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第6章

第104話

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「マジか……?」

 モイストの報告を受け、ケイは遠方が見えるように岬に建てられた灯台に辿り着いた。
 まだかなり遠くではあるが、見たことがある紋章が帆に描かれた大船団にケイは唖然とした。
 その紋章を見る限り、今まで2度ほど来たリシケサ王国の船団だろう。

「いくら何でも多すぎる」

 僅かに遅れて来たレイナルドも遠見の魔法を使って見た景色に、冷や汗を掻いている。
 もしかしたら多くの敵が来るかもしれないと、父であるケイから聞いてはいたが、想像の倍以上の数に恐れを抱いているのかもしれない。

「あれ1隻で何人くらい載ってるんだ?」

 船は確かに多い。
 せめて戦わなければならない人数を把握しておきたい。
 船の定員についてはよく分からないので、ケイはなんとなく知っていそうなモイストに尋ねた。

「100名前後かと……」

「合計2000~3000もの数が相手だと……」

 とても60人程で戦う相手の数ではない。
 完全に負け戦だ。
 数を聞いたカルロスは、言葉を失い、青い顔をしている。
 完全にビビっているようだ。

「カルロス! 美花にみんなと避難するように言って来てくれ」

「わ、分かった」

 取りあえず、戦う意思のない者には早々に避難してもらうのが先決だ。
 結局、転移魔法はレイナルドとカルロスには使いこなせず、ケイの指導を受けた美花だけが覚えられた。
 2人より魔力量が少ないので、美花の場合はカンタルボスに転移したら、また転移でここに戻ってくるのは不可能だろう。
 獣人が多いこの島では、女性も戦力的には十分なのがほとんどだが、兵でもないのに戦う必要はない。
 ケイは事前にみんなにそう言い、残るのは戦う気のある成人男性だけだと決まっていた。
 なので、美花には早々にみんなと避難してもらうことにした。

「モイスト……」

「はい……」

 この灯台の管理は同盟国のカンタルボスの駐留兵に任せている。
 そのため、多くの兵がいる中で、ケイはその隊長に当たるモイストに、真剣な表情で話しかけた。
 モイストの方も、ケイが何を言うのか分からないが、重苦しい雰囲気に顔が引き締まる。

「カンタルボスの兵みんなを連れて、この島から脱出してくれていいぞ」

「……見くびらんでください」

 この島にも船はある。
 ケイが獣人族の船を真似て作った帆船だ。
 カンタルボスまで無事に着けるかまでは分からないが、駐留兵の50人くらい乗っても沈みはしないだろう。
 予想される敵の数では、どう考えてもこちらの勝ち目は薄い。
 美花は今いる島民以外を転移する魔力はない。
 そうなると、駐留兵には船で逃げてもらうしかない。
 今なら食料さえ積めば追いつかれずに逃げ切れるはずだ。
 そのため、ケイは提案したのだが、聞いたモイストは眉間にシワが寄った。

「我々は国に言われてきたとはいえ、この島を守る兵です。数で勝てないとはいえ、戦わずして逃げる訳にはいきません」

 勝てないなら逃げるのは別に恥でもないと思うが、獣人の兵たちにはそうではないのかもしれない。
 モイストだけでなく、近くにいる兵たちも同じような真剣な表情でケイを見つめている。

「……いいのか? 普通に考えれば死ぬぞ?」

「覚悟の上です!」

 彼らの意識を再確認するように尋ねるが決意は固いらしく、強い口調で答えが返って来た。
 その表情を見たら、ケイもこれ以上は言わないことにした。

「……でも、俺たちは、状況次第で逃げるけど?」

「え? マジっすか?」

 決意が固い駐留兵たちには悪いが、ケイは島を捨てての避難も視野に入れている。
 せっかく転生したのに、死んでしまったらそこで終わりだ。
 殺されたのなら百歩譲って仕方がないが、生きて捕まりでもしたら、地獄のような日々を過ごすことになる。
 それだけは嫌だし、子供たちや仲間にもそんな目に遭ってほしくない。
 戦わずに逃げるのが嫌なのはモイストたちと同じだが、なんとしてでもこの島を守るという気持ちはない。
 その言葉を聞いたモイストは、決意を語った手前どうするべきか悩みだした。

「だって、転移が使えるもん」

「そ、そうですな……」

 転移が使えるのは美花だけではない。
 というか、ケイが考えた(ある意味パクった)魔法だ。
 逃げる手段があるのだから、死を前にしたら逃げるのが当然だろう。
 それを止めるのはどう考えても違うので、モイストは言葉に詰まった。

「……大丈夫だ。もしもの時は駐留兵のみんなを連れて転移してやる。だから死なない程度に頑張ってくれ」

「は、はぁ……」

 命を懸けて戦うのは美徳だが、本当に命を懸けるのはかなりの決意がいる。
 駐留兵の全員が全員同じように思っているとも限らない。
 全力で戦って、それでだめなら逃げるのが獣の習性。
 逃げないと言った手前素直に喜べないが、ケイの言葉にモイストたちが安心したのは仕方がない。

「前にも少し話し合ったが、敵が上陸した時の戦い方をもう一度全員に伝えよう」

「は、はい!」

 数が違うと言っても、戦い方次第ではどうにかできるかもしれない。
 この島を知り尽くしたケイたちなら、地の利を生かした戦いができるはずだ。
 最悪、全員転移で逃げるにしても、離れてしまっては置いてきぼりにするしかない。
 どうやってまとまって戦うかを、あらかじめ相談する必要がある。
 このまま敵船の監視をする者を最少に、ケイとモイストはそれ以外でこの島に残る全ての者を、駐留兵の住む邸に集めたのだった。

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