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第3章
第44話
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「広い所となるとここになるんだけど……」
ルイスに手合わせを頼まれ、皆で海岸に歩いてきた。
広い場所といったら、ここが一番最初に思いついた。
「足場が悪いんだけどいいか?」
「問題ありません」
ケイに言われたが、ルイスは首を横に振った。
足場の砂では、確かに余計な体力を使うことになる。
しかし、成人した獣人の脚力ならたいしたことはない。
「ルイスって強いの?」
「え~と……、まあまあですかね……」
ケイとルイスが軽く体をほぐしている間に、美花はアレシアにルイスの実力のほどを尋ねた。
以前の村で近所に住んでいたアレシアなら分かると思って聞いたのだが、曖昧な答えが返ってきた。
まぁ、近所に住んでいたからって、全ての人間のことを知っているわけではないのだから仕方ない。
それに、話を聞いたら、アレシアの家は村でパン屋をしていたそうだ。
ルイスの父親は常連だったが、ルイスはそれほど買いに来ることはなかったらしい。
「彼のお父さんのレミヒオさんは村でもかなり強い方でした。レミヒオさんと比べたらまだまだだと思いますよ」
「ふ~ん」
漂流し、ルイスの父のレミヒオは海の魔物と戦って亡くなったと聞いている。
自分を犠牲にしてまで船に乗る仲間を救おうとしたらしく、彼の遺体は特に損傷が激しかった。
その姿が思い出されたのか、アレシアは少し表情が暗くなっていった。
「あっ! でもレミヒオさんが言うには、訓練さえサボらなければ自分より強くなるんじゃないかって言ってましたね」
「そう……」
アレシアたちのいた村の、近くの森にいる魔物を狩りに行くのは大体実力上位の人間の仕事だったらしい。
時には強力な魔物も出ることがあったらしく、かなり危険な場合があるのだから、若者を連れて行く頻度が低くなるのは仕方がない。
しかし、ルイスからしたら稽古ばかりでなく、魔物を相手に実践を行いたい気持ちが強かったのだろう。
実力上位の者が魔物を倒して強くなる(レベルアップする)中、村内で自分は訓練をするばかり。
モチベーションが上がらないのも当然だろう。
才能があるだけになおさらだ。
美花も、父になかなか魔物退治をさせてもらえないことを不満に思っていた時期があるのだけに、その気持ちは分からなくはない。
「美花、合図頼む」
「うん!」
話し合いの結果、ケイの武器はいつもの銃と腰に木でできた短刀で、ルイスは腰に差している2本の木の短剣を使うこと。
ケイの方は銃は威力を抑える。
気絶や降参をさせたら勝ち。
当然殺しは駄目というルールになった。
殺し合いなら合図はいらないが、これは手合わせ。
審判という訳ではないが、開始の合図は美花にしてもらうことになった。
「…………始め!」
“ドンッ!!”
『早いっ!?』
美花の合図と共に動き出したのはルイスの方。
足の筋肉が膨れたような気がした瞬間、爆発したように砂が舞い上がった。
ケイが予想していた以上の速度で右に回り込んできた。
左手には走りながら抜いたらしい短剣で、首を狙って来ていた。
“ガンッ!”
「くっ!?」
「ムッ!?」
首へと振り下ろされた短剣を、ケイも抜いた短刀で防ぐ。
木と木がぶつかった音にしては随分でかい音が鳴る。
短剣と短刀がぶつかって、ルイスはそのまま鍔迫り合いに持ち込んできた。
獣人の筋力は足だけではない。
腕に込められた力も相当なものだ。
ほぼ互角といった状態で、両者ともそのまま動かない。
しかし、ルイスと違いケイは利き手、パワー的にはルイスが上かもしれない。
“バッ!!”
お互い押し合い、鍔迫り合いの状態から後方へ距離を取る。
「そのような細い体で俺の力と拮抗するとはやはりすごいですな」
「持ってる力を使ってるだけで、生身なら完全に吹っ飛ばされてるよ」
開始当初からルイスと違い、ケイは魔闘術を発動している。
その状態のケイと、生身の状態で同等なルイスの方がとんでもない。
強がって言うが、ケイが生身で受けたら吹っ飛ばされるというより、即骨折して負けだろう。
「……小手調べはここまでです」
どんな力でも、それを使えるのならその者の力。
互角なのに変わりはない。
ケイはルイスが思っていた通りかなりの実力者だった。
なので、ルイスは全力をぶつけてみることにした。
“バッ!!”
「おわっ!?」
ルイスは今度は直線的に向かって来た。
口に出したように、先程よりも早かった。
しかも、短剣は2本とも抜いており、左右の攻撃が暴風のようにケイに襲い掛かる。
その攻撃を躱したり、短刀で防いだりと、ケイは防戦一方になる。
『少しずつはやくなってる?』
攻撃を躱し続けるが、どんどんギリギリになっていく。
そのことから、ルイスの速度が上がっていっているのが分かる。
“ガンッ!!”
「ぐっ!?」
全力のルイスの力はやはりすごい。
利き手の短剣を短刀で防いだケイは、軽く体を浮かされた。
その力を利用して距離を取るが、ケイの右手はビリビリと軽く痺れた。
『すごい! 全然当たらない!』
全力でやっても、ルイスの攻撃は一度もケイの体にヒットしない。
普通それを悔しがるものだが、ルイスは逆だった。
当たらないのが何故か嬉しく感じていた。
『親父くらい……いや、まだ本気じゃない感じだ……』
村にいたころ、ルイスは父を目標にしていた。
その目標がいなくなってしまってすぐ、ケイという強い男に会えた。
戦う前からルイスはケイには負ける気がなんとなくしていた。
ルイスだけでなく、アレシアたちも思っていたのかもしれない。
獣人特有の、強い者を嗅ぎ分ける嗅覚がそう判断している。
何であれ、負けると分かっていても、全力を尽くす。
ルイスは全身に力を込めてケイに斬りかかった。
「ガーッ!!」
両手の短剣で、上下から同時ともいえる速度で斬りかかる。
父から教わった斬牙と呼ばれるルイス唯一の必殺技だ。
“フッ!!”
「ッ!?」
ルイスの攻撃が当たると思った瞬間、ケイは今までとは比べ物にならないほどの速度で移動した。
まるで消え失せたようにいなくなり、ルイスはケイを見失った。
“スッ!”
「……参りました」
次の瞬間、ルイスの後頭部にはケイの銃が付きつけられていた。
感触から分かったのか、ルイスはそのまま負けを認めた。
「それまで!」
美花の声が上がり、立ち合いはケイの勝利で幕を閉じたのだった。
ルイスに手合わせを頼まれ、皆で海岸に歩いてきた。
広い場所といったら、ここが一番最初に思いついた。
「足場が悪いんだけどいいか?」
「問題ありません」
ケイに言われたが、ルイスは首を横に振った。
足場の砂では、確かに余計な体力を使うことになる。
しかし、成人した獣人の脚力ならたいしたことはない。
「ルイスって強いの?」
「え~と……、まあまあですかね……」
ケイとルイスが軽く体をほぐしている間に、美花はアレシアにルイスの実力のほどを尋ねた。
以前の村で近所に住んでいたアレシアなら分かると思って聞いたのだが、曖昧な答えが返ってきた。
まぁ、近所に住んでいたからって、全ての人間のことを知っているわけではないのだから仕方ない。
それに、話を聞いたら、アレシアの家は村でパン屋をしていたそうだ。
ルイスの父親は常連だったが、ルイスはそれほど買いに来ることはなかったらしい。
「彼のお父さんのレミヒオさんは村でもかなり強い方でした。レミヒオさんと比べたらまだまだだと思いますよ」
「ふ~ん」
漂流し、ルイスの父のレミヒオは海の魔物と戦って亡くなったと聞いている。
自分を犠牲にしてまで船に乗る仲間を救おうとしたらしく、彼の遺体は特に損傷が激しかった。
その姿が思い出されたのか、アレシアは少し表情が暗くなっていった。
「あっ! でもレミヒオさんが言うには、訓練さえサボらなければ自分より強くなるんじゃないかって言ってましたね」
「そう……」
アレシアたちのいた村の、近くの森にいる魔物を狩りに行くのは大体実力上位の人間の仕事だったらしい。
時には強力な魔物も出ることがあったらしく、かなり危険な場合があるのだから、若者を連れて行く頻度が低くなるのは仕方がない。
しかし、ルイスからしたら稽古ばかりでなく、魔物を相手に実践を行いたい気持ちが強かったのだろう。
実力上位の者が魔物を倒して強くなる(レベルアップする)中、村内で自分は訓練をするばかり。
モチベーションが上がらないのも当然だろう。
才能があるだけになおさらだ。
美花も、父になかなか魔物退治をさせてもらえないことを不満に思っていた時期があるのだけに、その気持ちは分からなくはない。
「美花、合図頼む」
「うん!」
話し合いの結果、ケイの武器はいつもの銃と腰に木でできた短刀で、ルイスは腰に差している2本の木の短剣を使うこと。
ケイの方は銃は威力を抑える。
気絶や降参をさせたら勝ち。
当然殺しは駄目というルールになった。
殺し合いなら合図はいらないが、これは手合わせ。
審判という訳ではないが、開始の合図は美花にしてもらうことになった。
「…………始め!」
“ドンッ!!”
『早いっ!?』
美花の合図と共に動き出したのはルイスの方。
足の筋肉が膨れたような気がした瞬間、爆発したように砂が舞い上がった。
ケイが予想していた以上の速度で右に回り込んできた。
左手には走りながら抜いたらしい短剣で、首を狙って来ていた。
“ガンッ!”
「くっ!?」
「ムッ!?」
首へと振り下ろされた短剣を、ケイも抜いた短刀で防ぐ。
木と木がぶつかった音にしては随分でかい音が鳴る。
短剣と短刀がぶつかって、ルイスはそのまま鍔迫り合いに持ち込んできた。
獣人の筋力は足だけではない。
腕に込められた力も相当なものだ。
ほぼ互角といった状態で、両者ともそのまま動かない。
しかし、ルイスと違いケイは利き手、パワー的にはルイスが上かもしれない。
“バッ!!”
お互い押し合い、鍔迫り合いの状態から後方へ距離を取る。
「そのような細い体で俺の力と拮抗するとはやはりすごいですな」
「持ってる力を使ってるだけで、生身なら完全に吹っ飛ばされてるよ」
開始当初からルイスと違い、ケイは魔闘術を発動している。
その状態のケイと、生身の状態で同等なルイスの方がとんでもない。
強がって言うが、ケイが生身で受けたら吹っ飛ばされるというより、即骨折して負けだろう。
「……小手調べはここまでです」
どんな力でも、それを使えるのならその者の力。
互角なのに変わりはない。
ケイはルイスが思っていた通りかなりの実力者だった。
なので、ルイスは全力をぶつけてみることにした。
“バッ!!”
「おわっ!?」
ルイスは今度は直線的に向かって来た。
口に出したように、先程よりも早かった。
しかも、短剣は2本とも抜いており、左右の攻撃が暴風のようにケイに襲い掛かる。
その攻撃を躱したり、短刀で防いだりと、ケイは防戦一方になる。
『少しずつはやくなってる?』
攻撃を躱し続けるが、どんどんギリギリになっていく。
そのことから、ルイスの速度が上がっていっているのが分かる。
“ガンッ!!”
「ぐっ!?」
全力のルイスの力はやはりすごい。
利き手の短剣を短刀で防いだケイは、軽く体を浮かされた。
その力を利用して距離を取るが、ケイの右手はビリビリと軽く痺れた。
『すごい! 全然当たらない!』
全力でやっても、ルイスの攻撃は一度もケイの体にヒットしない。
普通それを悔しがるものだが、ルイスは逆だった。
当たらないのが何故か嬉しく感じていた。
『親父くらい……いや、まだ本気じゃない感じだ……』
村にいたころ、ルイスは父を目標にしていた。
その目標がいなくなってしまってすぐ、ケイという強い男に会えた。
戦う前からルイスはケイには負ける気がなんとなくしていた。
ルイスだけでなく、アレシアたちも思っていたのかもしれない。
獣人特有の、強い者を嗅ぎ分ける嗅覚がそう判断している。
何であれ、負けると分かっていても、全力を尽くす。
ルイスは全身に力を込めてケイに斬りかかった。
「ガーッ!!」
両手の短剣で、上下から同時ともいえる速度で斬りかかる。
父から教わった斬牙と呼ばれるルイス唯一の必殺技だ。
“フッ!!”
「ッ!?」
ルイスの攻撃が当たると思った瞬間、ケイは今までとは比べ物にならないほどの速度で移動した。
まるで消え失せたようにいなくなり、ルイスはケイを見失った。
“スッ!”
「……参りました」
次の瞬間、ルイスの後頭部にはケイの銃が付きつけられていた。
感触から分かったのか、ルイスはそのまま負けを認めた。
「それまで!」
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