上 下
98 / 375
第6章

第98話

しおりを挟む
「なあ、モイセス。これなんだ?」

 ケイたちが沈めた人族の船から、モイセスたちが潜水して色々見つけて戻って来た。
 前回1隻で来た時は、乗員の武器ばかりで魔道具が手に入らなかった。
 最初から島を乗っ取るために来たのだろう。
 モイセスたちは、金属類はもとより、魔道具も幾つか拾ってきた。
 ケイとしても、貴金属類より魔道具の方が興味があったので、初めて見る魔道具に目が行った。
 筒のような物に線が付いていて、大きな箱のような物に繋がっている。
 箱の方には、色々なボタンが付いている。

「通信用の魔道具ですね」

「通信用……」

 見た感じなんとなく予想できたが、やはりケイの思った通りだった。
 前世で見たことある物と似ていたからだ。
 それは電話だ。
 といっても、電話ボックスにある電話だ。

「これカンタルボスと交信できるのかな?」

 モイセスたちが知っているということは、彼らの故郷であるカンタルボス王国にも同じものがあるのだろう。
 それならば、もしかしたら通信できるのではないかと思い、ケイはモイセスに問いかけた。

「無理ですね。距離が離れ過ぎています」

「そうか……」

 通信できるのなら、わざわざ転移魔法で毎月報告に行く必要もない。
 報告しに行った日に人族が大軍で攻めて来ようものなら、目も当てられない。
 淡い期待をしたのだが、やはりそう上手いこといかないようだ。

「どれくらいの距離まで通信できるんだ?」

「この島の最北端と最南端ぐらいではないでしょうか?」

 通信の魔道具なのだから、ある程度の距離は通じないと役に立たない。
 折角手に入れたのだから、有効利用したい。
 そう思って問いかけると、帰って来たのはこれだった。
 この島で最北端から最南端の距離と言ったら、40kmくらいだ。
 使えると言えば使えるが、少し微妙だ。
 緊急時に使うには役に立つかもしれないが、普段使うにはあまり意味が無いような距離だ。

「……何のために積んでいたんだ?」

「船同士の連携を取るためですね」

「なるほど……」

 予想通りの答えだ。
 普通に考えて、遠く離れた自国との通信のために乗せていたとは思えない。
 となれば、海上での仲間同士の連携に使うのが妥当だろう。
 船なら手旗信号なんかもあるが、直接話し合える方がスムーズに情報を交換できる。
 使い道としたら妥当な気がする。

「まてよ……連携取っていたのに何で障壁張らなかったんだ?」

「張る暇がなかったのでは?」

 たしかケイたち親子が魔法を放った時、彼らは魔法に対抗する障壁を船に張らなかった。
 自分たちが挑発するようなことを言ってきたのだから、何か対抗する処置を取っているのかと思ったら、あっさりと沈めることができたので、ケイとしても少し拍子抜けしていた。
 もしかしたら、障壁を張れるような人間を乗せていなかったのではないかと思っていた。
 発見した島に人が住んでいたとしても、獣人なら遠くから魔法で攻撃してくることもないと考えていたのだろうか。
 それにしたって、魔導士を全然乗せていないなんて馬鹿としか言いようがない。
 となると、モイセスが言うように障壁を張る前に攻撃が通用したのかもしれない。
 あの時、モイセスたち獣人だけでなく、ケイたちがエルフだときづいていたようだった。
 エルフは人を殺さないと分かっていれば、油断して障壁を張る必要はないと考えていた可能性が高い。

「獣人たちが海上攻撃された場合はどうするんだ?」

 人族なら、魔法が得意な者が障壁を張ればいいが、獣人は魔法が得意ではない。
 そうなると、今回の人族の船のように攻撃されたら、なすすべがないのではないかと思える。

「獣人にも魔法が得意な種族はおりますし、船を防御する獣人用の魔道具もあります」

「へ~……、すごいな」

 以前ルイスに聞いた話によると、獣人には色々な種類がおり、大抵が魔法が苦手だという話だ。
 中でも、孤人族・狸人族は魔法が得意な種族らしく、それぞれ北と西に国を構えているらしい。
 カンタルボスにも、少数ながらも住んでいて、回復師や障壁防御役として重宝されている。
 数が少ないので、骨折程度は治したりしないそうだ。
 リカルドと戦いケイが骨折した時に、固定だけして自然治癒になったのはそのためのようだ。
 船の防御にも乗せるが、数が少ない。
 そのため、船の場合は防御用の魔道具があるらしい。
 魔道具なら魔力を溜めておいて、その魔力を使って発動すればいい。
 後は、溜めた魔力が尽きる前に海岸に接岸してしまえば問題はない。
 そんな魔道具があるなんて、この世界もすごいんだなとケイは感心した。

「魔道具ってどうやって作れるんだ?」

 この通信の魔道具は、でかいとはいえ電話に似ている。
 たまたま似たような形になったという可能性もあるが、ケイにはもしかしたらという考えも浮かんで来る。
 転移者はともかく、自分自身という例がある。
 自分と同じようにこの世界に転生した人間がいるのではないかと、思えてくる。
 そのことも気になるが、魔道具の作成ということへも興味がある。
 自分でも作ることができればと、ケイはモイセスに尋ねた。

「獣人の場合はドワーフ族に作ってもらうことが多いですね」

「ドワーフ!?」

 前世の漫画やラノベで聞いたことある種族の名前に、ケイは思わず大きな声を出して反応してしまったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【R18】World after 1 minute 1分後の先読み能力で金貨100万枚稼いだ僕は異世界で奴隷ハーレムを築きます

ロータス
ファンタジー
死んだでもなく、女神に誘われたでもなく、気づいたときには異世界へと転移された僕こと小川 秀作。 鑑定もなければ、ステータスも開かない、魔法も使えなければ、女神のサポートもない。 何もない、現代でも異世界でもダメダメな僕が唯一使えるスキル。 World after 1 minute。 1分後の未来をシミュレーションできるスキルだった。 そして目の前にはギャンブルが出来るコロセウムとなぜか握られている1枚の金貨。 運命というにはあまりにあからさまなそこに僕は足を踏み入れる。 そして僕の名は、コロセウムに轟くことになる。 コロセウム史上最大の勝ち金を手に入れた人間として。

私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ
恋愛
代々王宮医師を輩出しているオルディアン伯爵家の双子の妹として生まれたヴィオラ。 物心ついた頃から病弱の双子の兄を溺愛する母に冷遇されていた。王族の専属侍医である父は王宮に常駐し、領地の邸には不在がちなため、誰も夫人によるヴィオラへの仕打ちを諫められる者はいなかった。 母に拒絶され続け、冷たい日々の中でヴィオラを支えたのは幼き頃の初恋の相手であり、婚約者であるフォルスター侯爵家嫡男ルカディオとの約束だった。 『俺が騎士になったらすぐにヴィオを迎えに行くから待っていて。ヴィオの事は俺が一生守るから』 だが、その約束は守られる事はなかった。 15歳の時、愛するルカディオと再会したヴィオラは残酷な現実を知り、心が壊れていく。 そんなヴィオラに、1人の青年が近づき、やがて国を巻き込む運命が廻り出す。 『約束する。お前の心も身体も、俺が守るから。だからもう頑張らなくていい』 それは誰の声だったか。 でもヴィオラの壊れた心にその声は届かない。 もうヴィオラは約束なんてしない。 信じたって最後には裏切られるのだ。 だってこれは既に決まっているシナリオだから。 そう。『悪役令嬢』の私は、破滅する為だけに生まれてきた、ただの当て馬なのだから。

強引に婚約破棄された最強聖女は愚かな王国に復讐をする!

悠月 風華
ファンタジー
〖神の意思〗により選ばれた聖女、ルミエール・オプスキュリテは 婚約者であったデルソーレ王国第一王子、クシオンに 『真実の愛に目覚めたから』と言われ、 強引に婚約破棄&国外追放を命じられる。 大切な母の形見を売り払い、6年間散々虐げておいて、 幸せになれるとは思うなよ……? *ゆるゆるの設定なので、どこか辻褄が 合わないところがあると思います。 ✣ノベルアップ+にて投稿しているオリジナル小説です。 ✣表紙は柚唄ソラ様のpixivよりお借りしました。 https://www.pixiv.net/artworks/90902111

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

ミュージカル小説 ~踊る公園~

右京之介
現代文学
集英社ライトノベル新人賞1次選考通過作品。 その街に広い空き地があった。 暴力団砂猫組は、地元の皆さんに喜んでもらおうと、そこへ公園を作った。 一方、宗教団体神々教は対抗して、神々公園を作り上げた。 ここに熾烈な公園戦争が勃発した。 ミュージカル小説という美しいタイトルとは名ばかり。 戦いはエスカレートし、お互いが殺し屋を雇い、果てしなき公園戦争へと突入して行く。

清純Domの献身~純潔は狂犬Subに貪られて~

天岸 あおい
BL
※多忙につき休載中。再開は三月以降になりそうです。 Dom/Subユニバースでガラの悪い人狼Sub×清純な童顔の人間Dom。 子供の頃から人に尽くしたがりだった古矢守流。 ある日、公園の藪で行き倒れている青年を保護する。 人狼の青年、アグーガル。 Sub持ちだったアグーガルはDomたちから逃れ、異世界からこっちの世界へ落ちてきた。 アグーガルはすぐに守流からDomの気配を感じるが本人は無自覚。しかし本能に突き動かされて尽くそうとする守流に、アグーガルは契約を持ちかける。 自分を追い詰めたDomへ復讐するかのように、何も知らない守流を淫らに仕込み、Subに乱れるDomを穿って優越感と多幸感を味わうアグーガル。 そんな思いを肌で感じ取りながらも、彼の幸せを心から望み、彼の喜びを自分の悦びに変え、淫らに堕ちていく守流。 本来の支配する側/される側が逆転しつつも、本能と復讐から始まった関係は次第に深い絆を生んでいく――。 ※Dom受け。逆転することはなく固定です。 ※R18パートは話タイトルの前に『●』が付きます。なお付いていない話でも、キスや愛撫などは隙あらば挟まります。SM色は弱く、羞恥プレイ・快楽責めメイン。

処理中です...