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第2章

第47話 ようやく発見

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「あの町か……」

 街道の先に町が見えてきた。
 その町を見ながら限は小さく呟く。

「いると良いですね?」

「あぁ……」

 限の呟きに、レラが話しかける。
 あの町には、人間を魔物に変える薬を作り出したといわれる研究者が存在しているという話だ。
 それが、自分やレラを人体実験とした研究所の人間かもしれないため、限としてはいまから到着するのが待ち遠しい。
 出来れば移動していないことを祈るばかりだ。

「あの犯人は、確か酒場で会ったと言っていた……」

「はい。酒場へ行ってみましょうか?」

「そうだな……」

 南の町で冒険者を殺害していた犯人が言うには、酒場で会った男から魔物に変身する薬を手に入れたという話だった。
 もしかしたら、まだ酒場に顔を出しているかもしれないため、レラの言うように酒場に聞きに行くのもいいかもしれない。

「その前に、冒険者ギルドへ向かおう。南の町から報告が入り、薬を作った研究者の捜索をしてくれているはずだ」

「そうですね」

 南の町のギルマスは、犯人に薬を渡したその研究者を探す協力をしてくれると言っていた。
 限たちがこの町に到着するまでに、その研究者の情報を得ておくという話だったため、酒場を探さなくても、ここのギルドに情報が入っているはずだ。
 なので、限は酒場よりも前にギルドに行って情報を聞くことを選択した。
 限の提案を断る訳もなく、レラは頷きを返した。

「いらっしゃいませ」

 ギルドへ向かうと、受付の男性が限に気付いて声をかけてきた。
 その男性に向かって、限は顔を近付けた。

「南の町のギルマスから話が通っているはずなのだが……」

「……あぁ、はい。こちらへどうぞ……」

 何をするのかと思っていた受付の男性だったが、小声で話された言葉に反応する。
 話が通っていたらしく、限たちは個室の方へと案内されることになった。

「お話は伺っております。この町に危険な薬を作り出した人間が潜んでいるという話でしたね?」

「あぁ」

 南の町のギルドマスからの情報により、やはりここのギルドは動いてくれていたらしい。
 魔物に変化するような薬を作り出したというだけでもとんでもないことだが、それがこの町で作られているかもしれないという話だ。
 ギルドとしては見過ごせないため、極秘に冒険者を使って調査を進めた。
 
「この町で何の研究をしているのか分からない研究者は、この5人でした」

「5人……」

 そう言いつつ、男性のギルド職員が限へと資料を渡してきた。
 そこ資料には、5人の人間を調査した内容が書かれていた。

「この5人の誰かってことか?」

「……いいえ」

「……? どういうことだ?」

 資料に記されている男性3人、女性2人の5人のうち、誰かだと思って問いかけたのだが、その男性ギルド職員は首を横に振って否定してきた。
 捕まえた男からは、薬を渡してきたのは男と聞いていたので、5人ではなく3人のうちの1人だということなのだろうか。

「5人のうちの1人という訳ではなく、この5人が協力して研究しているのが分かりました。なので、彼らが恐らく犯人だと思われます」

「こいつら全員が……?」

 調べ上げた話によると、どうやらこの5人が協力して魔物へ変身する薬を作り上げたようだ。
 その話を聞いて、限は資料に書かれている似顔絵に目を向けた。

「こいつ……」

「見覚えのある奴がいたか?」

「はい……」

 昔の記憶を呼び起こしている限の横で、レラは小さく呟いた。
 渡された資料を見つめているが、眉間にしわが寄っている所を見ると、思い当たる人間がいたようだ。
 限の問いかけに反応したレラは、資料の中から1人の男を指差した。

「こいつが笑みを浮かべながら私に薬品を注射したのを覚えています」

 長期間の苦しみを味わった限とは違い、レラは早い段階で体にガタが来て地下廃棄にさせられた。
 期間は短くても、自分を苦しめた人間の顔を忘れる訳はない。
 この男が打った注射によって、のたうち回るほどの激痛を受けたことがフラッシュバックしてきた。

「俺は記憶にないが、お前が言うならそうなんだろう」

 当時の怒りが沸き上がってきたのか、レラは黙って資料の男を睨み続けている。
 限としてはこの5人に見覚えがない。
 しかし、レラの反応を見る限り嘘とは思えない。

「……担当が違ったのかもしれないからな」

 研究所には多くの治験体がいた。
 それを1つの班が全部見ていたとは思えないため、もしかしたら自分の担当でなかったのかもしれないと限は判断した。

「この5人は今どこに?」

「下手に手を出すと危険だという話を聞いていたので、皆さんが来るまで見張りを付けて監視している状況に留めています」

 南の町で起きた殺人事件の犯人が使用していた魔物化する薬。
 それを作った本人たちなら、同じ薬を所持している可能性が高い。
 そうなると、下手に手を出して暴れられたら、この町に被害が起きるかもしれない。
 そうならないために、魔物化した犯人を捕らえた限が来るのを待っていたようだ。
 もしもの時には、現に力尽くで止めてもらう為だろう。

「一網打尽にするか、それともそれぞれを捕縛するか。どちらにしますか?」

「う~ん……、全員がばらけた時に捕まえるのが一番安全かもしれないな」

「了解しました」

 この5人は、町の外れの建物で一緒に住んでいるらしい。
 しかし、全員がその建物に籠りっきりという訳でもなく、誰かが外出したりと比較的自由に行動しているようだった。
 一斉に捕まえようとすれば、誰かが気付いて変身をしてしまうかもしれない。
 その外出時に、薬を飲む暇も与えないように不意打ちで捕まえてしまえば危険は少ないはず。
 そう考えた限は、全員がばらけた所を見計らって行動を起こすことに決定した。

「人を魔物に変えるような薬など存在してはならない。それが南のギルマスとここのギルマスの共通認識です。冒険者を使って何としても阻止しましょう」

「あぁ……」

 魔物化する薬が広まれば、南の町の時のように犯罪に使用しようとする人間がいるはず。
 そうなったら、高ランク冒険者でも抑えられるか分からない。
 抑えられなくなれば、多くの町や村は滅び、やがては国までもが亡びることになるかもしれない。
 今のうちにこの研究を闇に葬るために、ここのギルドは動いてくれるらしい。
 職員の男性が下げた頭に、限は協力を約束する返事をした。





「捕まえた後はどうするおつもりですか?」

 5人が研究しているらしき町はずれの建物。
 その近くに、数人の冒険者が派遣されて機会をうかがうことになった。
 もしもの時も考えて、限たちも近くの宿屋で待機することになった。
 その宿屋に入って一休みした所で、レラはギルドでは聞けなかったことを限へと問いかけてきた。
 限の旅の目的は、自分に地獄の苦しみを与えた研究員と故郷の一族への復讐だ。
 その片方である研究員たちを、一部とはいえ発見することができた。
 捕まえれば他の研究員の情報も聞き出せるだろうが、その後どうするのか気になった。

「当然殺すさ……」

 人間を魔物に変える研究。
 そんな事を考えるだけならともかく、実行に移すような連中は生かしておいても意味がない。
 さも当たり前と言うかのように、限はレラへと返答したのだった。

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