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第6章

第106話

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「7番艦浸水!!」「8番艦浸水!!」「4番艦浸水!! 救助願います!!」

 島から遠く離れた海上にも関わらず、飛んできた砲弾を食らった3隻の船員たちは、大慌てで通信の魔道具を使って現状を伝えてきた。
 指揮官であるセレドニオが乗った艦のすぐ近くの船も攻撃を受けたので、状況は見れば分かるが、3隻とも海水の浸水によって傾きだしている。
 特に砲弾2発を受けた4番艦は、ドンドンと沈んで行っている。
 7、8番艦の沈む速度はまだゆっくりなので、近くの船が船員たちを救助している。
 4番艦の船員は船から飛び降り、他の船へ救助を求めて泳いでいる者がほとんどだ。

「……馬鹿な!? こんな所まで弾が届くなんて……」

 この状況をまだ信じられないセレドニオは、対応が遅れる。

“ズガンッ!!”“ジャボン!!”“ズガンッ!!”“ズガンッ!!”

 セレドニオたちが乗る船の左側の船が、またも攻撃を受ける。
 今回は一発は海に落ちて外れたとはいえ、またも3隻の船に穴が開いた。

「なっ!?」

「おいっ、セレドニオ!! 信じられないが、奴らの大砲はここまで届くみたいだぞ!!」

 明らかに目標の島から発射された砲弾は、人族のどこの国にもないような飛距離があるようだ。
 これまでの大砲の倍近い飛距離に、ライムンドも信じられないでいるが、この状況を見たら確信するしかない。

「魔導士部隊!! 障壁を張って防御しろ!!」

「「「「「ハッ!!」」」」」

 ライムンドの言葉が我に戻したのか、セレドニオはようやく砲弾に対する対策を取るように言い放った。
 その指示により、全艦に均等に分けた防御用魔導士たちが、砲弾の飛んで来る方向に向けて魔力障壁を張り始めた。

“ガキンッ!!”“ガキンッ!!”“ジャボン!!”“ズガンッ!!”

「クッ!?」

 咄嗟にだったせいか、魔力障壁がきっちりと張れていない船にまた1発当たった。
 しかし、障壁を張ったことで弾くことにも成功する。
 まだまだ離れているのにもかかわらず、いきなりの先制攻撃を見事に食らったリシケサ王国団は、一気に船の数を減らされてしまった。
 それが自分の判断の遅延による所もあることを自覚しているため、セレドニオは悔しさから唇をきつく噛んだ。 

「弾は東からしか飛んで来ていない! 全艦西へ移動しろ!!」

 油断をしたつもりはないが、完全にやられた。
 しかし、嘆いている場合ではない。
 まだまだ砲弾が飛んでくるかもしれない。
 ただ、飛んで来ているのは島の東端からだけ、そのことに気付いたセレドニオは、これ以上の被害を阻止するために、早々に船の進路を西へと向けるように指示した。

「「「「「了解!!」」」」」

「おいっ!!」「ちょっ、待ってくれ!!」「助けてくれ!!」

 最初に沈んだ4番艦から投げ出された者たちは、まだ救助し終わっていない。
 他にも、砲弾受けた振動などで落ちた者たちも少なからずいる。
 しかし、彼らを救助していたら砲弾をまた受けかねない。
 それが分かっているからか、セレドニオの指示に従い、彼らの救助をせずに西へと進路を変えた。
 それを見た海に落ちた者たちは、絶望の表情で船へと救助を求める声をあげた。

「…………くそっ!!」

「……仕方がないことだ。切り替えろ!」

 悲鳴のような物は聞こえるが、彼らを救っていては他の者たちも被害に遭いかねない。
 セレドニオは苦渋の選択により、彼らを見捨てることにした。
 遠くなる悲鳴に胸をえぐられるような感覚に陥り、苦悶の表情をするセレドニオに、ライムンドは肩を叩いて自分でもその選択をしたという思いを込めて慰めたのだった。






「3人とも船団の東側を狙え!! 予定通り西に向かわせるんだ!!」

「「「了解 (しました)!!」」」

 障壁を張ったのは望遠の魔法でちゃんと確認した。
 予定通り船団は西へ進路を向かわせ始めた。
 しかし、まだケイたちは大砲の準備をする。
 カンタルボスの獣人兵の協力を得て、弾をセットしてもらい、また大砲に圧縮した魔力を注入する。
 ケイの指示に、こんな時でもシリアコだけは丁寧に返事をしてくる。
 それはともかく、ケイが今言ったように、これから発射する弾は船に当てるためではない。
 もちろん、当たって1隻でも多く沈められれば御の字だが、この距離でも届くことに気付かれて、魔力障壁を張られてはそれも期待が薄い。
 今用意して発射するのは、東からは上陸させないためだけに発射するのだ。
 この島で、まともに上陸しようとするなら西か東の海岸からだ。
 だが、東の海岸は島民の住む家がある。
 敗北したら言っている場合ではないのだが、もしも上手くいって敵を退かせたとき、また住むためには壊されたくない。
 当然それだけのために西の海岸へ向かわせたのではない。

「少しでも魔物に殺られてくれたらいいんだけど……」

 上手く砲弾が当たり、船は予想より減らせたが、兵の数はまだまだ大量に居る。
 全部の相手をしていたら、いくらケイでも死しかない。
 この東側と違い、西には魔物が生息している。
 訓練をしている兵なら、気を付ければ対応できるかもしれないが、結構危険な生物も存在している。
 ケイたち島民からしたらただの食料になり下がってしまってはいるが、猪と腕鶏は気を付けないとあっという間にあの世に送られる攻撃力の持ち主だ。
 西から攻めるとなるとそいつらの相手もしなくてはならない。
 それがケイたちの狙いだ。

「……どうやら、全艦西に向かったようだな?」

 数隻残して、両方の海岸から攻め込まれる方がケイたちにとっては迷惑だ。
 しかし、最後の砲弾は全弾当たらなかったが、全艦西へ向かいだしたので東からくることはなさそうだ。
 みんな一先ず安心した。

「よし! みんな、次の策に移るぞ!!」

「「「「「はい!!」」」」」

 レイナルド、カルロス、シリアコと数人の獣人兵に向けケイは指示を出した。
 戦うために残ったこの島の島民の男性たちは、他の獣人兵とともに次の作戦の準備をしている。
 ケイたちはその準備の手伝いへと向かったのだった。





「……やっぱり、あの大砲は東だけに設置されていたようだな……」

 東側から西へ進路を変えると、砲弾は飛んでこなくなった。
 やはり、あそこまでの飛距離を出す大砲が幾つもある訳がない。
 ライムンドは、ちょっとした脅威が去り、一安心したように呟いた。

「んっ? どうした?」

 そんなライムンドの隣で、指揮官のセレドニオは小刻みに震えていた。
 何を思っているのか分からず、ライムンドは疑問に思い問いかけた。

「……許さん」

「……はっ?」

 問いに対して、セレドニオは小声で呟いた。
 それが聞こえなかったため、ライムンドはもう一度問いかけた。

「ここまで好き勝手やられ、黙っていられるか! エルフの3人以外は全員皆殺しだ!」

「おっ、おう……」

 いくらあんな大砲があるとは知らなかったとは言っても、指示が遅れたのは紛れもなくセレドニオのミスだ。
 そのことで、自分への怒りと共に、敵への怒りが膨れ上がってしまったようだ。
 いつもは冷静なセレドニオだが、たまにカッとなると周りが見えなくなる場合がある。
 その悪癖がここで出てしまったようだ。
 こうなると、ライムンドが何か言っても意味がない。
 怒る気持ちも分からなくないが、さっさと元に戻ってほしい。

『まぁ、敵が数人死ねば落ち着くだろう……』

 セレドニオは急に我を忘れるが、それもすぐに冷めることが多い。
 まあまあの数の船が沈められたが、兵の数はそこまで減っていない。
 なので、指示が荒くても、兵数でそうにでもなる。
 今回もきっとすぐ納まるだろう。
 そんな風に思い、ライムンドはスルーすることにした。

「セレドニオ様! 西に海岸があります! 上陸にはうってつけかと……」

 眉間にしわが寄り、イラついているセレドニオのもとに、先に西へ進んだ船から通信が入った。
 島への侵攻のため、上陸しやすい場所が見つかったようだ。

「了解! 全艦、全兵! 西の海岸より島の侵略を開始せよ!」

「「「「「了解!!」」」」」

 上陸地発見の報告を受けたセレドニオは、怒りの衝動のままに全艦の全戦力を持って敵を潰しにかかる指示出したのだった。

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