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第6章
第93話
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「ケイ殿、なかなか釣れないですな……」
「リカルド殿、釣りは我慢ですよ」
島が国に認定されて3年が経った。
海岸にある岩に腰かけ、並んで釣竿を垂らすリカルドとケイ。
ケイの方は数匹連れているが、リカルドの方はかかってもバラしてしまい釣れないでいた。
王族に生まれて、小さい頃から勉強や訓練ばかり、王になったら当然好き勝手出来る訳でもなく、釣りなど生まれて初めての経験だ。
そのため、かかったと同時にテンションが上がって、何度も思いっきり引っ張ってしまった。
それではバレるのも当然。
次第に当たりまで無くなって来たのだから、愚痴るのも仕方がない所だ。
図体がでかいのにシュンとするのを見せられると、ケイは申し訳なく思えてくる。
「ワシはやっぱり狩りの方が合ってる気がするな」
たしかに、リカルドは体を動かして獲物を捕まえる方が得意なのは、見た目だけで分かる。
しかし、今までしたことがないことをしたいと言ったのはリカルド自身。
もうすぐ3時。
時間的には国へ帰る準備をした方がいい時間。
それまで粘れば、1匹くらい釣れるはずだ。
何年たっても釣りが楽しいケイにとって、このまま釣りがつまらないものと思われてしまうのは、リカルドにとってももったいない。
それに、一国の王につまらない島と思われたくないからだ。
「狩りは今度来にでも行きましょう!」
そもそも、狩りにいくにしても今日は難しい。
リカルドならここの島の魔物相手に怪我を負うなんてことはないだろうが、護衛もなしに連れて行って怪我でもされたらたまったもんじゃない。
苦笑しながら誤魔化すようにケイは言った。
「おぉ、では明日にでも……」
「いや、いや、帰らないと国の仕事があるのではないですか?」
その発言だと、今日は泊まるつもりなのだろうか。
王がいないのでは国が混乱する。
さすがに泊まらせるわけにはいかない。
「息子のエリアスに任せておけば大丈夫ですよ。あいつの方が頭が良いし、弟のファウストもいる」
「確かにお二人は優秀なのでしょうが、まだリカルド殿の存在は必要なのではないでしょうか?」
エリアスとファウストは20代とまだ若い。
国の仕事は重責が伴う。
まだ全て任せるのは早い気がする。
ケイは忠告も込めてリカルドを説得した。
「……そうですな」
ケイの言うことはもっともだ。
なので、リカルドも素直に頷いたのだった。
リカルドがこの島にいるのは、ケイが連れてきたからだ。
連れてきたというより、付いてきたと言った方が良いかもしれない。
この3年で、ケイは少し前にある魔法を使えるようになった。
その魔法とは転移魔法だ。
前回の船旅で、ケイと美花のトラウマが、思った以上に溺れた深いものだと思い知った。
同盟を結んだのだから、数年に一度はカンタルボスへ訪問して関係を深めた方がお互いにとっていいことだろう。
そうなると、国として見れば雲泥の差。
訪問に足を運ぶのはケイたちの方になる。
そうなると、また船旅が待っているので気が滅入る。
そんな時、ケイは思いついた。
ならば、それを解決する魔法を考えればいい。
転移魔法が使えるようになり、月に1度ほどカンタルボスの王都に飛び、それから王城で会見するようになった。
今回は転移魔法を使えるようになって2度目の会見だったのだが、そこでリカルドが思わぬことを言った。
ケイの島に連れて行ってくれと……。
実験したが、転移魔法は数人くらいなら一緒に連れていける。
やんわり断ったのだが、ケイは押しに負けてしまった。
そして、結局島に連れてくることになり、今に至る。
「あっ!? かかってますよ!」
しっかり断った方が良かったのだろうかと、ケイが遠い目をしながら釣り糸を見つめていると、隣の浮が反応していた。
「なに? 本当だ!」
ケイとの話しが止まってウトウトしていたらしく、リカルドはケイの言葉に慌てて反応した。
そして、竿受け(ロッドホルダー)から竿を持ち上げた。
「待ってください! まずは落ち着いて下さい!」
「そ、そうだ……」
また同じことをしてしまうと思ったため、ケイはリカルドを一旦止めた。
これまで、かかったと思って、慌てて引っ張ったから逃げらたのだ。
そのたびにケイがアドバイスしていたのだが、かかるのを待っている間にそれが飛んでしまうらしい。
今回は眠気が混じって、テンションが上がり切らず冷静さが残っていた。
ケイに止められ、アドバイスを思いだしたリカルドは、竿から伝わる感触に集中した。
魚がかかった場合、少し泳がせてから引いた方がバレにくい。
最初は無理に引っ張らず、魚に抵抗しないように竿を動かし、少しずつ糸を引いていた方が良い。
「あっ! 見えてきました」
リカルドが使っている竿には、ケイが錬金術で作ったリール(手動)が付いている。
今回はケイの教えた通りジワジワと糸を巻き、とうとう網が届く距離にきた。
「おぉっ! でかい!」
「やりましたね! この魚はなかなか釣れませんよ」
初釣りでまさかのチヌ(黒鯛)ゲット。
長いことこの島にいるケイも、釣ったのは片手で数えるほどの数の魚だ。
しかも、まあまあでかい。
ビギナーズラックとはいえ、これにはケイも褒めるしかない。
かなり貴重な魚だと聞いたリカルドは、この1匹でめちゃめちゃ嬉しそうな笑顔へと変わったのだった。
「リカルド殿、釣りは我慢ですよ」
島が国に認定されて3年が経った。
海岸にある岩に腰かけ、並んで釣竿を垂らすリカルドとケイ。
ケイの方は数匹連れているが、リカルドの方はかかってもバラしてしまい釣れないでいた。
王族に生まれて、小さい頃から勉強や訓練ばかり、王になったら当然好き勝手出来る訳でもなく、釣りなど生まれて初めての経験だ。
そのため、かかったと同時にテンションが上がって、何度も思いっきり引っ張ってしまった。
それではバレるのも当然。
次第に当たりまで無くなって来たのだから、愚痴るのも仕方がない所だ。
図体がでかいのにシュンとするのを見せられると、ケイは申し訳なく思えてくる。
「ワシはやっぱり狩りの方が合ってる気がするな」
たしかに、リカルドは体を動かして獲物を捕まえる方が得意なのは、見た目だけで分かる。
しかし、今までしたことがないことをしたいと言ったのはリカルド自身。
もうすぐ3時。
時間的には国へ帰る準備をした方がいい時間。
それまで粘れば、1匹くらい釣れるはずだ。
何年たっても釣りが楽しいケイにとって、このまま釣りがつまらないものと思われてしまうのは、リカルドにとってももったいない。
それに、一国の王につまらない島と思われたくないからだ。
「狩りは今度来にでも行きましょう!」
そもそも、狩りにいくにしても今日は難しい。
リカルドならここの島の魔物相手に怪我を負うなんてことはないだろうが、護衛もなしに連れて行って怪我でもされたらたまったもんじゃない。
苦笑しながら誤魔化すようにケイは言った。
「おぉ、では明日にでも……」
「いや、いや、帰らないと国の仕事があるのではないですか?」
その発言だと、今日は泊まるつもりなのだろうか。
王がいないのでは国が混乱する。
さすがに泊まらせるわけにはいかない。
「息子のエリアスに任せておけば大丈夫ですよ。あいつの方が頭が良いし、弟のファウストもいる」
「確かにお二人は優秀なのでしょうが、まだリカルド殿の存在は必要なのではないでしょうか?」
エリアスとファウストは20代とまだ若い。
国の仕事は重責が伴う。
まだ全て任せるのは早い気がする。
ケイは忠告も込めてリカルドを説得した。
「……そうですな」
ケイの言うことはもっともだ。
なので、リカルドも素直に頷いたのだった。
リカルドがこの島にいるのは、ケイが連れてきたからだ。
連れてきたというより、付いてきたと言った方が良いかもしれない。
この3年で、ケイは少し前にある魔法を使えるようになった。
その魔法とは転移魔法だ。
前回の船旅で、ケイと美花のトラウマが、思った以上に溺れた深いものだと思い知った。
同盟を結んだのだから、数年に一度はカンタルボスへ訪問して関係を深めた方がお互いにとっていいことだろう。
そうなると、国として見れば雲泥の差。
訪問に足を運ぶのはケイたちの方になる。
そうなると、また船旅が待っているので気が滅入る。
そんな時、ケイは思いついた。
ならば、それを解決する魔法を考えればいい。
転移魔法が使えるようになり、月に1度ほどカンタルボスの王都に飛び、それから王城で会見するようになった。
今回は転移魔法を使えるようになって2度目の会見だったのだが、そこでリカルドが思わぬことを言った。
ケイの島に連れて行ってくれと……。
実験したが、転移魔法は数人くらいなら一緒に連れていける。
やんわり断ったのだが、ケイは押しに負けてしまった。
そして、結局島に連れてくることになり、今に至る。
「あっ!? かかってますよ!」
しっかり断った方が良かったのだろうかと、ケイが遠い目をしながら釣り糸を見つめていると、隣の浮が反応していた。
「なに? 本当だ!」
ケイとの話しが止まってウトウトしていたらしく、リカルドはケイの言葉に慌てて反応した。
そして、竿受け(ロッドホルダー)から竿を持ち上げた。
「待ってください! まずは落ち着いて下さい!」
「そ、そうだ……」
また同じことをしてしまうと思ったため、ケイはリカルドを一旦止めた。
これまで、かかったと思って、慌てて引っ張ったから逃げらたのだ。
そのたびにケイがアドバイスしていたのだが、かかるのを待っている間にそれが飛んでしまうらしい。
今回は眠気が混じって、テンションが上がり切らず冷静さが残っていた。
ケイに止められ、アドバイスを思いだしたリカルドは、竿から伝わる感触に集中した。
魚がかかった場合、少し泳がせてから引いた方がバレにくい。
最初は無理に引っ張らず、魚に抵抗しないように竿を動かし、少しずつ糸を引いていた方が良い。
「あっ! 見えてきました」
リカルドが使っている竿には、ケイが錬金術で作ったリール(手動)が付いている。
今回はケイの教えた通りジワジワと糸を巻き、とうとう網が届く距離にきた。
「おぉっ! でかい!」
「やりましたね! この魚はなかなか釣れませんよ」
初釣りでまさかのチヌ(黒鯛)ゲット。
長いことこの島にいるケイも、釣ったのは片手で数えるほどの数の魚だ。
しかも、まあまあでかい。
ビギナーズラックとはいえ、これにはケイも褒めるしかない。
かなり貴重な魚だと聞いたリカルドは、この1匹でめちゃめちゃ嬉しそうな笑顔へと変わったのだった。
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