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第1章

第7話

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 今日もキュウに起こされたケイは、朝食を食べた後に野草探しにでかけた。

 昨日の魔法の威力を考えると、弱い魔物なら倒すなり逃げるなりはできるだろうと判断したからだ。
 一応人間や強い魔物に出会う可能性を考え、拠点近くのみの予定だ。
 ただ、人間に出会った場合が考えものだ。
 ケイの内心では前世の記憶もあるせいか、できれば怪我をさせたり殺したくない。
 だが、ケイの中にはアンヘルの記憶がある。
 遭遇した瞬間、父や叔父を目の前で殺された怨みや辛みが沸き上がらないとも限らない。
 場合によっては、有無を言わさず殺しにかかる可能性も否定できない。
 そんなのは人間を前にしない限りどうなるか分からないことだが、どうにか冷静を保つことで今のケイの感情のままでいたい。
 そんなことを色々考えながらも、今は食べ物の調達が一番大事。

「やっぱりもう少ししないと食べられる物は見つからなさそうだな……」

 周囲の景色を見て、ケイは思わず呟いた。
 今は8月中旬、しかし地理的にここは南半球なので季節は冬。
 ケイが来てからは降っていないが、日陰には少し雪が積もっているのだから結構南に位置しているのだろうか。
 ケイの知識だと、たしか南半球だと9月に入ってから少しずつ温かくなるのではなかっただろうか。
 それが合っているとすると、まだ草花が生えるのには早い。
 ケイが言うようにまだ何も見つからないのも仕方がない。

「んっ?」

 樹々の葉は枯れ落ち、地面には落ち葉か土が見えるだけなのだが、前世では見たことない草が転々と生えていることに気付いた。

「薬草?」

 ケイが鑑定をする必要もなく、アンヘルの知識から薬草だと判明した。
 煎じて塗ったり、エキスを抽出して回復薬にしたりするらしい。

「……つまりは食べられるってことだろ?」

 飲んでもいいなら食べてもいいだろう。
 そんな考えから、ケイは薬草を食材として採取することにした。
 アンヘルの知識だと食べられないこともないが、苦いので食用には適さないらしい。
 しかし、今のケイには食べられればいいので、そんな事関係なくひとまず食材をゲットした。
 それから、昼食に焼いて魔法の指輪に入れておいた魚をキュウと半分こし、この寒さでも生えている草や木の実を鑑定していったのだが、薬草以外には名前もわからない酸っぱい豆粒程の大きさの赤い実くらいしか見つからなかった。

「おわっ!?」“ビクッ!”

 野草の採取も重要だが、釣った魚もそろそろなくなる。
 明日はまた釣りをする予定なので、釣りの餌になるような虫も採取をしていた。
 木をナイフで少しずつ繰り抜いて作った入れ物に、それに合う蓋も作っておいたので、生きたまま保存できる。
 石をどけて潜んでいた虫を集めていたのだが、ちょっと大きめの石をどかした瞬間後退った。
 どかした場所にいたのは猫ほどの大きさの蛙だった。
 どうやらラーナと呼ばれる魔物らしい。
 ポケットの中のキュウもその姿を見て驚いていた。

「……………………」

「………………動かない? 寝てるのか?」

 その蛙は上に乗っていた石をどかされたのにも関わらず、何の反応も示さず固まったままでいる。
 ケイが思ったようにまだ冬眠をしているようだ。
 ここまで大きい蛙がいるなんて、さすが異世界と思わなくはないが、ケイは蛙を見て思いが浮かんできた。

『…………蛙って食べられたよな?』

 何かのテレビ番組で、芸人さんが食べているのを見たことがあった。
 たしかその芸人さんが食べた感想は、鶏肉みたいな味だと言っていた気がする。

『鶏肉…………』

 魚は好きなのだが、流石に毎日だと飽きるかもしれない。
 それを考えると、この遭遇は運がいいのではないだろうか。
 食べられるかは後で確認するとして、とりあえず倒してしまった方が良いだろう。

「…………う~……、やっ!」

 特に蛙が苦手だとは思わないが、流石にここまで大きいと、いざ仕留めようと思うと躊躇われる。

「ゲッ!!」

 少し躊躇をした後、ケイは思い切って取り出したナイフを、いまだに動かないでいる蛙に突き刺した。
 寝ていても、ナイフを刺されれた蛙は、流石に変な声を出した。
 だが、その一刺しで仕留められたようで、魔法の指輪に収納できた。

「やった! キュウ! 肉ゲットだ!」

“ピョン! ピョン!”

 まだ食べられるかは分からないが、魚以外の肉のゲットにケイだけでなくキュウもポケット内で弾んで嬉しそうだ。
 思わぬ食材ゲットと初の魔物討伐に、ケイは気分よく拠点に戻った。
 魚は捌いた経験があったので大丈夫だったが、流石に蛙は気が引ける。
 気合いを入れてナイフで内臓を取り出し皮を剥いで鑑定術で見てみたが、どこにも毒を示すような反応は見せないのでどうやら食べられそうだ。

“ジー……”

「ん? ……もしかしてこれ食べたいのか?」

“コクコクッ!”

 足と胴体を海水で煮てみることにしたのだが、キュウが剥いだ皮や内臓を見つめていることに気付いた。
 どうやらキュウはこれが食べたいらしい。
 人間には食べられない(食べられると言っても食べたくない)が、一応魔物のキュウは大丈夫なのだろうか。

「…………食べてもいいけど、美味しくなかったら食べなくてもいいぞ」

“コクコクッ!”

 この世界の鑑定術はサーモグラフィーのように見えて、毒があるなら青、猛毒になれば黒色に近付く。
 食べられる食材ならオレンジや赤色で、上質な味の場合白色に見える。
 取り出した蛙の内臓はほとんど緑に見える。
 緑色は食べられるが不味い物らしく、キュウに与えるのはなんとなく気が引ける。
 しかし、キュウは嬉しそうに皮や内臓を食べ始めたので大丈夫なのだろう。
 蛙は思った通り鶏肉の味がして美味しかった。
 冬眠している今のうちに探し、手に入れることも視野に入れておくつもりだ。
 それと、丸くて小っちゃい可愛い容姿に反して、キュウは結構悪食だということが分かった夕食だった。

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