上 下
43 / 375
第3章

第43話

しおりを挟む
 獣人たちが流れ着いてから1週間が経った。
 彼らもこの島の生活に慣れ始めている。
 美花は女性1人だったのが解消され、アレシアとリリアナを相手によくおしゃべりをしている姿を見るようになった。
 1番年下のセレナは、年の近いレイナルドが相手をするようにケイは言っておいた。
 2人でよくカルロスの遊び相手をしているのを目にする。
 獣人のまとめ役になっているルイスと高校生くらいのイバンは、ケイの食料調達の同行をしたり、2人で時折組み手をしている。 

「ケイ殿!」

「んっ? どうしたの? みんな揃って……」

 魚の日干しをしていたケイに、ルイスを先頭にし、4人が後ろに並んだ状態で話しかけてきた。
 真剣な表情をしている所を見る限り、これからのことについて話があるのだろう。

「申し訳ないが、俺と手合わせ願いたい!」

「何でか聞いてもいいか?」

 軽く頭を下げつつ言ってきたルイスに、ケイは首を傾げた。
 てっきり、これからのことを相談してくるのかと思っていたからだ。
 別に手合わせくらい頼まれればするのだが、何か空気的に重い感じがするのもよく分からない。

「我々はこの1週間話し合いました。危険だが船を造って元の大陸に戻るか、それともここに残るか……」

 詳しく聞くと、1週間だが彼らはここでの生活が気に入ったらしい。
 理由としては、家族の墓が近くにあること、ケイが美花と共に少しずつ種類を増やしたてきた畑の作物は豊富。
 何といっても、一番の理由は安全だというところらしい。
 魔物は当然いるが、小さな海峡が遮断していて村の時のようなスタンピードに怯える必要はない。
 しかも、魔物の種類によっては、定期的に間引けば自分たちの食料にできると言うメリットまである。
 暮らすのには十分に思える。
 しかし、可能性は低いが、元の大陸には仲間の生き残りもいるかもしれない。
 もしかしたら、自分たちの帰りを待っているかもしれない。
 無事を伝えに戻るという選択肢もあるが、また海の魔物に転覆させられないとも限らない。

「ここにおいてもらうにしても、決めておきたいことがあります」

「……何を?」

 ケイとしたら、ここにいたいなら別に構わない。
 というより、今後のことを考えるなら、むしろいてもらいたいくらいだ。

「獣人は強い物に従うのが基本。これまではただ世話になっていただけですが、ここにい続けるのであればケイ殿に従うのが当然。なので、俺が勝ったらみんなで出て行きます。負けた場合はケイ殿たちの下、ここで働かせてもらいたいと思います」

「そう言えばそんなことを聞いたような……」

 獣人族の大陸にもいくつかの国があるらしく、獣の特性が残っているのか、強い者が上に立つのが当然と言う風潮にあるらしい。
 とは言っても、最強イコール最良の王という訳ではないことは歴史上学んでいる。
 戦闘力のみで王に選ばれるわけではないが、強さも重要としているのは事実。
 それは小さな町や村の長でも同じ。
 ルイスたちもその考えがあるようだ。

「……勝ったらルイスが上に立てば良いじゃないか?」

「ここはケイ殿たちが切り開いたところ。命の恩人から地位を奪ってまで上に立つつもりはありません」

 まぁ、確かにここの島はケイと美花(一応キュウとマルも)が自分たちで作り上げたものだ。
 全て寄越せと言われれば腹が立つが、皆で暮らしていくのであれば別に気にすることではない。
 別に人の上に立ちたいとも思っていないので、ルイスが中心になっても構わないが、ルイス自身はそうでもないらしい。

「折角仲良くなったんだし、出て行かれるのは寂しいけど、俺は構わないよ」

「……ありがとうございます」

 命を救われたのだから、当然ルイスはケイに感謝している。
 しかも、5人の家族だけでなく仲間の遺体を丁重に弔ってくれた。
 人族と獣人には交易がない。
 いや、もしかしたら交易をしている所もあるかもしれないが、ルイスたちの村では完全に関わり合いがない。
 話によれば、獣人とは少し姿が違い、身体能力も低い種族だと聞いていた。
 その代わり魔力を使った戦いが得意だと言う。
 この島に流れ着いて、目を覚ました時はどんな風に接していいのか分からなかったが、見た目がひょろっとしているにもかかわらず、魔物の探知や仕留める速さはかなりのものだ。
 獣人の自分たちと同じくらいの戦闘力を持っているのではないかと思われた。
 いや、ケイからは底が窺い知れない。
 少しの間一緒に過ごしてみて、気の良い連中だということは理解できる。
 種族が違うだけで、自分たちと何の変わりもない人間ようだ。
 だから知りたいという気持ちが募る。
 優しく強いのは分かるが、どれほど強いのか。
 獣人の血がそうさせているのだろうか、強い者に挑んでみたいという気持ちが湧いてくる。
 本当の所、生き残った獣人は皆多くの割合でここにいたいのではないだろうか。
 村の生き残りは、はっきり言って絶望的。
 諦めている部分の方が強いかもしれない。
 だから、ルイスがケイにこの条件を付けたことに異を唱えなかった。
 ルイスと同じように、ケイの実力が見たかったからだ。
 結果がどうなるか分からないが、どっちに転んでも全員が納得できる結果が得られる。
 そう思いつつ、島の皆で手合わせする場所に適している海岸に向かって歩き出した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...