上 下
33 / 375
第2章

第33話

しおりを挟む
「外とあまり変わらないのね」

 昨日の約束通り、ケイと美花は島唯一のダンジョンへ向かった。
 入ってしばらく経ち、ここまでに出現した魔物の感想を、美花は率直に述べた。

「魔物とか俺が捨ててるからかな?」

 このダンジョンには、ケイが魔物や魚の内臓や骨をゴミ捨て場のようにしていた。
 それを多く吸収していたからか、外と大差ない魔物ばかりが出現しているのかもしれない。
 ケイは美花の感想に返すように答えた。



「もう5層になるけど準備はいい?」

「えぇ!」

 外と変わり映えのない魔物ばかりだからか、すんなりと5層のボス部屋の前にたどり着いた。
 昨日も言ったが、ここのボス部屋は毎回変化するタイプで、入ると扉が閉まって倒すまで脱出出来なくなる。
 倒せば1日たたないと再出現することはなく、通行自由の状態になる。
 強さに当たりハズレがあるので、注意が必要になる。
 ボス部屋の前でケイが確認すると、美花は元気に返事をした。

「……今回は蛇か」

「でかいわね」

 中に入って2人が出した感想はこれだった。
 外で時折見つける蛇の魔物がボスとして出現した。
 しかし、いつもみる容姿ではあるが、大きさが全然違った。
 いつものが最大でも全長3~4mほどだというのにもかかわらず、このボスは12mはあるのではないかという程にでかい。
 長さもそうだが、肉も厚い。
 いつもは簡単に倒している魔物でも、でかいだけで圧迫感を覚える。

「危なっ!?」

「大きさが違うだけで、いつも通り噛みきと尻尾に気を付けて!」

「なるほど、了解!」

 この手のボス戦は、ケイは経験済み。
 蛇が独特の動きで2人に迫ると、美花に噛みつき、ケイに尻尾を振って攻撃してきた。
 それをケイは危なげなく、美花はちょっと慌てたように躱した。
 大きさが違うだけなら注意点はそれ程変わらない。
 ケイが注意点を言うと、美花は納得した。

 それから噛みつきと尻尾の攻撃を躱していると、ケイが言ったように攻撃パターンが変わらない。
 そうなればでかいだけで、別に脅威ではなくなった。

「ハッ!!」

“ザシュッ!!”

 パターンが読めた美花は、噛みつき攻撃を躱すと共に蛇の脳天に剣を突き刺した。
 その一突きが脳に直撃したのか、巨大蛇はそのまま地面に崩れ落ちて動かなくなった。

「フゥ~……」

 攻撃パターンが分かっていたとしても、その一撃はかなりの威力。
 食らえば一発で瀕死になりかねないと考えると、思ったより体力を披露した。
 ダンジョン初心者の美花は、息を吐くと共に額に掻いていた汗を拭った。

「一息ついたら次へ行こうか?」

「うん」

 ボスの蛇が倒され、次の階層に行く扉が開いた。
 少し疲労した美花のことも考え、ケイはここで軽く休憩をしてから進むことにした。



「今日は10層をクリアしたら帰ろうか?」

「そうね」

 休憩を終え、次の層を探索している途中で、これまで使った時間からケイは美花に拠点に帰る予定を提案した。
 危険だからと置いてきたキュウとマルのことが気になる。
 元々日帰りの予定で来たので、美花も異論はなかった。

「地図はあまり変わっていないみたいね?」

「そうだね」

 ケイはこの島に流れ着いてから数年、島の植物を使って紙が作れないか錬金術で試しまくった。
 その結果、質は悪いが紙と呼べるものは作れるようになった。
 ダンジョンを発見して中を探索するうえで、内部の地図があった方が良い。
 そのため、毎年記録するようにしている。
 美花にも同じ地図を渡し、去年と変化がないか1層から全部調べながら進んできた。
 最短距離ではないので時間がかかるが、危険な目に遭わないためには必要だろう。
 結局、少しだけ変化があったが、去年と大きな差はなかった。

 そして2人は順調に進み、10層のボスに挑むことになった。

「カウチョ(ダンゴムシ)!?」

 中に入って目に入ったボスを見て、美花は驚いた。
 島までは見ないような魔物が出現したからだ。

「俺も見たことないタイプの魔物だ」

 この魔物は、ケイも見たことがなかった。
 だが、島には普通の虫も存在しており、ダンゴムシも存在している。
 偶々入ったダンゴムシを吸収したのだろう。
 大きさは3~4m程の大きさなのは全然違うが……。

“ギュルギュル!!”

「っ!? 横に避けて!!」

「わっ!?」

 ダンゴムシが丸まったと思ったら、高速で回転を始め、一気に2人に向かって転がって来た。
 その攻撃にいち早く気付いたケイは、咄嗟に美花へ指示を出した。
 その指示にすぐ反応した美花は、なんとか躱すことに成功した。

「何あれ!? まともに当たったら潰されちゃう」

 回転による攻撃を躱されたダンゴムシは、そのまま壁へとぶつかった。
 しかし、その速度と重量によって生み出された破壊力はかなりのもので、壁が大規模に凹んだ。
 その威力に、美花は顔を青くした。

「……大丈夫! あの速度で急激に方向転換はできない」

 慌てる美花とは反対に、ケイはすぐにさっきの攻撃の弱点を発見した。
 威力はすごいが、ぶつからなければなんてことはない。

「剣じゃ駄目だ。美花は今回は避けることに集中して!」

「分かった!」

 自分でも分かっていたのか、美花はケイの言いたいことをすぐに理解した。
 回転しているあの相手に攻撃しても、剣が弾かれるだけだ。
 美花は指示通り躱すことに専念した。

「ここだ」

“パンッ!!”

「ギギッ……!?」

 回転しているから正面からの攻撃は通用しない。
 なので、横から銃による攻撃を放つと、ダンゴムシの体に穴を開けた。
 ダンゴムシも痛みでケイを睨みつける。

“パンッ!!”“パンッ!!”

 効くのならそのまま繰り返すだけでいい。
 何発も受けたダンゴムシは、体を穴だらけにして崩れ落ちた。

「やっぱり遠距離攻撃も必要ね……」

 今回は役に立たなかったからか、美花は攻撃の引き出しを増やすことを思案しだした。

「じゃあ、帰ろうか?」

「うん」

 予定通り2人はキュウとマルの待つ拠点に戻っていった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

処理中です...