上 下
53 / 375
第3章

第53話

しおりを挟む
 ケイたちの家の隣に、家を建てることになった。
 ルイスとアレシアが結婚をすることになったからだ。

「いつの間に……」

「気付いていなかったの?」

 結婚の報告を聞いたケイは驚き、茫然としてしまったのだが、美花の方は大して慌てた様子がなかった。
 どうやら、2人の距離がだんだん近くなっていたことに気が付いていたようだ。
 こういったことは、やっぱり女性の方が敏感なのかもしれない。

「気付くわけないだろ……」

 美花と違い、ケイは2人の仲が進展しているなんて気にもしていなかった。

「生き残った人たちを引っ張っていかなければならなかったから……」

 20人近くの仲間の内、生き残ったのは僅かに5人。
 その中でも年長の2人は、他の3人の精神的支えにならなければならなかった。
 ルイスはその役割が特に強かった。
 獣人の中には、強い者が上に立ち、他の仲間を守ることが暗黙のルールのようになっている。
 この島で一番強いのはケイだが、慣れないうちはまだよく知らない者より、昔からの知り合いに言われた方が指示を受けても納得の仕方が違う。
 生き残ったのは男性だけではないので、女性のことはアレシアに任せるしかないが、その役割をしっかりこなした。
 そういった役割をこなすうえで、お互い連携を取る必要がある。
 次第と話す機会も増え、仲も少しずつ良くなっていったと美花は言っていた。

「苦労を共にしたことで距離が縮まったってことか……」

「そういうこと」

 美花から聞いた話から考えると、ケイは思い至ることがあった。
 自分と美花の状況も似たような感じだったからだ。
 色々な食材を確保し、今では遊ぶ余裕までできた。
 釣りは元々趣味だったので、当初から食材確保と同時に遊びでもあったが、今は釣らないといけないというでもなくなった。
 美花がきてからすぐ、不作の時期があった。
 飢えるまではいかなくても、ちょっと苦しい時期だったが、そんな時でも2人(キュウたちもいたが)でなんとか乗り越えてきた。
 そういったこともあって、ケイと美花の距離が近付いたと後になって思うようになった。
 自分たちと重なるからだろうか、美花はルイスたちの結婚が何だか嬉しそうだ。

「イバンたちの方は分かってたんだけどな……」

「あれは分かりやすいから……」

 イバンとリリアナの成人したての2人も仲が良い。
 同じ農家の家で近所に住んでいたからか、2人は仲が良い。
 どうやら幼馴染だという話だ。
 前世の自分なら羨ましくも憎たらしい関係だが、今のケイからすると微笑ましかった。
 村に住んでいた時のように、2人には畑の手入れを任せるようにしている。
 同じ仕事を一緒にしているからか、自然とくっついていったように感じる。

「ベタだな……」

「まぁ、確かに……」

 ケイの言うように年齢を考えれば、近い者同士でくっつくのは確かにベタだ。
 美花もそう思うのは分からなくもない。

「でも、良いんじゃない? バランス良くて」

「……そうかもな」

 世代が変われば、考え方も食い違うこともある。
 その食い違いが積み重なれば、関係を続けることもできなくなる。
 同じ世代ならそういった食い違いもきっと少ないはず。
 それに、ここの人口を増やすということなどのバランスを考えれば、美花の言う通りこの組み合わせが一番いいのかもしれない。

「レイナルドの奴にも相手ができたことだし」

「あれは……まぁ、あの子自身のせいね」

 レイナルドはセレナとの結婚が決まっている。
 というのも、ゆらゆら揺れているのを見ていて気になったのか、レイナルドがセレナの尻尾を握ってしまったのだ。
 案の定、獣人の尻尾は結婚相手以外の異性が触ってはいけない決まりになっている。
 そんなこととは知らずに、みんなで一緒に住むようになってからレイナルドはやらかした。
 セレナの尻尾を握ってしまい、その場でセレナにぶん殴られていた。
 あまりの右ストレートに、レイナルドが死んだかと思う程だった。

「レイを鍛えておいて良かったよ」

「そうね」

 この島でも、魔物にいつ遭遇するか分からない。
 もしもの時のことも考え、ケイと美花はレイナルドのことを小さい頃から鍛えていた。
 魔闘術も使えるようになっていたが、まだまだ多くの魔力を使いこなせないでいる。
 咄嗟の時に使えるようにしておけと言ってはいたけれど、ちゃんということを聞いていたようだ。
 セレナの拳を受ける寸前に魔力を纏い、直撃を食らっても死なずに済んだ。
 いきなりだったとはいえ、流石にやりすぎたと感じたのか、殴ったセレナはひたすらケイたちに謝っていた。

「殴られたのは俺なんだけど……?」

「この場合はしょうがない」

 口の中を切り、口から血をダラダラ流しながらレイモンドは呟くが、ケイの言う通り仕方がない。
 尻尾を握ってはいけないとは知らなかったと言えば、今回はうやむやにできたかもしれないが、流石にそれはセレナが可哀想だ。

「れい! あんたが責任取りなさい!」

「…………はい」

 美花の鶴の一声で、レイナルドは頷いた。
 父親として甘いケイの命令より、美花の方がレイナルドは恐ろしい。
 頷く以外の選択ができなかった言ってもいい。
 その事があって、美花という味方をつけたからか、レイナルドはセレナに尻に敷かれるようになっていった。
 同じ男性として、ケイはレイナルドに同情するが、奥さんの尻に敷かれている方が結構上手くいくものだと諭している。
 何故なら、ケイもどちらかと言えば美花の尻に敷かれている立場だからだ。

「これからきっと人が増えて行くんだろうな……」

「そうね……」

 まだまだ人数は少ないが、これだけいればこれからきっと人が増えていくだろう。
 そのうち村と呼べるようになるかもしれない。
 たった一人の孤独な生活から始まったここが、そうなっていくと思うとケイは感慨深いものがある。
 言葉などからそれを感じ取った美花も、同じように感じる。

「これからもがんばりますか!」

「うん!」

 少ないながらも、島によるみんなの祝福を受けるルイスたちを見て、なんとなく決意を新たにするケイと美花であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

帝国の魔女

G.G
ファンタジー
冥界に漂っているあたしに向けられている、もの凄い敵意と憎悪に気づいた。冥界では意識も記憶もないはずなのに?どうやら、そいつはあたしと相打ちになった魔王らしい。そして冥界の外に引っ張られようとしている時、そいつはあたしに纏わり付こうとした。気持ち悪い!あたしは全力でそいつを拒否した。同時にあたしの前世、それも複数の記憶が蘇った。最も古い記憶、それは魔女アクシャナ。 そう、あたしは生まれ変わった。 最強の魔人、カーサイレ母様の娘として。あたしは母様の溺愛の元、すくすくと育つ。 でも、魔王の魔の手は密かに延びていた。 あたしは前世のアクシャナやその他の記憶、スキルを利用して立ち向かう。 アクシャナの強力な空間魔法、そして八百年前のホムンクルス。 帝国の秘密、そして流動する各国の思惑。 否応なく巻き込まれていく訳だけど、カーサイレ母様だけは絶対守るんだから!

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第六部完結】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

異世界の無人島で暮らすことになりました

兎屋亀吉
ファンタジー
ブラック企業に勤める普通のサラリーマン奥元慎吾28歳独身はある日神を名乗る少女から異世界へ来ないかと誘われる。チートとまではいかないまでもいくつかのスキルもくれると言うし、家族もなく今の暮らしに未練もなかった慎吾は快諾した。かくして、貯金を全額おろし多少の物資を買い込んだ慎吾は異世界へと転移した。あれ、無人島とか聞いてないんだけど。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

処理中です...