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第3章

第38話

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「……………………」

 西の島の腕鶏が姿を見せる地域。
 樹の陰に座り、1人の少年が銃を構えている。
 髪と目は黒く、年齢は5歳くらい。
 そのすぐ後には、若い青年がその様子を見守っている。

『今だ!』

“パンッ!!”

 少年が発射した弾は離れた所を歩く腕鶏に当たり、1撃で仕留めることに成功した。 

「やった!」

「あっ! おいっ!」

 腕鶏を仕留めた少年は、喜び勇んで横たわる腕鶏に向かって走り出した。
 青年が止めるような言葉を発するが、少年の耳には届かず、少年はそのまま走っていってしまった。

パパ・・! 鳥つかまえたよ!」

 よっぽど嬉しかったのか、少年は仕留めた鶏の首を持ち上げると、ブンブンと振り回し始めた。
 弾が頭に当たり、血がダラダラ流れる鶏を少年が嬉しそうに振り回す姿はちょっとシュールだ。
 少年の呼び方からして、青年はどうやら少年の父親らしい。

「よくやったぞ! レイ」

 まだ色々注意したいことがあるが、息子の天使のようにめちゃくちゃいい笑顔を見せられると、そんなことは忘れて優しく頭を撫でてしまうしかない。

「ちょっと! 何褒めてるのよ!」

「げっ!」

「あっ! ママ・・!」

 注意をするべきことをせず、顔を緩めて息子の頭を撫でる姿を見た女性が、2人の側に現れた。
 レイと呼ばれた少年の母親のようだ。
 言葉通り、お怒りのようだ。

「レイ!」

「……はい」

 母の言葉と態度に、どうやら何か良くないことをしたと思ったのか、少年は困惑の表情に変わった。

「仕留めた所までは良かったけれど、周囲に魔物がいないかちゃんと確認してから取りにいかないとだめじゃない!」

「……ごめんなさい」

 母に言われて、少年はさっきまでの笑顔が嘘のようにシュンとしてしまった。
 両親に狩りに行く前の注意点として、耳にタコができるくらい言われたことだ。
 生まれて初めて腕鶏を仕留められたことが嬉しすぎて、その注意のことを忘れてしまっていた。
 そういえば、走り出した自分を父も止めようとしていたことを少年は思いだした。
 もしかしたら、父もこれが言いたかったのだろうか。

「まぁまぁ、俺が代わりに見ておいたから……」

 落ち込んでしまった息子がかわいそうに思え、父親は妻をなだめようとした。
 初めてのことに浮かれて、飛び出して行ってしまったのは5歳なら仕方がない。
 それをフォローするためにも自分がついてきているのだから。

「そういうことじゃないの!」

「……すいません」

 妻の方からしたら、子供が良くないことをしたのだから、それを叱るのは父親の仕事だろうという思いがある。
 しかし、彼は子供に甘く、もっぱら叱る役は自分になってしまっている。
 それに、もしも1人で同じようなことをしてしまったら、あっという間に命を落としかねない。
 この島にはそれほど強い魔物は存在しないが、それでも少年にはまだまだ危険な場所だ。
 なだめようとしてくる旦那の態度にもイラッと来て、思わず口調が強くなってしまった。
 それに対し、父親の方まで落ち込んでしまった。

「折角レイが仕留めたんだし、今日は鶏肉料理にでもしようか?」

「……そうね」

 注意を受けて落ち込んでしまった息子がいたたまれなくなり、空気をかえようと父親の方は話題を変える。
 母親の方もこれ以上いうと、父子に口やかましい人間に思われてしまいそうなので、その話に乗った。

「レイ帰ろ」

「うん」

 優しく微笑んで差し出した母の手を握り、家に向かって親子3人歩き出した。



 お気づきだろうが、少年の父親はケイで母親は美花だ。
 少年の名前はレイナルドという。
 美花が島に流れ着いて8年が過ぎた。
 たった2人で無人島生活をしていれば、健康な男女の仲が次第に近付いていくのは仕方がない。
 元々お互い馬が合っていたのだから、むしろ当然といったところだろう。
 子供が出来にくいと言われているエルフだが、結構あっさりと子供ができた。
 そして生まれたのが息子のレイナルドである。
 エルフと人族のハーフになるレイナルドだが、顔はどちらかというと父に、髪と目の色は母の美花に似たようだ。
 エルフ特有の長い耳は、人族である美花の普通の長さの耳と合わせて2で割ったくらい。
 見事に半分ハーフといった長さだ。
 顔が自分に似ているせいか、ケイはどうしてもレイナルドがすることに甘くなってしまっている。

「ただいま!」

「「っ!?」」

“ピョン! ピョン!”“ピョン! ピョン!”

 ケイの声に反応した黒い2匹の毛玉が、飛び跳ねながら親子に近付いてきた。

「おぉ、ちゃんと畑を見張ってくれていたか?」

“コクッ!”“コクッ!”

 右手に大きい方、左手に小さい方の毛玉が乗り、嬉しそうに頷いた。

「今日の夕飯はレイが仕留めた鶏肉料理だぞ」

「「っ!?」」

“ピョン!”“ピョン!”

 ケイの言葉を聞いた2匹の毛玉はケイの手から飛び降り、そのままレイナルドの肩に乗った。

「ふふっ! くすぐったいよ。キュウ、マル」

 肩に乗った2匹は、そのままレイナルドの頬にその身をすり寄せた。
 両頬に絹のような感触がこすれ、くすぐったい感覚にレイナルドの落ち込んでいた姿は消え失せた。
 キュウたちは、ただ食べ物を取ってくれたレイナルドを褒めただけだったが、良い方に転んだようだ。

「良かったね」

「うん」

 落ち込んだレイナルドは、結構引きずるタイプなのが美花の悩みどころだ。
 美花も叱ってしまったことを引きずる所がある。
 そんなところは美花に似たのかもしれない。
 キュウたちによって笑顔になったレイナルドを見て、美花も優しい表情になった。

 この日の夕食はレイナルドの仕留めた鳥を使った色々な料理が食卓に並び、みんな笑顔で堪能したのだった。

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