58 / 375
第4章
第58話
しおりを挟む
「どこだ?」
「……何が?」
硫黄の臭いを感じ取ったケイは、美花を伴って島の北にある小山の頂上にたどり着いた。
きちんと説明をしていないせいか、美花はケイが何を言っているのか理解できていないらしく、首を傾げる。
そんな美花を構いもせず、ケイは周囲をキョロキョロと見渡した。
「………………こっちか?」
「だから何が?」
何の説明もしてくれないでいるケイに対して、美花も少々イラ立ってきた。
しかし、ケイも今は急いで確認したいことがあるので、説明している時間が惜しい。
申し訳ないが、美花への説明は後回しだ。
「…………あそこだ!」
「え~?」
頂上から山の斜面を見渡していたケイは、目当ての場所を見つけた。
「……何あそこ?」
美花は何だか分からないまま、ケイが指さした方向へ目を向けた。
山の北側、海沿いの斜面の一部に煙が出ている場所を発見した。
その煙が出ているところの周辺は、何故かポッカリと樹々が生えていない。
それが異質に思えた美花は、若干引き気味にケイに問いかけた。
「……たぶんあそこが噴火口だ」
「えっ!? 噴火口って……、あそこから噴火するの!?」
美花はようやくケイが慌てていた理由を理解した。
ここの島は、はっきり言って大きくない。
結構離れているといっても、噴火したらみんなが住んでいる所にも被害が及ぶことは確実だ。
噴火するとしたら、このことをみんなに知らせる必要がある。
「美花! 先に帰ってみんなに伝えろ!」
「先にって……、ケイはどうするのよ?」
確かにみんなに伝えるべきだが、何故自分1人でなのかと美花は疑問に思った。
残った所で何かできるとは思わなかったからだ。
「意味があるか分からないけど、村への被害が減るようにちょっと細工するつもりだ!」
自然災害相手に人間1人ががどうこうできるなんて思いもしないが、前世と違ってこの世界には魔法がある。
そもそも噴火をするかも定かではないし、いつ噴火するかも分からない。
魔物たちの異変があったのは最近なので、噴火するにしても今日とは限らない。
それだけの時間があるのなら、村への被害を少なくする方法を考えるべきだ。
といっても、時間がない状態での思い付きなので、意味があるかは分からない。
ともかく、もしも噴火した時のために、みんなの避難場所などの確保などは美花に任せれば大丈夫だろう。
「細工って……、危険じゃないの?」
「大丈夫。危険だと感じたらさっさと村に戻る!」
確かに細工をしようとしている最中に噴火でもしようものなら、ケイでも無事では済まないだろう。
十中八九で大怪我するのは目に見えている。
いや、怪我で済めば息子2人が回復魔法が使える。
死にさえしなければどうにかなる。
そう考えれば少しは無茶ができるが、美花の手前無難に答えておくべきだろう。
「……分かったわ。本当に無理しないでよ!」
「あぁ!」
ケイの妻として長いこと一緒に過ごしてきた。
今のケイの発言と表情はなんとなく引っかかる所がある。
妻の……女の勘だろうか、本音半分、嘘半分といって感じに思える。
問い詰めたい気もするが、今はやめておこう。
どれだけの時間があるか分からないのだから、無駄なやり取りをして時間を食うより、早いところケイにやることをやらせて戻って来てもらうのが一番だ。
美花はケイに釘を刺し、急いで山を下り始めた。
◆◆◆◆◆
「んっ? 母さん?」
今日の夜まで見張りはレイナルドだ。
帰ってきたケイとの交代になるのだが、最近の異変の内容によっては遅くなるかもしれないので、特別にイバンが代わりになるかもしれない。
朝出かける父の注意に、いつもより硬い表情で見張りをしていた。
昼が過ぎ3時近くになったころ、出かけて行った両親のうち、母が一人で帰って気たのを発見した。
「どうしたんだ? 父さんは?」
母の急ぎ具合と、1人で帰ってきたところからして、何かあったのかもしれない。
嫌な予感がしたレイナルドは、母に一緒に行ったはずの父のことを尋ねた。
「ハァ、ハァ、レイ! 全員村に集めなさい!」
「いったい何が……?」
余程急いできたのか、母は息切れしている。
しかし、すぐにレイナルドに向かって指示を出した。
ただ、理由を把握してないレイナルドは、反射的に問いかけずにはいられなかった。
「説明は後よ!! 急ぎなさい!!」
「わ、分かった!!」
母の慌てようから深刻な状態なのだと判断したレイナルドは、慌てて見張り台から村の方向へ走り出したのだった。
「えっ!? 噴火!?」
村の子供も大人も集まる中、美花はみんなに向かって魔物の異変の原因を説明した。
「そもそも、あの小山が火山だなんて……」
「だから魔物がいつもいないところに現れたのか……」
「どうしたら……」
誰が言ったのかは分からないが、みんな美花の話に慌てている。
確かに、魔物以外に注意するべき脅威が長いことなかったからか、こういった自然災害が起こるとは想像もしていなかったのだからあわてても仕方がない。
“パンッ! パンッ!”
「「「「「!?」」」」」
「みんな! 気持ちは分かるけど落ち着いて!」
戸惑うみんなを落ち着かせようと、美花は手を叩いて注目を集め、冷静に話す。
「気になっていると思うけど、ケイは無事よ。戻って来てないのはここの被害を少なくする細工をするって言って山に残っだけよ。時間がなくて何をするのか聞けなかったけど……」
ケイのことが気になっていた全員が、僅かに安堵の表情に変わる。
しかし、山に残ったと聞いて、またも表情が曇る。
「……ケイならたぶん大丈夫よ。無理をしないと言っていたから……」
みんなと同様に美花もケイのことが心配だ。
だが、今はそれどころではない。
「それよりも、みんなは噴火した時のことを考えましょう!」
「「「「「はい!」」」」」
ケイはたった1人からここまで発展させた程の人間だ。
きっと何かの考えがあるはずだ。
美花の言うように不安があるが、きっと大丈夫なはずだ。
根拠はないがみんな同じ思いに至ったのか、すぐに気持ちを切り替えたのだった。
「……何が?」
硫黄の臭いを感じ取ったケイは、美花を伴って島の北にある小山の頂上にたどり着いた。
きちんと説明をしていないせいか、美花はケイが何を言っているのか理解できていないらしく、首を傾げる。
そんな美花を構いもせず、ケイは周囲をキョロキョロと見渡した。
「………………こっちか?」
「だから何が?」
何の説明もしてくれないでいるケイに対して、美花も少々イラ立ってきた。
しかし、ケイも今は急いで確認したいことがあるので、説明している時間が惜しい。
申し訳ないが、美花への説明は後回しだ。
「…………あそこだ!」
「え~?」
頂上から山の斜面を見渡していたケイは、目当ての場所を見つけた。
「……何あそこ?」
美花は何だか分からないまま、ケイが指さした方向へ目を向けた。
山の北側、海沿いの斜面の一部に煙が出ている場所を発見した。
その煙が出ているところの周辺は、何故かポッカリと樹々が生えていない。
それが異質に思えた美花は、若干引き気味にケイに問いかけた。
「……たぶんあそこが噴火口だ」
「えっ!? 噴火口って……、あそこから噴火するの!?」
美花はようやくケイが慌てていた理由を理解した。
ここの島は、はっきり言って大きくない。
結構離れているといっても、噴火したらみんなが住んでいる所にも被害が及ぶことは確実だ。
噴火するとしたら、このことをみんなに知らせる必要がある。
「美花! 先に帰ってみんなに伝えろ!」
「先にって……、ケイはどうするのよ?」
確かにみんなに伝えるべきだが、何故自分1人でなのかと美花は疑問に思った。
残った所で何かできるとは思わなかったからだ。
「意味があるか分からないけど、村への被害が減るようにちょっと細工するつもりだ!」
自然災害相手に人間1人ががどうこうできるなんて思いもしないが、前世と違ってこの世界には魔法がある。
そもそも噴火をするかも定かではないし、いつ噴火するかも分からない。
魔物たちの異変があったのは最近なので、噴火するにしても今日とは限らない。
それだけの時間があるのなら、村への被害を少なくする方法を考えるべきだ。
といっても、時間がない状態での思い付きなので、意味があるかは分からない。
ともかく、もしも噴火した時のために、みんなの避難場所などの確保などは美花に任せれば大丈夫だろう。
「細工って……、危険じゃないの?」
「大丈夫。危険だと感じたらさっさと村に戻る!」
確かに細工をしようとしている最中に噴火でもしようものなら、ケイでも無事では済まないだろう。
十中八九で大怪我するのは目に見えている。
いや、怪我で済めば息子2人が回復魔法が使える。
死にさえしなければどうにかなる。
そう考えれば少しは無茶ができるが、美花の手前無難に答えておくべきだろう。
「……分かったわ。本当に無理しないでよ!」
「あぁ!」
ケイの妻として長いこと一緒に過ごしてきた。
今のケイの発言と表情はなんとなく引っかかる所がある。
妻の……女の勘だろうか、本音半分、嘘半分といって感じに思える。
問い詰めたい気もするが、今はやめておこう。
どれだけの時間があるか分からないのだから、無駄なやり取りをして時間を食うより、早いところケイにやることをやらせて戻って来てもらうのが一番だ。
美花はケイに釘を刺し、急いで山を下り始めた。
◆◆◆◆◆
「んっ? 母さん?」
今日の夜まで見張りはレイナルドだ。
帰ってきたケイとの交代になるのだが、最近の異変の内容によっては遅くなるかもしれないので、特別にイバンが代わりになるかもしれない。
朝出かける父の注意に、いつもより硬い表情で見張りをしていた。
昼が過ぎ3時近くになったころ、出かけて行った両親のうち、母が一人で帰って気たのを発見した。
「どうしたんだ? 父さんは?」
母の急ぎ具合と、1人で帰ってきたところからして、何かあったのかもしれない。
嫌な予感がしたレイナルドは、母に一緒に行ったはずの父のことを尋ねた。
「ハァ、ハァ、レイ! 全員村に集めなさい!」
「いったい何が……?」
余程急いできたのか、母は息切れしている。
しかし、すぐにレイナルドに向かって指示を出した。
ただ、理由を把握してないレイナルドは、反射的に問いかけずにはいられなかった。
「説明は後よ!! 急ぎなさい!!」
「わ、分かった!!」
母の慌てようから深刻な状態なのだと判断したレイナルドは、慌てて見張り台から村の方向へ走り出したのだった。
「えっ!? 噴火!?」
村の子供も大人も集まる中、美花はみんなに向かって魔物の異変の原因を説明した。
「そもそも、あの小山が火山だなんて……」
「だから魔物がいつもいないところに現れたのか……」
「どうしたら……」
誰が言ったのかは分からないが、みんな美花の話に慌てている。
確かに、魔物以外に注意するべき脅威が長いことなかったからか、こういった自然災害が起こるとは想像もしていなかったのだからあわてても仕方がない。
“パンッ! パンッ!”
「「「「「!?」」」」」
「みんな! 気持ちは分かるけど落ち着いて!」
戸惑うみんなを落ち着かせようと、美花は手を叩いて注目を集め、冷静に話す。
「気になっていると思うけど、ケイは無事よ。戻って来てないのはここの被害を少なくする細工をするって言って山に残っだけよ。時間がなくて何をするのか聞けなかったけど……」
ケイのことが気になっていた全員が、僅かに安堵の表情に変わる。
しかし、山に残ったと聞いて、またも表情が曇る。
「……ケイならたぶん大丈夫よ。無理をしないと言っていたから……」
みんなと同様に美花もケイのことが心配だ。
だが、今はそれどころではない。
「それよりも、みんなは噴火した時のことを考えましょう!」
「「「「「はい!」」」」」
ケイはたった1人からここまで発展させた程の人間だ。
きっと何かの考えがあるはずだ。
美花の言うように不安があるが、きっと大丈夫なはずだ。
根拠はないがみんな同じ思いに至ったのか、すぐに気持ちを切り替えたのだった。
0
お気に入りに追加
633
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたのは、『元』勇者です
ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。
それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。
強制無人島生活
デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。
修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、
救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。
更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。
だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに……
果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか?
注意
この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。
1話あたり300~1000文字くらいです。
ご了承のほどよろしくお願いします。
帝国の魔女
G.G
ファンタジー
冥界に漂っているあたしに向けられている、もの凄い敵意と憎悪に気づいた。冥界では意識も記憶もないはずなのに?どうやら、そいつはあたしと相打ちになった魔王らしい。そして冥界の外に引っ張られようとしている時、そいつはあたしに纏わり付こうとした。気持ち悪い!あたしは全力でそいつを拒否した。同時にあたしの前世、それも複数の記憶が蘇った。最も古い記憶、それは魔女アクシャナ。
そう、あたしは生まれ変わった。
最強の魔人、カーサイレ母様の娘として。あたしは母様の溺愛の元、すくすくと育つ。
でも、魔王の魔の手は密かに延びていた。
あたしは前世のアクシャナやその他の記憶、スキルを利用して立ち向かう。
アクシャナの強力な空間魔法、そして八百年前のホムンクルス。
帝国の秘密、そして流動する各国の思惑。
否応なく巻き込まれていく訳だけど、カーサイレ母様だけは絶対守るんだから!
みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!
沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました!
定番の転生しました、前世アラサー女子です。
前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。
・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで?
どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。
しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前?
ええーっ!
まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。
しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる!
家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。
えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動?
そんなの知らなーい!
みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす!
え?違う?
とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。
R15は保険です。
更新は不定期です。
「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。
2021/8/21 改めて投稿し直しました。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第六部完結】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
異世界の無人島で暮らすことになりました
兎屋亀吉
ファンタジー
ブラック企業に勤める普通のサラリーマン奥元慎吾28歳独身はある日神を名乗る少女から異世界へ来ないかと誘われる。チートとまではいかないまでもいくつかのスキルもくれると言うし、家族もなく今の暮らしに未練もなかった慎吾は快諾した。かくして、貯金を全額おろし多少の物資を買い込んだ慎吾は異世界へと転移した。あれ、無人島とか聞いてないんだけど。
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる