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第5章
第135話 両翼
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「ぐわっ!!」「ギャア!!」
指揮官のラトバラの命に従い、アデマス王国軍の兵たちが王都を守る防壁に集まった敵兵に攻め込む。
防壁を突破するには、まずその防壁前に存在している敵兵を倒さなけらばならない。
その敵兵も、元はアデマス王国の人間。
敷島の人間たちによって奴隷化され、戦うことを余儀なくされている者たちばかりだ。
そんな相手に躊躇いを覚える者もいるが、これまでの戦いから国の奪還を果たすためには仕方がないことと腹をくくったらしく、ほとんどの者が全力で向かって行っている。
それよりも問題なのは、彼ら奴隷兵の強さだ。
オリアーナが作り出した強化薬を飲まされているらしく、全員が強力な戦闘力を有している。
そのため、数に勝ると言っても個人の力の差により、アデマス王国軍の兵たちの方がドンドン負傷していっていた。
「……まずいな」
数にものを言わせるのなら、限が思っていたように隣国からもっと兵の援助を求めてから攻めかかるべきだった。
防壁の上には敷島の者たちが控えているというのに、このままでは彼らが出るまでもなくアデマス軍が負けてしまう可能性が出てきた。
アデマス軍の兵に紛れて戦っていた限はそのことに気付き、自分が動かなければならないことを悟った。
「俺が右翼を受け持つ。レラはアルバとニールと共に左翼を任せる」
「はい!」「ガウッ!」「キュッ!」
王都内への侵入を優先したからか、ラトバラは中央に多くの兵を集めていた。
そのせいもあってか、特に戦場の両翼が押され始めている。
このままでは、互角に戦っている中央の兵を下げなくてはならなくなる。
仕方がないので、限は自分とレラたちでこの状況を対処することにした。
限が指示を出すと、彼と同じくアデマス軍の中に紛れていたレラが返事をする。
そのレラの胸元から、肉体を魔法で縮小化した従魔のアルバとニールも顔を出して返事をした。
「気を付けろよ……」
「……はい!」
限の指導もあって、レラの実力はかなりのものになっている。
しかし、この戦場にはこれまで以上に敷島の人間が集まっている。
彼らを相手にするとなると、アルバとニールを付けたレラでも危険かもしれない。
指示に従って反対側の戦場に向かおうとしたレラに対し、限は注意喚起した。
そんな限の言葉に、レラは笑みを浮かべて返事をする。
こんな時だと分かっているが、限に心配されてことが嬉しかったようだ。
「では!」
これから限と離れなければならない。
注意を受けたように危険な目に遭うかもしれないため、レラはすぐに笑みを消して、この場から去っていった。
「俺も行くか……」
自分と同じように研究所の地下に捨てられたところを救出し、限はレラを敷島の人間相手でも戦えるほどに鍛えたつもりだったが、五十嵐家を相手にした時、レラは強化薬を使用した美奈子と戦闘で痛手を負った。
それからさらに鍛え、強化薬を使用した敷島の人間を相手にしても戦えるレベルにまで達しているはずだが、それでもレラだけでは心配だ。
そのため、限は彼女に自分の従魔のアルバとニールも付けた。
彼女と従魔たちが連携すれば、敷島の人間でも容易には倒すことはできないだろう。
それよりも、自分は自分で右翼側をしっかり立て直さなければと思った限は、すぐに移動を開始した。
「数で攻め込むしかないはずなのに、奴らはこの程度で勝てると思っているのか?」
王都の防壁を守る指揮を任された近藤家当主の裕也は、攻め込んでくるアデマス軍を見下ろして呟く。
敷島の者がこの戦いで敵を恐れるとすれば、数によるゴリ押しだ。
しかし、見る限り敵の数はこちらの倍程度しかいない。
そんな数で勝てると思っているのか、近藤は信じられない気持ちで側に立つ部下に問いかける。
「……恐らく、勝利が続いたことで勘違いしたのではないでしょうか?」
「バカな……」
近藤の問いに、部下の男は少し考えた後返答する。
彼の答えに、近藤は呆れたように呟く。
「所詮は敷島の力に頼り、碌に戦場に立ったことが無い貴族が指揮しているからか……」
「左様かと……」
「勝って兜の緒を締めよ」という諺があるように、連勝したからと言って調子に乗るなんて、最低の指揮官と言わざるを得ない。
幾度となく隣国への侵略戦争を仕掛けてきたアデマス王国は、そのほとんどを勝利してきた。
その勝利に導いてきたのは、敷島の力があったからこそだ。
それが続けば依存度も高まる。
貴族たちは自分たちは比較的安全な所で戦うだけで、ほとんどは敷島に任せるようになった。
そんな貴族が指揮するような軍なら、部下の言う通りなのかもしれない。
呆れを通り越して、怒りまで湧いてきそうだ。
「……裕也様! 両翼に変化が……」
「……あぁ」
愚かな貴族に率いられた兵。
そんな相手なら脅威にならない。
案の定、敷斎王国軍の有利に事が進んでいたが、その戦場に変化が起きた。
押していたはずの両翼が、段々と押し戻され始めたのだ。
そのことに気付いた部下の言葉に、近藤は分かっていると言うかのように頷く。
「恐らくどちらかに魔無しがいるのだろう。……勢いを見る限り、右翼が有力か……」
敷斎王国の王となった重蔵より、アデマス王国軍の中に限が紛れていることは伝えられていた。
そして、限には少数ながら仲間が存在している。
重蔵からは、この戦いでアデマス軍を壊滅させる事と共に、限とその仲間を始末するように言われている。
違和感のある敵の攻勢。
両翼を見ると、特に右翼の方が顕著に押し戻されている。
そのことから、近藤は限は右翼側にいるのだと判断した。
「谷田殿、橋本殿、頼みます」
「「了解した!」」
これまでのことから、限を倒すのに奴隷兵では相手にならない。
菱山家や五十嵐家のように、1つの一族でも抑えきれない。
なので、近藤は敷島の中でも武に名高い谷田家と橋本家を限の討伐に向かわせることにした。
「近藤殿! 私も行かせてくれないだろうか?」
「光宮殿……」
谷田と橋本に指示を出した近藤に対し、待ったをかけた者がいる。
ヤミモの砦で限に内部崩壊され、逃走を余儀なくされた光宮家の宏直だ。
「……良いでしょう」
いいようにやられ、逃走しなければならなくなった元凶の限があそこにいると知り、光宮は恥を雪ぎ、汚名返上するために自分の手で打ち取りたいと考えたようだ。
その気持ちは分からないでもない。
自分が同じ立場だったら、彼と同じ考えをしていたはずだ。
それに、限を確実に仕留めるためにも、光宮家を加えるのも手かもしれない。
そう考えた近藤は、谷田家と橋本家に加え、光宮家の参戦も了承することにした。
「左翼は平出殿、高木殿に任せる」
「「了解した!」」
左翼が押し返されているのは、恐らく限の仲間だろう。
そちらの討伐に対し、近藤は平出家と高木家に向かうよう指示を出した。
指揮官のラトバラの命に従い、アデマス王国軍の兵たちが王都を守る防壁に集まった敵兵に攻め込む。
防壁を突破するには、まずその防壁前に存在している敵兵を倒さなけらばならない。
その敵兵も、元はアデマス王国の人間。
敷島の人間たちによって奴隷化され、戦うことを余儀なくされている者たちばかりだ。
そんな相手に躊躇いを覚える者もいるが、これまでの戦いから国の奪還を果たすためには仕方がないことと腹をくくったらしく、ほとんどの者が全力で向かって行っている。
それよりも問題なのは、彼ら奴隷兵の強さだ。
オリアーナが作り出した強化薬を飲まされているらしく、全員が強力な戦闘力を有している。
そのため、数に勝ると言っても個人の力の差により、アデマス王国軍の兵たちの方がドンドン負傷していっていた。
「……まずいな」
数にものを言わせるのなら、限が思っていたように隣国からもっと兵の援助を求めてから攻めかかるべきだった。
防壁の上には敷島の者たちが控えているというのに、このままでは彼らが出るまでもなくアデマス軍が負けてしまう可能性が出てきた。
アデマス軍の兵に紛れて戦っていた限はそのことに気付き、自分が動かなければならないことを悟った。
「俺が右翼を受け持つ。レラはアルバとニールと共に左翼を任せる」
「はい!」「ガウッ!」「キュッ!」
王都内への侵入を優先したからか、ラトバラは中央に多くの兵を集めていた。
そのせいもあってか、特に戦場の両翼が押され始めている。
このままでは、互角に戦っている中央の兵を下げなくてはならなくなる。
仕方がないので、限は自分とレラたちでこの状況を対処することにした。
限が指示を出すと、彼と同じくアデマス軍の中に紛れていたレラが返事をする。
そのレラの胸元から、肉体を魔法で縮小化した従魔のアルバとニールも顔を出して返事をした。
「気を付けろよ……」
「……はい!」
限の指導もあって、レラの実力はかなりのものになっている。
しかし、この戦場にはこれまで以上に敷島の人間が集まっている。
彼らを相手にするとなると、アルバとニールを付けたレラでも危険かもしれない。
指示に従って反対側の戦場に向かおうとしたレラに対し、限は注意喚起した。
そんな限の言葉に、レラは笑みを浮かべて返事をする。
こんな時だと分かっているが、限に心配されてことが嬉しかったようだ。
「では!」
これから限と離れなければならない。
注意を受けたように危険な目に遭うかもしれないため、レラはすぐに笑みを消して、この場から去っていった。
「俺も行くか……」
自分と同じように研究所の地下に捨てられたところを救出し、限はレラを敷島の人間相手でも戦えるほどに鍛えたつもりだったが、五十嵐家を相手にした時、レラは強化薬を使用した美奈子と戦闘で痛手を負った。
それからさらに鍛え、強化薬を使用した敷島の人間を相手にしても戦えるレベルにまで達しているはずだが、それでもレラだけでは心配だ。
そのため、限は彼女に自分の従魔のアルバとニールも付けた。
彼女と従魔たちが連携すれば、敷島の人間でも容易には倒すことはできないだろう。
それよりも、自分は自分で右翼側をしっかり立て直さなければと思った限は、すぐに移動を開始した。
「数で攻め込むしかないはずなのに、奴らはこの程度で勝てると思っているのか?」
王都の防壁を守る指揮を任された近藤家当主の裕也は、攻め込んでくるアデマス軍を見下ろして呟く。
敷島の者がこの戦いで敵を恐れるとすれば、数によるゴリ押しだ。
しかし、見る限り敵の数はこちらの倍程度しかいない。
そんな数で勝てると思っているのか、近藤は信じられない気持ちで側に立つ部下に問いかける。
「……恐らく、勝利が続いたことで勘違いしたのではないでしょうか?」
「バカな……」
近藤の問いに、部下の男は少し考えた後返答する。
彼の答えに、近藤は呆れたように呟く。
「所詮は敷島の力に頼り、碌に戦場に立ったことが無い貴族が指揮しているからか……」
「左様かと……」
「勝って兜の緒を締めよ」という諺があるように、連勝したからと言って調子に乗るなんて、最低の指揮官と言わざるを得ない。
幾度となく隣国への侵略戦争を仕掛けてきたアデマス王国は、そのほとんどを勝利してきた。
その勝利に導いてきたのは、敷島の力があったからこそだ。
それが続けば依存度も高まる。
貴族たちは自分たちは比較的安全な所で戦うだけで、ほとんどは敷島に任せるようになった。
そんな貴族が指揮するような軍なら、部下の言う通りなのかもしれない。
呆れを通り越して、怒りまで湧いてきそうだ。
「……裕也様! 両翼に変化が……」
「……あぁ」
愚かな貴族に率いられた兵。
そんな相手なら脅威にならない。
案の定、敷斎王国軍の有利に事が進んでいたが、その戦場に変化が起きた。
押していたはずの両翼が、段々と押し戻され始めたのだ。
そのことに気付いた部下の言葉に、近藤は分かっていると言うかのように頷く。
「恐らくどちらかに魔無しがいるのだろう。……勢いを見る限り、右翼が有力か……」
敷斎王国の王となった重蔵より、アデマス王国軍の中に限が紛れていることは伝えられていた。
そして、限には少数ながら仲間が存在している。
重蔵からは、この戦いでアデマス軍を壊滅させる事と共に、限とその仲間を始末するように言われている。
違和感のある敵の攻勢。
両翼を見ると、特に右翼の方が顕著に押し戻されている。
そのことから、近藤は限は右翼側にいるのだと判断した。
「谷田殿、橋本殿、頼みます」
「「了解した!」」
これまでのことから、限を倒すのに奴隷兵では相手にならない。
菱山家や五十嵐家のように、1つの一族でも抑えきれない。
なので、近藤は敷島の中でも武に名高い谷田家と橋本家を限の討伐に向かわせることにした。
「近藤殿! 私も行かせてくれないだろうか?」
「光宮殿……」
谷田と橋本に指示を出した近藤に対し、待ったをかけた者がいる。
ヤミモの砦で限に内部崩壊され、逃走を余儀なくされた光宮家の宏直だ。
「……良いでしょう」
いいようにやられ、逃走しなければならなくなった元凶の限があそこにいると知り、光宮は恥を雪ぎ、汚名返上するために自分の手で打ち取りたいと考えたようだ。
その気持ちは分からないでもない。
自分が同じ立場だったら、彼と同じ考えをしていたはずだ。
それに、限を確実に仕留めるためにも、光宮家を加えるのも手かもしれない。
そう考えた近藤は、谷田家と橋本家に加え、光宮家の参戦も了承することにした。
「左翼は平出殿、高木殿に任せる」
「「了解した!」」
左翼が押し返されているのは、恐らく限の仲間だろう。
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