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第5章

第85話

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『デカイのになんでそんな速いんだよ!?』

 初っ端の相打ちで、ケイとリカルドはお互い様子見を済ませた。
 そして、次に始まったのはシンプルな殴り合いだ。
 魔闘術で全身強化したケイは、体格的に自分の方が速度は上だと動き回る。
 攪乱かくらんさせるつもりでリカルドの死角へと動くのだが、190はあるのではないかというような体で、リカルドはきっちりついてきた。
 そのことに、ケイは内心では愚痴をこぼしていた。

「ッラー!!」

「ぐっ!?」

 170程度の身長のケイに肉の壁ともいえるリカルドの拳が迫り来る。
 普通の人間なら、その風圧で吹き飛ばしてしまいそうな威力をしている。
 それをギリギリで躱し、ケイは懐に入って連打を与える。

『いくら早くても回転速度は違うだろ?』

 移動速度は差がなくても、体の大きさによる回転速度は話が違う。
 同じパンチでも、出して引くの動作には顕著に速度の差が出た。
 
「ハッ!!」

「うっ!?」

 ケイが4、5発殴りつける。
 しかし、リカルドもただ殴られているのではなく、殴られると同時に拳を振って来た。
 その拳がケイの腹へ突き刺さる。
 深く入った重い攻撃で、体が軽いケイは弾かれるように飛んで行く。
 どうやらリカルドは、自分が殴られた瞬間には、ケイが目の前にいるということを見越した戦い方を選択したようだ。

『何て一撃だよ? こっちの5発を1発でチャラかよ!?』

 飛ばされながらも、ケイはしっかりと着地した。
 殴られる瞬間僅かに体を引かせて、衝撃を抑えようとしたのだが、それでもかなり響いた腹を左手で抑える。
 数では多く殴られたリカルドは、パッと見あまり効いていないように見える。
 体勢を整えたケイに向かって、一気に迫ってきている。

『目が眩むような速さだ! エルフとか関係なく、こんな人間がいると言うのか?』

 ケイがリカルドの攻撃力と耐久力に驚いている中、リカルドの方もケイの移動速度と反射速度に内心驚いていた。
 総合的な速さだけならケイの方が上なのかもしれない。
 ケイの攻撃は確かに痛いが、体格の差通り軽い。
 とはいっても、あの速度で数多く殴られたら、リカルドですら膝をつくことになりかねない。
 多少の被弾は覚悟してでも、無理やり相打ちに持ち込む。
 特に、狙いは腹。
 腹を殴ればあの厄介な速度を鈍らせられる。
 そうすれば、さらにこちらが有利になる。
 こういった殴り合いには自信がある。
 なので、このまま殴り合いで勝負を決めてやろうと、ケイへと迫る。  

「ぐっ!?」

「っ!?」

 先程と同じような攻防になる。
 ケイが手数で攻め、リカルドは相打ちのボディーを撃ってくる。
 どちらも被弾するが、体が軽いケイは殴られるたびに飛ばされた。

「うぅ……」

 速い反応で少しは衝撃を減らそうとしているが、そんなのお構いなしで衝撃が伝わってくる。
 そのため、たった数発で足に違和感が生じてきた。
 鏡がないので自分では気が付かないが、ケイの顔色は悪くなりつつあった。

「…………仕方ない」

 殴った数では完全に上だが、このままでは自分が完全に負ける。
 負けたとしても別に構わないが、ただ負けるのは男が廃る。
 腹を抑えるケイに、リカルドがまたも迫り来る中、ケイはあることを決めた。

“パンッ!!”

「っ!?」

 腰のホルスターから抜いた銃で、迫るリカルドの足下へ一撃放つ。
 突然の武器での攻撃に、リカルドはケイへと迫る足を止めて、後方へとステップを取る。

「……それが武器ですか?」

「えぇ……、当たっても大怪我はしないと思いますか、痛いですよ?」

 昨日のうちにルールは知らされていた。
 武器の使用は自由。
 降参させるか戦闘不能になればそこで終了。
 これだけしか知らされなかった。
 他にも細かく決めた方が良いのではないかとリカルドに尋ねたが、これで十分だろうと言われた。
 ケイが汚い手に出ないと思っているのだろうか、もしくは舐めているのかと思わなくもなかった。
 そのため、開戦当初は殴り勝ってやろうと思って、拳勝負に打って出たのだった。

「面白いですね……」

 先程撃ったケイの弾は、地面に穴を開けている。
 射線が辛うじて見えるほどの速度の攻撃に、リカルドはまたも楽しそうに口角が上がった。

『これだから脳筋は……』

 リカルドがその笑顔をすると、何だかまたも体が大きくなったような錯覚に陥る。
 本当に筋肉が肥大したのかもしれない。
 楽しいだけで強くなるなんて、全くもって理不尽な存在だ。
 ケイはいつもの戦闘スタイルで戦うことにした。

“パンッ!!”

「クッ!?」

 ケイはリカルドの太もも目掛けて引き金を引く。
 銃口を見て判断したのか、リカルドは右に飛んで銃弾を避ける。

『……何で躱せるの? イカレてんじゃないか?』

 たった2発目で銃の特性を理解したのだろうか。
 もう躱したことに、ケイは本気で引いた。

“パンッ!!”

「ヌンッ!!」

 3発目を撃つと、リカルドは手の甲で魔力の弾を弾いた。
 生身でそんなことができるなんて、獣人の体はどうなっているのか。
 というより、

『どんだけ硬いんだよ!?』

 生身の拳で弾を弾くなんて芸当を目の前でやられ、ケイはめちゃくちゃ焦った。

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