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第7章

第134話

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「ここなら大丈夫そうですね……」

 ケイとレイナルドが即席で作った地下施設へ来たファウストは、中の様子を見て感心したように呟いた。
 リシケサの王都へ攻め込むにもちょうどいい距離なので文句はない。
 それよりも、ケイたちの行動の速さに驚いている所だ。
 獣人の彼らは、その身体能力から魔力をコントロールするということが苦手だ。
 身体能力だけでも十分強いのだから、そうなるのも仕方がない。
 魔力のコントロールが苦手ということは、魔法も苦手ということになる。
 なので、ケイたちのように、何もない所に地下室を作ろうとした場合、かなりの時間を要することになる。
 しかし、ケイたちにかかれば、あっという間にできてしまうというのだから驚きだ。

「ここに何人連れてくるんですか?」

 問題は、攻め込む人数だ。
 できる限り多くの軍勢で攻め込みたいところだが、そうなると問題は撤退時の時だ。
 王都を急襲し、混乱状態のうちに王城へ侵入。
 城内の者を制圧し、王の暗殺をおこなって、近隣の町から敵兵が集結する前に撤退をする。
 それが大まかな作戦だが、撤退時に数が多い場合逃げ切れない状況になる訳にはいかない。
 ケイたちの島へ転移して逃げるなら、数には限りがある。
 取りあえず、ケイは今連れてくる予定の人数を聞いておくことにした。

「そのためにお聞きしたいのですが、転移魔法が使える人間と、人数はどれくらいですか?」

 ケイに尋ねられたファウストだったが、それを答えるために、質問をし返してきた。
 作戦を練るために、それらの情報が必要なのだろう。

「ここから島までなら、俺が100人、美花が30人、レイが60人、カルロスが50人ってところですかね……?」

 問われたケイは、転移魔法を使える人間と魔力量を計算した大体の数字をファウストへ教えた。
 正確にはレイナルドはまだ手が回復していないし、転移の魔法も使えないのだが、手が治りさえすればすぐにでも転移魔法を使えるようになると思っている。
 なので、使えるようになったことを前提としての数を計算した。 

「総勢240人ですか……」

「美花は当日参戦しないので、島へ戻るなら210人ですかね……」

 美花の仕事は、リシケサ国内への転移。
 それももう済んだので、これ以上今回の戦いに加わってもらいたくない。
 それが分かっているため、ファウストもケイが言った数で計算することにした。

「……たしか、転移魔法は距離が近ければ魔力の消費も少ないのですよね?」

「えぇ……、そうですけど……」

 ファウストの言う通り、転移魔法は距離や転移させる者(物)の数などによって変化する。
 ケイが先ほど言った人数も、リシケサからケイたちの島までの転移ができる人数だ。
 リシケサからカンタルボスまで直接連れてくるとなると、その半分くらいの人数になるかもしれない。
 何が知りたいのか分からないが、ケイは答えを返した。

「ここから2、3日程度の場所に転移した場合、人数は増やせますか?」

「……なるほど」

 ファウストの提案を聞いて、ケイは言いたいことが分かった。
 王都からの撤退時に島に直接帰るとすると、連れていける数は210人にしかならないが、王都から近場へ転移するのならば、数はもっと増やせる。
 転移して、どこに行ったのかも分からないようになってしまえば、追っ手の心配も少なく、数回転移することでみんな撤退できるということだ。
 その場合なら、島への転移に美花の手伝いを借りてもいいかもしれない。

「そうなると、俺が140人、レイが100人、カルロスが90人って所ですかね……」

 ざっと考えて出した数は、総勢330人。
 直接島へ帰るよりも120人多く連れていけることになる。
 王都なので、この人数でも少々不安が残る所だが、カンタルボスの国王のリカルドが参戦すると言っていたことを考えると、恐らくは大丈夫だろう。

「それなら、他にもここと同じような地下室を作りにいかないといけないですね……」

「どこか目星のある場所があるのですか?」

 ここは王都に近いため、攻め込むにはいいかもしれないが、ここに数日隠れていられるか分からない。 見つかったらどうしようもないので、他に転移できる場所を作る必要がある。
 そう考えて、ケイは提案した。
 そのケイの口調が、もうどこに作るか考えているような感じだったため、ファウストは問いかけた。

「美花が最初に転移した町の近くに山があった。そこなんか良いと思いまして……」

 この王都の西側にある町に、美花の転移でケイたちはリシケサ王国に進入した。
 それがここから3日程度の距離にある。
 そこの近くの草原に最初転移したのだが、近くには山があったことをケイは思いだした。

「距離的にもちょうどいいし、まさか王都から離れた山の中に隠れているなんて、気付く者もいないでしょう」

「そうですか、では、そこにここと同じ施設の建設をお願いしてもいいでしょうか?」

 敵からしたらいきなり現れ、いきなりいなくなった者たちを探すのに、離れた場所を探すようなことは考えないだろう。
 それだけ転移の魔法の使い手は希少なのだ。
 使える人間が4人も揃っているケイたちのアンヘル王国が特殊と言って良い。
 
「分かりました」

 ここと同じ地下施設を作ることを頼まれたケイは、すぐさま転移をして消えていった。

「……敵には回したくないですね」

 ケイがいなくなったところで、ファウストは独り言のように呟いた。
 それも仕方がない。
 今回の報復作戦は、相手を変えればどこの国を相手にしても通用するかもしれない。
 それこそ、カンタルボス王国が相手だったとしてもだ。
 ケイとリカルドの仲はかなり良好なので、そのようなことにはならないかもしれないが、エルフは長命。
 ファウストの兄であるエリアスが王位を継いだ時、もしものことを考えたら寒気がした。
 兄の手助けをするつもりのファウストは、今後ケイたちとは敵対しないようにしなければと、心の中で密かに考えていたのだった。

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