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第6章

第102話

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「美香!」

「アラッ! 帰って来てたの?」

 カンタルボス王国へ行って報告をしてきたケイは、姿が見えない美花を探した。
 最近こういう日が増えている。
 ケイと美花は仲が良いが、年がら年中一緒にいる訳ではない。
 特に孫ができてからはそっちばかりを構っているので、駐留兵たちの戦闘訓練はケイの仕事になっている。
 ケイの戦闘スタイルは自己流がほとんどなため、本当なら美花に剣術の指導をしてもらいたいところだ。
 ただ、最近いなくなるのはいつもと違う。
 美花程になれば、この島で大怪我するようなことになるとは思えない。
 なので、少しくらい姿が見えなくても放って置いているのだが、こう頻繁になってくると心配になる。
 今日もいなくなっているので、何をしているのか気になったケイは近くを探し回った。
 すると、ケイは村の家々が建つ場所から近くにある、いつもの海岸で美花の姿を確認した。

「何してるんだ? こんなところで……」

「……ちょっとね」

 交わした言葉はいつものたわいないものだが、美花の様子が少しおかしいため、ケイは訝しんだ表情で美花を見つめた。

「……分かったわよ。白状するわ」

 ケイの完全に疑っている目に、隠すのは不可能だと判断した美花は両手を上げて降参をした。
 最近は息子たちとの訓練もきつくなってきたため、もう荒事はケイと息子たちに任せている。
 だからと言って、剣術の訓練をやめるつもりはなく、孫たち相手に指導ついでに訓練をしているのだが、最近のいなくなって帰って来た時の美花は、どことなくぐったりしている。
 とても剣術の訓練をしている様には思えない。

「転移魔法の練習よ」

「…………えっ? 何で?」

 答えを聞いて、ケイは首を傾げた。
 別に、美花が使えないといった覚えはない。
 しかし、習得できる期間のことを考えると、魔法の才のある息子2人の方を優先しただけだ。
 教えろと言われれば、普通に教えるつもりだ。

「ケイは大砲やら指導にと忙しいでしょ? 2人に教えているのを聞いていたし、私も使えるようになりたいから……」

「まぁ、確かにちょっと忙しいけど……」

 大量の魔力を有するのをいいことに、ケイは錬金術による大砲と砲弾の修復・製造をおこなっている。
 鉄がなかなか見つからないので、数を増やすには至っていないが、とりあえず今回きた陣族の船から拾った大砲は、全部修復することができた。
 次にまた人族が攻め込んで来た時に、上陸される可能性もある。
 なので、カンタルボス王国から来ている駐留兵たちにも期待している。
 ここの島民と違って、戦うことが仕事の彼らには悪いが、場合によってはここの島を捨てて逃げさせてもらうつもりだ。
 とは言っても、この島で一緒に過ごしてきた思いもあるので、彼らにも生き残ってもらいたい。
 そのために、ケイはいつも以上に訓練相手をおこなっている。
 その2つの仕事が忙しいので、それ以外の時間は大人しくしていたいが、美花が何故転移魔法を使いたいのかは分からないが、魔法のコツを教えるくらいはできる。

「何で使えるようになりたいんだ?」

 取りあえず、ケイは理由だけでも聞いておくことにした。

「私が使えるようになれば、村人の避難は私ができる。そうすれば、レイとカルロスは魔力を無駄にせず戦いに専念できるじゃない?」

「……なるほど。それが良いかも……」

 たしかに、ケイ1人で倒せる数なら構わないが、次は流石にちゃんと態勢を整えてくるだろう。
 そうなれば、レイナルドとカルロスがいてくれれば、かなり有利に戦えるはずだ。
 2人のどちらかに村人を転移してもらい、戻ってきて参戦してもらおうと思っていたが、それでは魔力を大量に消費した状態になってしまう。
 ハーフとはいえ、魔力が多いから戦闘力も強いのだ。
 魔力が少なくなったエルフでは、人族相手は厳しくなる。
 できれば、魔力を消費しないまま戦わせたい。
 そう考えると、美花に転移できるようになってもらうのが一番都合がいい。
 美花の発言に、ケイは納得した。

「じゃあ、俺が指導するよ」

「いいの? じゃあ、お言葉に甘えるわ」

 魔力量的には村人を連れて避難したら、美花はほとんど魔力がなくなるだろう。
 元々、美花には避難した村人の相手をしてもらうつもりだったため、参戦しないでくれるのは丁度いい。
 ケイは息子の2人より、美花の転移魔法の指導の方に力を注ぐことにした。






◆◆◆◆◆

「ただいま戻りました」

 豪華な絨毯を歩き、一人の男が玉座に座る男の前にたどり着くと、跪いて頭を下げた。

「…………セレドニオ。どうなった?」

「通信が途絶えました。どうやらやられた模様です」

 玉座に座っている所を見ると、この国の王なのだろう。
 その王に問われた男(セレドニオ)は、端的に自分の持って来た情報を告げたのだった。

「どういうことだ?」

 王らしき男は、問いかけながら玉座の肘掛けを指でトントンと叩いている。
 どうやら、思ってもいなかった結果に、イラついているのだろう。

「最後の通信では、獣人という言葉が届きました。もしかしたら獣人国のどこかが先に占拠したのかもしれません」

 ケイたちは気付かなかったようだが、攻め込んで来たリシケサ王国の船は3隻ではなく4隻だった。
 通信魔道具の届くギリギリの位置で、もう一隻停泊していたのだ。
 全指揮権を与えられたのはエルミニオという名の隊長だが、浅慮の彼とは違い、セレドニオは前回のこともあり、もしもの場合を考えていたのだ。

「おのれっ!! 獣風情が!!」

 人族至上主義が基本の人族大陸。
 この王のように、獣人は会話ができない獣でしかないと思っている者がほとんどだ。

「ただ……」

「んっ!?」

 怒りで今にも暴れ出しそうな王に、セレドニオはそれを治まるであろうある一言を告げるのだった。

「隊長のエルミニオの最後の言葉には、面白い言葉がありました」

「……………………」

 内容次第では、腹いせにセレドニオを殴るつもりで、王は無言で見下ろす。

「エルフと……」

「…………フフッ、ハハハ……」

 予想外の言葉を聞いて、リシケサ王は大きな声をあげて笑い出した。
 今では絶滅したと言われているエルフ。
 隣国の同盟国であるパテル王国。
 そこで最後のエルフを捕まえたと話を聞いた時、大金をつぎ込んで奴隷として手に入れようと思っていたのだが、捕まえたのが抵抗激しく殺してしまったと知らされた。
 念のためパテルは標本として保管しているらしいが、死んでしまっては何の価値もない。
 生きているエルフを手に入れられれば、色々と実験をして楽しめる。
 嗜虐的な笑みが止まらない。

「セレドニオ!」

「はっ!」

 思った通り、王の機嫌を直すことができた。
 気味の悪い笑いを終えた王に呼ばれ、セレドニオは返事をする。

「貴様に全指揮権を与える。全戦力を使って、エルフを生け捕りにせよ!!」

「かしこまりました」

 王の指示を受け、返事をしたセレドニオは、踵を返して玉座の間から出て行ったのだった。

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