上 下
100 / 375
第6章

第100話

しおりを挟む
「これって大砲か?」

「そうですね」

 ケイたちが沈めた人族の船には、大砲が積まれていた。
 それを見つけたケイは、どんな構造になっているのかを色々な角度から眺めながら尋ねた。
 すると、聞かれたモイストから肯定の答えが返って来た。

「これ、どれくらい飛ぶんだろ?」

 もう一つの人格のアンヘルもそうだが、平和な日本で生まれ育った啓は大砲なんて初めて見た。
 こんな鉄の筒で、重く、でかい鉄球を遠くまで飛ばせるなんて、信じられない気がする。

「20~30㎞くらいでしょうか?」

「結構飛ぶんだな……」

 それだけ離れた場所へこうげきできるのならば、ケイたちが人族の船を沈めたように、大規模な魔法を撃たなくても大打撃を与えることができるかもしれない。

「魔力の込め方によってはもっと飛ぶかもしれませんね」

「魔力? 火薬の爆発で飛ばすんじゃないのか?」

 前世の記憶ではそうだったので、この世界でも同じなのかと思ったが、この大砲もどうやら魔道具なのだそうだ。
 火薬で飛ばすのではなく、圧縮した魔力を一気に解放することによって砲弾を飛ばす仕組みになっているらしい。
 
「火薬は取り扱いが重要ですし、作るのに手間がかかるので……」

「そうか……」

 言われてみればそうだと思った。
 この世界にも火薬はある。
 ケイの薄い知識だと、火薬を詰めて砲弾入れて火も引いて火薬に着火して吹き飛ばすという手順だと思っていた。
 その方法でするとなると多くの火薬を必要とし、扱いもしっかりしないといけないという欠点が存在する。
 魔力でなら、練習すれば制御ミスなんてことは滅多に起こらない。
 わざわざ危険な荷物になるような火薬より、断然こっちを選ぶだろう。

「獣人の場合はどういう風になっているんだ?」

 他の種族なら、魔力をコントロールしてこの大砲を発射させることができるだろうが、獣人の魔力は他より少ない。
 魔力を圧縮するにしても、量が少なければたいした飛距離を稼げないだろう。
 離れた的へ大打撃を与えられるから使えるのであって、飛距離がなければただの鉄の塊でしかない。
 獣人は魔力が少ない分、身体能力が極めて高いのは良いのだが、魔力を必要とする魔道具になるとかなりのネックになって来る。
 もしも人族と戦争になった時、大砲が使えないというのはかなり苦しい。

「魔力を圧縮する魔道具が付属された大砲を使用します」

「ふ~ん……」

 やはりこれもドワーフ族によって改良されているらしい。
 獣人が使う時のために、付属品を使うことで数人分の魔力を込めれば発射できるようになっているそうだ。

「圧縮する魔力が多ければ多い程、距離が稼げるのか?」

「確かにそうですが、ケイ殿の場合、あまり魔力を込めすぎると砲身が爆発に耐えられなくなるかもしれません」 

 圧縮した魔力を解放し、爆発に似た反発力を利用して発射するというのなら、単純に考えると、多くの魔力を圧縮してから解放すれば、更に強力な威力が生み出せるはずだ。
 それができれば、こっちからの攻撃は届いて、相手の攻撃は届かないという状況が作れる。
 つまりはハチの巣にできるということだ。
 まあ、魔力障壁で防がれるかもしれないが、長時間魔力障壁を張り続けさせ、この島に着くころには使える魔導士はあまりいないという状況を作り出せるということだ。
 論理的には正しいが、砲身がその反発力に耐えられるかは懐疑的だ。

「……なるほど、じゃあ、そこを改良してみるか……」

 沈めたばかりなので、人族がすぐにまたここへ攻め込んでくるとは思わないが、ここの少ない人数で勝利する可能性を高めるには、この大砲はかなり使える。
 ケイだけではなく、息子のレイナルドとカルロスもいれば、昨日の倍の船や人が来ても余裕をもって潰せるはずだ。
 そのためには、大砲の砲身の強化をする必要がありそうだ。

「錬金術で強化するということですか?」

「あぁ、小粒だが魔石も大量にある。ダンジョン内の魔物なら鉄より硬い素材持ちもいるだろうし」

 人族の船に搭載されていた大砲は、一隻に4台。
 3隻なので、全部で12台が今回手に入ったのだが、ケイたち親子がはっちゃけたせいで、3台が壊れて使いようがなくなっていた。
 しかし、壊れていても直せばまた使えるようになるし、砲身の強化にも使えるだろう。
 修復や砲身の強化をするにしても、ケイの場合は錬金術しかない。
 その錬金術も作る物が特にないので、最近は使う頻度が減って来ていた。
 なので、ただ食材集めに魔物を狩るだけでも魔石がドンドン手に入り、念のために保管していた洞窟には結構な量が溜まっている。
 小さいとはいえ、魔石には魔力が内包されている。
 少しならともかく、大量に壊れたりして魔力が漏れたりした場合、それを素に強力な魔物が発生したりしたら面倒だ。
 ダンジョンに吸収させてしまうのも良いのだが、ここ以外の国だと魔石は大きさなどによって専門店で売却できる。
 紙幣や硬貨を使用していないこの国だと、他の国との交易に使う資金を手に入れるとなると、魔石を売るしかなくなる。
 そのため取っておいたのだが、魔石は集めようと思えばいつでも集められるので、ケイは大砲の修復・改良に使ってしまうことにしたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【R18】World after 1 minute 1分後の先読み能力で金貨100万枚稼いだ僕は異世界で奴隷ハーレムを築きます

ロータス
ファンタジー
死んだでもなく、女神に誘われたでもなく、気づいたときには異世界へと転移された僕こと小川 秀作。 鑑定もなければ、ステータスも開かない、魔法も使えなければ、女神のサポートもない。 何もない、現代でも異世界でもダメダメな僕が唯一使えるスキル。 World after 1 minute。 1分後の未来をシミュレーションできるスキルだった。 そして目の前にはギャンブルが出来るコロセウムとなぜか握られている1枚の金貨。 運命というにはあまりにあからさまなそこに僕は足を踏み入れる。 そして僕の名は、コロセウムに轟くことになる。 コロセウム史上最大の勝ち金を手に入れた人間として。

私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ
恋愛
代々王宮医師を輩出しているオルディアン伯爵家の双子の妹として生まれたヴィオラ。 物心ついた頃から病弱の双子の兄を溺愛する母に冷遇されていた。王族の専属侍医である父は王宮に常駐し、領地の邸には不在がちなため、誰も夫人によるヴィオラへの仕打ちを諫められる者はいなかった。 母に拒絶され続け、冷たい日々の中でヴィオラを支えたのは幼き頃の初恋の相手であり、婚約者であるフォルスター侯爵家嫡男ルカディオとの約束だった。 『俺が騎士になったらすぐにヴィオを迎えに行くから待っていて。ヴィオの事は俺が一生守るから』 だが、その約束は守られる事はなかった。 15歳の時、愛するルカディオと再会したヴィオラは残酷な現実を知り、心が壊れていく。 そんなヴィオラに、1人の青年が近づき、やがて国を巻き込む運命が廻り出す。 『約束する。お前の心も身体も、俺が守るから。だからもう頑張らなくていい』 それは誰の声だったか。 でもヴィオラの壊れた心にその声は届かない。 もうヴィオラは約束なんてしない。 信じたって最後には裏切られるのだ。 だってこれは既に決まっているシナリオだから。 そう。『悪役令嬢』の私は、破滅する為だけに生まれてきた、ただの当て馬なのだから。

強引に婚約破棄された最強聖女は愚かな王国に復讐をする!

悠月 風華
ファンタジー
〖神の意思〗により選ばれた聖女、ルミエール・オプスキュリテは 婚約者であったデルソーレ王国第一王子、クシオンに 『真実の愛に目覚めたから』と言われ、 強引に婚約破棄&国外追放を命じられる。 大切な母の形見を売り払い、6年間散々虐げておいて、 幸せになれるとは思うなよ……? *ゆるゆるの設定なので、どこか辻褄が 合わないところがあると思います。 ✣ノベルアップ+にて投稿しているオリジナル小説です。 ✣表紙は柚唄ソラ様のpixivよりお借りしました。 https://www.pixiv.net/artworks/90902111

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

ミュージカル小説 ~踊る公園~

右京之介
現代文学
集英社ライトノベル新人賞1次選考通過作品。 その街に広い空き地があった。 暴力団砂猫組は、地元の皆さんに喜んでもらおうと、そこへ公園を作った。 一方、宗教団体神々教は対抗して、神々公園を作り上げた。 ここに熾烈な公園戦争が勃発した。 ミュージカル小説という美しいタイトルとは名ばかり。 戦いはエスカレートし、お互いが殺し屋を雇い、果てしなき公園戦争へと突入して行く。

清純Domの献身~純潔は狂犬Subに貪られて~

天岸 あおい
BL
※多忙につき休載中。再開は三月以降になりそうです。 Dom/Subユニバースでガラの悪い人狼Sub×清純な童顔の人間Dom。 子供の頃から人に尽くしたがりだった古矢守流。 ある日、公園の藪で行き倒れている青年を保護する。 人狼の青年、アグーガル。 Sub持ちだったアグーガルはDomたちから逃れ、異世界からこっちの世界へ落ちてきた。 アグーガルはすぐに守流からDomの気配を感じるが本人は無自覚。しかし本能に突き動かされて尽くそうとする守流に、アグーガルは契約を持ちかける。 自分を追い詰めたDomへ復讐するかのように、何も知らない守流を淫らに仕込み、Subに乱れるDomを穿って優越感と多幸感を味わうアグーガル。 そんな思いを肌で感じ取りながらも、彼の幸せを心から望み、彼の喜びを自分の悦びに変え、淫らに堕ちていく守流。 本来の支配する側/される側が逆転しつつも、本能と復讐から始まった関係は次第に深い絆を生んでいく――。 ※Dom受け。逆転することはなく固定です。 ※R18パートは話タイトルの前に『●』が付きます。なお付いていない話でも、キスや愛撫などは隙あらば挟まります。SM色は弱く、羞恥プレイ・快楽責めメイン。

処理中です...