上 下
14 / 375
第1章

第14話

しおりを挟む
 9月に入り、寒さも少しずつ収まって来たような気がする。
 畑も、腐葉土を混ぜた土で畝を作ってある。
 あとはジャガイモを植えるだけの状態だが、探知術が海岸から拠点までまだ届かないでいる。
 拠点から海岸は3kmちょっと、高低差も合わせると更にもう少し距離を伸ばす必要がある。
 一応少しずつ距離は伸びているので慌てる必要はないのだが、色々とやりたいことがあるケイにはもどかしい思いがある。

「…………昆布欲しいな」

 現在、1km半くらいの周囲を探知できるようにはなっている。
 しかし、探せる範囲に昆布が見つからないでいた。
 もっと遠くまで探知できるようにならないとダメなようだ。

「……………あれっ? 待てよ」

 探知を行なう練習をかねて、いつものようにわかめの採取をしていた時、ケイはあることに気が付いた。
 今まで自分を中心にして、魔力を周囲へ均等に広げるように意識していたが、何もわざわざ探知しなくても良いような方向にまで広げているのが無駄に思えた。
 そもそも、魔力の一部を僅かとはいえ変化できるのなら、一方向だけに伸ばすということもできるのではないだろうか。
 そう思い、ケイは探知を海に向かってだけ魔力を伸ばせないか試してみた。

「……できんじゃん」

 結果は、結構簡単にできた。
 しかも、一方向だけに伸ばす方がそちらに意識が集中するからか、距離が稼げるようだ。
 この方法を使った場合、どれほどの距離が探知できるのかやってみたら、3kmほどまで伸び、拠点まであと少しで届きそうだ。

「これでジャガイモ植えられそうだな」

 今一番近い目標のゴールが一気に近付き、気持ちが大分楽になった。



 ケイがこれまでに入手した魔石は4つ。
 蛙の魔物から手に入れた1つは釣り道具の向上させるために、初スライムから手に入れた1つは魚醤用の器をつくるために錬金術で使用した、
 残りの蛇の魔石も錬金術に使った。
 岩場に流れ着いた死体から手に入れたナイフの刃先を折り、その金属を使って大工道具であるのみを作った。
 何故のみを作ったかというと、西の陸地に向かう方法を考えたからだ。

「こちらからあちらまでの距離は最短で……12mくらいか?」

 ケイがいる小島と西にある陸地で一番近くて大体目算12mくらい。
 高さは同じくらいなので、その分の計算はいらない。
 独り言のように呟きながら、ケイは地面にざっと計算を書いていく。

「そうなると、8つ作って……」

 西の陸地に行くには、この崖を飛び越えるか海から向かうしかない。
 海から向かうとしたら、潮が引いた時に僅かに頭を覗かせる岩を足場にして近付いて行くしかない。
 この周辺の波は結構荒いので、渡っている時に強めの波が来たら、5歳のケイでは一飲みされてしまうだろう。
 当然泳いで行くことも不可能。
 なので、海から向かう選択はできない。
 となると、崖の間に橋を作って移動するしかない。
 ただ、橋を作ってしまうとケイが渡ることができるのと同時に、魔物まで渡ってきてしまうようになる。
 そう頻繁に戦えるほど、ケイの魔法は上達していない。
 魔力を溜めるまで少しの時間がかかることから、恐らく複数の魔物をいっぺんに相手にできない。
 強そうな魔物や複数との戦いになりそうになったらこちらの島に逃げ、すぐに橋をなくすことができるようにしたい。
 そんな橋を作る方法を思いついたのだ。

「橋と木の板と考えればいいのか……」

 考え付いたのは梯子を使った橋。
 この橋を造るために、大工道具ののみを作った。
 4mほどの長さの橋を4つ作り、軽いアーチ状になるように組み立てる。
 それを対岸に渡す。
 同じものをもう1つ作り、1mくらいとなりに並べる。
 その2つの橋に横板を並べ、ケイの体重が乗っても大丈夫な橋が完成する。
 向こうに渡り、急いで戻って橋を消す。
 完成した橋で一度試して見ることにした。
 横板は木の杭で橋に留めてあるので、走ったとしてもずれる心配はない。

「おぉ、大丈夫そうだ!」

 西の陸地に渡り、拠点のある小島に走って戻る。
 そして、橋を魔法の指輪に収納して消す。
 考えていた通り実験は成功した。

 ケイが付けている魔法の指輪は、一辺4mの正立方体の空間分収納できる。
 4m以上の長さの木を収納しようとしてもできない。
 立法体なのだから、斜めに入れるということを考えると4mより少しくらい長くても入るかもしれないが、多くの数は入らない。
 そのため、4mというのが重要になる。
 4mの長さの橋を木の杭で留めて長い橋を造る。
 例えばこれを一気に消す場合、収納する時の意識を変えるだけで、一度で収納できるかできないかが変わる。
 繋げてできた一つの橋と考えるか、4mの橋が4つとそれを留める杭が数本あるとバラバラに考えるかだ。
 前者と考えれば収納できず、後者と考えれば収納できる。
 考え方の違いで、収納できるかできないかが変わることに気付けたから、この発想を試すことにしたのだ。
 また西に渡るときには、魔法の指輪からバラバラの部品を全部出し、また組み立てるしかないという手間がかかるが、並べて木の杭を差し込むだけいいように溝をのみで作ってあるので簡単だ。
 西に渡る手段ができたことで、食材探しの範囲がかなり広がった。
 後は、魔法など戦闘技術を手に入れるだけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

帝国の魔女

G.G
ファンタジー
冥界に漂っているあたしに向けられている、もの凄い敵意と憎悪に気づいた。冥界では意識も記憶もないはずなのに?どうやら、そいつはあたしと相打ちになった魔王らしい。そして冥界の外に引っ張られようとしている時、そいつはあたしに纏わり付こうとした。気持ち悪い!あたしは全力でそいつを拒否した。同時にあたしの前世、それも複数の記憶が蘇った。最も古い記憶、それは魔女アクシャナ。 そう、あたしは生まれ変わった。 最強の魔人、カーサイレ母様の娘として。あたしは母様の溺愛の元、すくすくと育つ。 でも、魔王の魔の手は密かに延びていた。 あたしは前世のアクシャナやその他の記憶、スキルを利用して立ち向かう。 アクシャナの強力な空間魔法、そして八百年前のホムンクルス。 帝国の秘密、そして流動する各国の思惑。 否応なく巻き込まれていく訳だけど、カーサイレ母様だけは絶対守るんだから!

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第六部完結】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

異世界の無人島で暮らすことになりました

兎屋亀吉
ファンタジー
ブラック企業に勤める普通のサラリーマン奥元慎吾28歳独身はある日神を名乗る少女から異世界へ来ないかと誘われる。チートとまではいかないまでもいくつかのスキルもくれると言うし、家族もなく今の暮らしに未練もなかった慎吾は快諾した。かくして、貯金を全額おろし多少の物資を買い込んだ慎吾は異世界へと転移した。あれ、無人島とか聞いてないんだけど。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン
ファンタジー
高校二年生にもかかわらず、見た目は小学生にも見える小柄な体格で、いつものようにクラスメイトに虐められてロッカーに閉じ込められた倉戸 新矢(くらと あらや)。身動きが取れない間に、突然の閃光と地震が教室を襲う。 気を失っていたらしく、しばらくして目覚めてみるとそこは異世界だった。 異色な職種、他人からスキルを習得できるという暴食王の職種を活かして、未知の異世界を仲間達と旅をする。

処理中です...