上 下
28 / 375
第2章

第28話

しおりを挟む
「えっ? エルフを知らないの?」

「うん。エルフという種族がいるなんて聞いたことないわ」





 雲一つない快晴。
 もうすぐ夏に入る11月後半。
 陽気な気候にのんびりしたくなったケイは、今日は釣りをしようと思った。
 美花も一緒にどうだと誘うと、二つ返事で楽しそうについてきた。

「子供の頃、家族3人で釣りに行ったな~……」

 テキパキと餌をつけて糸を投げる仕草で経験者だと分かる。
 久々の釣りに懐かしく思ったのか、美花はしみじみ呟いた。
 ケイとしては、餌をつけるのにワーワーいうようなら面倒だと思ったのだが、その心配がなくて助かった。
 楽しんでもらえて嬉しいのだが、家族のことをいう時に表情が暗くなるのは少し困る。
 何があったのか聞いてもいいものか判断に困るからだ。

「あっ!? 釣れた!!」

 その表情も、少し経って魚が釣れれば霧散した。
 釣れた魚を見せてきた美花の表情は、とてもいい笑顔だった。



 美花がちょこちょこ釣り上げる中、ボウズのケイはサマーチェアに腰かけてキュウとマルを相手に暇つぶしをしていた。
 ケイの方が予備の竿だからといっても、この差はちょっとへこみそうだ。
 そんなケイをじっと見ていた美花は、

「ケイの耳は長いのね?」

 と言ってきた。
 そして冒頭のようなやり取りになった。
 どうやら美花は本当にエルフを聞いたことがないようだ。
 エルフは元々人族大陸の西の端に住んでいた少数種族、両親とも極東の国の日向出身だから仕方がないかもしれない。

「色々あって人族大陸では生きにくくなってね……」

 知らないなら、貴族に献上したら大儲けなどとか教える必要はないだろう。
 せっかく話ができる人間ができたのだから、多くを語ってギクシャクした関係になるのは控えたい。
 ケイは言葉少なにこの話をきりあげた。

「じゃあ、私と同じようなものね……」

 美花もいつまでも追いかけてくる祖父の追っ手から逃げてきた身。
 ケイも自分と同じように何かを隠しているのなら少し気が楽になる。
 似た者同士なのだということが知れて、美花はなんとなく嬉しい気持ちも沸いていた。

「それにしてもいい天気ね……」

 釣りたての魚をおかずに海を眺めながら昼食をとると、美花の竿の方も当たりが来なくなった。
 少し暇な感じがして不安だったが、どうやら美花もこんな時間を楽しんでいるようだ。
 暇を楽しんでいると心に余裕が生ませる。
 辛いことを忘れるとまではいかなくても、一時考えなくてすむだけでも今の美花にはいいのではないだろうか。



「昨日ケイが使ってた筒のような武器はなんなの?」

「あぁ……、これ?」

 暇な時間が続き、眠くなってきた。
 その眠気を飛ばそうと、美花は昨日見て気になっていたケイの武器のことを尋ねた。
 ケイも釣れずにいたので丁度良かった。

「これは銃っていう武器で、ここを引くと弾が出るんだ」

“パンッ!”

 そう言って、ケイは一発海に向かって発射した。
 魔力は纏っていないため、飛び出た弾は大した距離飛ばずに落ちた。

「魔力を纏わないとこんなもんだけど、魔力を纏うと……」

“パンッ!!”

 軽く銃に魔力を纏い先程と同じように引き金を引くと、先程とは比べ物にならないほどの威力で弾が沖へと飛んで行った。

「流木とかで小さい弾を作ってそれを入れてあるんだけど、それを魔力を覆った銃で発射ってわけ」

「なるほど……」

 原理は分からないが、昨日の腕前を見る限りケイは遠距離の攻撃が得意なのだろう。
 ケイの長所を生かすには最適な武器かもしれない。

「でも、それが通用しなかったら?」

「発射された弾にも魔力が纏ってあるから、撃った後でもコントロールはできるし、相手の弱点に合わせて弾の魔力を属性付与・変化できる。この島ではその可能性はないけれど、外の世界ではありえるかもね」

 この10年で魔力の総量や操作もかなり上がったと自負している。
 それでも世界は上には上がいる。
 その謙虚さを失った人間は傲慢になりがちだ。
 色々な状況を想定しておかないと、命が軽く扱われるこの世界では淘汰される。
 エルフ族がいい例だ。
 とは言っても、ケイも四六時中そんなこと考えている訳ではないが。

「別にこの銃は遠距離で戦うだけの物ではないよ。ちゃんとこれを使った近接戦も想定している」

“ボッ!”

「こうやって全身に魔力を纏って戦えば大丈夫」

 銃に魔力を纏えば威力が増す。
 ならば、自分に魔力を纏ったらどうなるかとケイは考えた。
 銃や手に集められるのなら他の場所にもできるはずだ。
 そう思ってやってみたらかなり難しく、使いこなせるようになるまで数年かかった。

「魔、魔闘術……」

 全身に魔力を纏ったケイを見て、美花は目を見開いた。
 日向の剣士にとって秘中の技ともいえる技術を、ケイは15歳だと言っていたが、その若さで使いこなせるようになるなんて信じられなかった。
 相当な鍛練をおこなったことが容易に予想できる。

「へ~……、これ魔闘術って言うんだ?」

 どうやらケイはこの技の名前すら知らなかったようだ。
 父の憲正は使いこなせたが、美花はまだ無理だ。

『もしかしたら、ここに流れ着いたのは本当に天からの導きなのかもしれない』 

 ケイに教われば、自分も父のように魔闘術を使えるようになるかもしれない。
 そう思うと、美花は心の中で神に感謝した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

帝国の魔女

G.G
ファンタジー
冥界に漂っているあたしに向けられている、もの凄い敵意と憎悪に気づいた。冥界では意識も記憶もないはずなのに?どうやら、そいつはあたしと相打ちになった魔王らしい。そして冥界の外に引っ張られようとしている時、そいつはあたしに纏わり付こうとした。気持ち悪い!あたしは全力でそいつを拒否した。同時にあたしの前世、それも複数の記憶が蘇った。最も古い記憶、それは魔女アクシャナ。 そう、あたしは生まれ変わった。 最強の魔人、カーサイレ母様の娘として。あたしは母様の溺愛の元、すくすくと育つ。 でも、魔王の魔の手は密かに延びていた。 あたしは前世のアクシャナやその他の記憶、スキルを利用して立ち向かう。 アクシャナの強力な空間魔法、そして八百年前のホムンクルス。 帝国の秘密、そして流動する各国の思惑。 否応なく巻き込まれていく訳だけど、カーサイレ母様だけは絶対守るんだから!

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第六部完結】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

異世界の無人島で暮らすことになりました

兎屋亀吉
ファンタジー
ブラック企業に勤める普通のサラリーマン奥元慎吾28歳独身はある日神を名乗る少女から異世界へ来ないかと誘われる。チートとまではいかないまでもいくつかのスキルもくれると言うし、家族もなく今の暮らしに未練もなかった慎吾は快諾した。かくして、貯金を全額おろし多少の物資を買い込んだ慎吾は異世界へと転移した。あれ、無人島とか聞いてないんだけど。

処理中です...