上 下
40 / 179
第2章

第40話 変異種

しおりを挟む
「ハッ!!」

「ギャッ!!」

 一角兎の角による攻撃を受けないようにするため、レラは横へ動きつつ杖を振り下ろす。
 その攻撃を受けた一角兎は、悲鳴と共に吹き飛ばされて動かなくなった。

「ハァ、ハァ……」

「大丈夫か?」

「フゥ~……、はい。大丈夫です」

 弱い魔物ばかりだとは言っても、さっきから次々現れている。
 限の指導により魔力の温存をしつつの戦闘をしているのだが、こうも頻繁に出現すると体力の方に影響が出てくる。
 レラの強化が目的のため、限たちが強力をしていてないのもあって、動きっぱなしのレラは息切れをしていた。
 動きは悪くないが、体力の方がまだまだのようだ。
 確認のための限の問いに、軽く額の汗をぬぐって深く息を吐いて息を整えたレラは、笑顔で答えを返した。

「それにしても本当に多いな……」

 レラの様子も大丈夫そうなので、このまま森の探索を続けることにしたのだが、魔物が出現しすぎだ。
 弱い魔物だからこそ繁殖力が高いとは言っても、ここまでひっきりなしに出現してくるのは違和感を感じる。

「何か変異種でもいるのかもしれないな……」

「変異種……ですか?」

 元々ここの森は弱い魔物しか出現しないという話だが、ここまで出現しているというのは少しおかしい。
 何かしらの原因があると考えられる。
 こう言った場合、魔物の中に変異種が現れた場合が多い。
 ゴブリンなら、ゴブリンジェネラルやゴブリンキングなどと言った上位個体の出現によって、巨大な集落を形成するという可能性がある。
 その場合、森に住む他の種が逃げるように森の外へと向かい、人の目につくようになる。
 限たちの前に現れ続けている魔物たちは、そう言った逃げてきた種の方なのかもしれない。

「もう少し進めばわかる。注意して進めよ……」

「はい!」

 今回はレラがメインに戦うことになっているので、警戒はしているが広範囲の探知はしていない。
 どんな魔物の大繁殖なのかは、もう少し行った森の奥に入ればわかるはずだ。
 相手次第では危険な目に遭うかもしれないため、限はレラに注意を促しておいた。
 レラは限に心配されているのが嬉しいのか、笑顔で返事をした。

「っ!?」

 森の奥へと進んでいると、レラは急に足を止める。
 何か魔物がいるのを感じ取ったようだ。
 範囲は広くないが、探知の魔法も使えるようになっているようで、限は静かに感心していた。

「スコルピオーネ!?」

「しかも大軍だな……」

 小型犬ほどの大きさのサソリが、地面を埋め尽くすように迫ってくる。
 この魔物も1体だけならたいして危険ではないのだが、こうも大量に出現すると苦労しそうだ。

「こいつらの尾には毒があるから気を付けろよ」

「はい!」

 探知ができているのだから恐らく分かっているとは思ったが、限は念のため忠告しておく。
 この魔物は尾の先の針を敵に刺し、毒で動けなくしてから獲物に食らいつくのが基本的なパターンとなっている。
 限の忠告に、レラは頷きながら返事をした。

「風刃!!」

 この大軍相手に打撃戦闘はあり得ない。
 一気に倒すために、レラは魔法で攻撃をする事を選択した。
 レラの風の刃による魔法攻撃で、サソリたちはバッサバッサと斬り裂かれて道をつくるように死体が転がった。

「竜巻!!」

 結構な量のサソリを倒すことに成功したが、まだまだ大量の数が残っている。
 なので、レラは更に魔法を放つ。
 魔法による小さい竜巻を作り出し、レラたちの側にいたサソリたちを巻き込んで行った。
 巻き込まれたサソリは竜巻内で切り刻まれ、魔法が終息した頃には、ほとんどのサソリたちが生命としての活動を停止していた。

「フゥ~……、どうやらここら辺の魔物は倒せたようですね……」

「あぁ……」

 魔法の連発で軽く疲労を感じたのか、レラはまたも汗を拭きつつ息を吐きだす。
 僅かに生き残っていたサソリたちは、瀕死の状態でいたのでキッチリ杖を突きさして仕留める。
 これでとりあえず周辺の魔物は倒せた。
 一安心しているレラとは違い、限はこの先の魔物が何なのかの探知を始めた。

「この先に変異種がいる。少し休憩して出発しよう!」

「はい……」

 探知をしたことで、限はこの先どんな魔物が待ち構えているか分かった。
 魔法連発による疲労感が抜けるまで少し休憩し、それからその変異種に挑むことにした。
 限とは違い、そんなに広範囲の探知ができる訳ではないレラは、どんな変異種が待ち構えているのかと緊張したように返事をした。





「……あそこですね?」

「あぁ……」

 休憩後に少し進むと、少し開けた場所へとたどり着いた。
 そこには土を固めて作り出したような巣穴がある。
 恐らくその中に魔物たちが潜んでいるのだろう。
 森の樹の影に隠れながら、レラと限は小さい声で話し合っていた。

「何の魔物でしょうか……?」

「少し待ってみよう」

「はい……」

 もしも変異種の出現で勢力が変わっているとしたら、仲間も多くいるはずだ。
 そんな魔物がいるのかを確認するために、レラたちはこのまま少しの間様子を見ることにした。

「来た!」

 レラたちが物音を立てずにそのまま巣穴を眺めていると、レラたちとは反対側の方から物音がしてきた。
 どうやら外に出ていた魔物が住穴に戻ってきたようだ。

「……トーポ?」

 草をかき分けるように姿を現したのは、中型犬くらいの大きさをしたネズミの魔物だった。
 何でも食べる雑食の魔物で、大繁殖を起こすと人間だけでなく動物や魔物を食い散らかすことになるだろう。
 あの巣穴の中にどれほどの数のネズミが住んでいるのかは分からないが、周辺の町に攻め込んでくる前に叩き潰しておいた方が良いだろう。
 そのため、レラたちは今後の戦い方をどうするか決めていた。

「焚火をして軽い風魔法で洞窟内へ煙を流し込みます。それで飛び出してきた魔物を入り口付近に作った落とし穴に落として仕留めるというのはいかがでしょう?」

「じゃあ、落とし穴は俺が作ってやろう!」

「お願いします」

 巣穴の中がどういう形になっているか分からないが、煙が中に入って来たら外へと逃げ出そうとするに違いない。
 逃げだしてきた魔物を捕まえるために、限は落とし穴の設置を始めた。

「始めます!」

「了解!」

 合図と共に、レラは火魔法で薪に火をつける。
 そしてその煙を風魔法を使って巣穴に向かって流し始めた。

“ドドドド……!!”

「こ、これは……」

 少しの間ネズミが出てくるのを待っていると、段々と地面が揺れるような振動が伝わってきた。
 その音が聞こえてくるのは巣穴の中からだ。
 つまり、この振動を作り上げているのは……。

「「「「「キシャー!!」」」」」

 巣穴の中にいたネズミたちだ。
 煙の侵入により、我先にといわんばかりにネズミたちが出口へと殺到してきたのだ。

「ヤバいな……。予想以上の頭数みたいだ」

 何の魔物が潜んでいるかは探知していたが、頭数までは数えていなかった。
 予想以上の数により、限が作った落とし穴ではすぐに溢れてしまい意味をなさなくなてしまった。

「レラ、少し減らすから……」

「いいえ! 限様、私が1人で対応します!」

 巣穴からはまだ続々と外へと向かって来ている。
 恐らく、とんでもない地下深くまで巣穴が広がっているのかもしれない。
 このネズミの大繁殖が、森の魔物が人間に目撃される原因だったようだ。
 さすがに数が多すぎるので、限はレラを控えさせてネズミを間引こうとした。
 しかし、レラを控えさせる言葉が言い終わる前に、レラは自分から意見を述べる。

「……そうか? じゃあ、任せる」

 指示に従うのではなく、珍しくレラが自分から言い出したことなので、限はできる限り任せることにした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。  ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。  その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。  無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。  手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。  屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。 【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】  だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

処理中です...