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第1章

第16話

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 9月に入り中旬に近付くと、南半球のこの島も春になりつつある。
 夜はまだ冷えるが、日中は日差しが暖かくなってきた。
 探知術の範囲が広がり、ジャガイモを植えたり、銃の弾を増やしたりしながらケイはずっと考えていたことがある。
 銃を作れ、逃走用の威嚇手段は整ったが、5歳の体では逃げ足が遅い。
 前世では可もなく不可もなくといったぐらいの足の速さだった。
 そこまででなくても、もう少し速くないとスライムからも逃げられない。
 魚介や海藻と海の物ばかり食べていて栄養的にはバランスが悪いが、それまでの食環境がとんでもなく悪かったため、島に着いた時のガリガリの体から少し痩せている程度までは良くなっている。

「これ、ヨモギっぽい!」

 昨日銃を使った戦闘訓練をしていた時、植物の生態系が違うと思うのでヨモギかどうかは分からないが、似たような葉が少量生えていた。
 鑑定術をしたら食べられるようなので、ケイはその野草を手に入れた。
 植物脂は無かったので昆布だしで煮た吸い物にしたのだが、子供の味覚にはかなり苦く感じた。
 銃の訓練は様になって来ており、動きながらでも的に当てることができるようになってきた。
 そんなこんなで、橋ができてからもう2週間ほど経っていた。

「橋作った意味ないな……」

 西にある陸地は、ケイが拠点にしている島と比べればかなりの大きさ。
 野草も果樹も期待ができるのでなるべく行きたいのだが、人や魔物の存在がネックになっている。
 どちらが相手でも、逃げ足が遅ければ捕まってしまうかもしれない。
 アンヘルは武術の基礎を父や叔父に教わっていたので、魔法同様訓練は欠かさないでやっている。
 それに加えて、海岸の砂場を利用した脚力強化もしているが、こればかりは一朝一夕で解決するような問題でもない。






「やっぱ広いな……」

 10月に入る少し前、ケイは拠点にしている小島から組み立て式の橋を使って西にある陸地に来た。
 目の前に広がる景色は、かなり遠くまで樹木が茂っている。
 探知術も毎日の魔法の練習で少しずつ広がっている。
 安全を考え、組立式の橋の側から離れず探知術で周囲を見渡す。

「いないな……」

 魔物は危険だがメリットが多い。
 食材にもなるものもいるし、道具を作るときの錬金術に必要な魔石も手に入る。
 それに、分かりにくいが魔物を倒せば肉体も強化される。
 一歩間違えば命を失いかねないが、今のケイにはいいことづくめだ。
 逃げ足問題は一応解決した。
 銃の練習をしていた時に思いついたことだが、魔力を纏うだけでただの銀玉鉄砲が銃並の威力が出る。
 それを自分の肉体にやったらどうなるかが気になったため、少し試してみることにした。
 最初なので魔力を少量に足に纏わせてみた。
 その状態を維持して動いてみたら、移動速度が上がった。

「これは…………使える!」

 少量の魔力でこれなら、多くの魔力を纏わせればもっと早く移動できるのではないか。
 そう考えたケイは、纏う魔力の量を増やして試す。
 思った通り、魔力を増やせば速度はあがった。
 最高で前世の時に近いレベルの速度が出せた。
 だが、制御が難しく、魔力を足に集めるまで時間が掛かる。
 それに、

「使えるけど…………疲れる」

 難しい魔力の制御で精神的疲労を伴う上に、使った後には肉体的疲労も伴った。
 これまで魔法を使っていた時は、肉体を動かすためではなかったので気が付かなかったが、魔力を使って肉体強化した場合の反動がここまであるとは思わなかった。
 技術的にも肉体的にも慣れないせいかどっと疲れた。

「5歳の肉体には負担が大きいのかな?」

 肉体的疲労の原因ですぐに思いついたのは、今の自分は5歳の体であるということだ。
 5歳で高校生並みの速度が出せるなんて異常なことだ。
 その反動が何もないというのは、考えればありえないことだろう。
 肉体強化をした翌日、ケイは筋肉痛で足がプルプルして動くのがかなりつらかった。
 筋肉痛でヒイヒイ言ってるケイに、キュウも心配そうな顔をしていた。

「よし! 訓練の成果を見せるぞ!」

 結果、魔力での肉体強化は逃走時のみ使うことにした。
 練習はしているが、魔力を集めるのにまだ少し時間が掛かる。
 それは向上した銃の腕でなんとか補うつもりだ。

「あっ! 早速スライムが……」

 当然どんな魔物がいるか分からないので、ケイは探知術で周辺を捜索してから進み始めた。
 すると、早くもスライムを発見した。
 アンヘルの知識から、スライムは世界中どこにでも存在すると言われるほど繁殖力が強いらしい。
 頻繁に会うのもそう言ったことからなのかもしれない。

「ハッ!」

“ジュッ!”

 探知術でちゃんと距離のある状態で発見したので、これまで通り火魔法を放って蒸発させる。

「前よりかは発動速度が早くなったかな?」

 銃や肉体強化をするために魔力を一か所へ集める練習を良くしていたからだろうか。
 火魔法を放つまでの速度が上昇したように感じる。
 これならスライム位なら2、3匹同時に相手にしてもなんとかなるかもしれない。
 ここにはスライムが多いのか、もう一匹スライムを発見して倒し、ケイは拠点に戻っていった。


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