは寝ぐせと服装を使用人に直してもらったサンダリオに声をかけた。
 そしてサンダリオの姿を確認したベルトランは、開け開かれた扉を通って、市民が待つバルコニーへと進んで行ったのだった。

「国王陛下!」「万歳!」「サンダリオ様!!」

「おっ? あの女いいな……」

 威風堂々と見せるためか、ゆっくりと手を振りながら足を進めるベルトラン。
 その数歩後ろを同じように手を不利ながら付いて行くサンダリオ。
 顔は少し前と違い、王子らしくビシッとした表情をしているが、やはり色ボケは色ボケ。
 サンダリオは市民に聞こえないように女性の査定をして呟いた。
 それもベルトランに一瞬睨まれたことで、サンダリオは大人しくなった。

「皆の者! 今年も今日という日を迎えられ嬉しく思う」

 ベルトランは去年同様の言葉を話し始める。
 それを何とか作り笑顔で終わるのを待つサンダリオ。
 はっきり言って、あくびを堪えるのがしんどい

「んっ!?」

 ダラダラ話す父のベルトランから視線を遠くに向けると、何やら王都内が騒がしくなっているように思えた。
 祭りだからという考えもできるが、それとはなんとなく違うように思える。
 それがどんどんと近付いてくるのを感じながら、サンダリオはただジッと様子を見ることにしたのだった。

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