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第 71 話
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「いい気なもんだ……」
「ガァ~……!! ゴオォ~……!!」
ベーニンヤ伯爵を探し、エルヴィーノは村の中を探知する。
そして、村の中でも一番大きい家、恐らく村長宅らしき場所に護衛の兵が多いことに気付く。
その一室に、恰幅の良い男がベッドで鼾をかいて寝ている。
テーブルの上に空の酒瓶があることから、酒を飲んで眠りについたのだろう。
冒険者を攫って奴隷兵として利用しているクズのくせに、自分は美味い酒を飲んで高鼾なんて不愉快でしかない。
奴隷化した冒険者たちを転移させたことで、ベーニンヤ伯爵への怒りはほんの少しだけ収まった気になっていたが、この姿を見たことでエルヴィーノの怒りは再燃していた。
「兵たちとやり合うのは骨が折れる。奴にだけ接触して、さっさと帰るか……」
100人近い冒険者たちの転移は、さすがのエルヴィーノでも魔力の大量消費による疲労できついものがある。
そのうえ、伯爵の兵たちを相手に大立ち回りをするのはきついため、あまり大きな騒動にすることなく報復を遂行することにした。
「フッ!!」
闇魔法を使用し、影の中に入り込むエルヴィーノ。
その影から出た場所は、ベーニンヤ伯爵の寝ているベッドの横だった。
「ガアァ~……!! グオォ~……!!」
『うるせえな……』
転移すると、爆音とも言えるベーニンヤ伯爵の鼾が襲い掛かってきた。
耳を塞ぎたくあるようなその鼾に、エルヴィーノは心の中で文句を言った。
「クッ……」
「…………っ?」
こんなうるさい所にいつまでも居たくない。
さっさと報復をして帰ろうとエルヴィーノが思ったところで、急にベーニンヤ伯爵の鼾が止まる。
一瞬、もしかして起きたのかとも思ったが、動く気配がないため、エルヴィーノは首を傾げた。
「……ッ、グオォ~……!!」
『無呼吸症候群かよ!!』
動くどころか、よく見ると呼吸をしている様子がない。
そんなベーニンヤ伯爵を見たエルヴィーノは、自分より先に誰かに毒でも盛られていたのかと頭をよぎった。
しかし、その予想はすぐに覆される。
呼吸が止まってから10秒以上経って、ベーニンヤ伯爵がまた鼾を掻きはじめたからだ。
どうやら、呼吸が止まっていたのは睡眠時無呼吸症候群と呼ばれる状態だったためで、その症状のことを知っていたエルヴィーノは、心の中でツッコミを入れていた。
『そりゃそうか……』
ベーニンヤ伯爵はかなり恰幅が良い。
正確に言えばかなりのデブで、首もどこにあるのか分からないような状態だ。
またも鼾を掻いて寝ているベーニンヤ伯爵を見て、これでは気道が圧迫されて無呼吸症候群になるのも仕方がないとエルヴィーノは当然だと納得した。
『そのまま息が止まってくれたら楽なんだがな……』
もしも、先程自分が考えたように、呼吸が止まったのは何者かの手によるものだったならそれでも良かった。
死んだのを確認して、この場から去れば良いだけのことだからだ。
これから報復をする予定だったが、その手間が省けるならそれに越したことはない。
そのため、エルヴィーノは心の中で嘆息しつつ呟いた。
『さてと……』
僅かとは言え無駄な時間を要した。
これ以上この愚者に無駄な時間をかけるのはがもったいないと、エルヴィーノは報復を実行することにし、開いた右手をベーニンヤ伯爵へと向けた。
そして、ベーニンヤ伯爵は影の中に飲み込まれるように入って行った。
「おいっ! 起きろ!!」
「なっ!? 何だ!?」
共に影の中に入ったエルヴィーノは、ベーニンヤ伯爵を往復ビンタをして起こす。
痛みで起きたベーニンヤ伯爵は、慌てて体を起こして周囲を見渡した。
「何だ? まだ夜中か?」
「そんなの気にしなくていい」
「っ!? 何者だ!? 姿を見せろ! 俺を誰だと思っている!?」
周囲は真っ暗なため、真夜中だと判断するベーニンヤ伯爵。
しかし、夜中にしても部屋の中の物も見えない程暗すぎるため、ベーニンヤ伯爵は違和感を覚える。
そんなベーニンヤ伯爵に、 エルヴィーノが話しかける。
収納・転移魔法の応用で、影の中の異空間に留めさせるというエルヴィーノが生み出した技だ。
誰にも邪魔をされることはないため、ここに彼を引きずり込んだのだ。
しかも、ベーニンヤ伯爵はエルヴィーノの姿が見えていないが、エルヴィーノの方はしっかりと姿が見えているのも利点だ。
これで、誰に何をされたかなんて調べられないはずだ。
「うるさいからさっさと済まさせてもらう」
状況を理解できず、ギャーギャー騒ぐベーニンヤ伯爵が黙るはいつになるのか分からない。
そのため、エルヴィーノは説明をすっ飛ばして報復を実行することにした。
「がっ!? な、何をした!?」
「隷属魔法をかけた。これでお前は俺の命令を遵守しなければならない」
隷属魔法は闇属性の1つのため、エルヴィーノも使用できる。
この魔法をかけ、手出しをさせないようにする。
ベーニンヤ伯爵への報復をどんなものにするか考えていたが、思いついたのがこの方法だ。
「な、なんだと!? 何故っ!?」
「カンリーン王国の冒険者を攫って奴隷化していた報いだ」
「なっ!? お、俺が関与した証拠なんてないだろ!?」
貴族である自分が奴隷化されるなんて考えたこともなかったため、エルヴィーノの言葉を聞いたベーニンヤ伯爵は目を見開く。
そんなベーニンヤ伯爵に対し、エルヴィーノは隷属魔法をかけた理由を説明する。
カンリーン王国の冒険者を攫うように依頼した傭兵たちからの連絡が途絶えたと思っていたが、どうやら捕まってしまったのだろう。
その傭兵たちを尋問した結果、指示したと自分の名前が出たのかもしれないが、それはあくまでも彼らが言っているだけのこと。
自分に繋がるような証拠はどこにも残していない。
そのため、ベーニンヤ伯爵はすぐさま反論した。
「奴隷化された兵の中にカンリーン王国の知り合いがいた。それなのに証拠がないなんてよく言えるな」
「くっ……!!」
先程助けた奴隷兵の中に、カトゥッロたち【月の光】のメンバーがいた。
それなのに、証拠がないなんて話にならない。
そのことを告げると、ベーニンヤ伯爵は反論することができなかった。
「俺の命令の1つ目は、この隷属魔法を解除しようとするな。2つ目は、二度と冒険者を攫おうとするな。以上だ」
まだ何か言い訳しようとするベーニンヤ伯爵を無視し、エルヴィーノは2つの命令をする。
「殺そうと思ったらいつでも殺せる。けどこの程度で許してやるんだ。俺のやさしさに感謝するんだな」
自分は、複数の兵を警護に立てていたお前をあっさりと攫うような人間だ。
つまりはいつでも殺せるということだ。
そう言っていることを理解できないほど、いくら何でも馬鹿ではないだろう。
最初は殺すという選択もあり得たのだが、あっさり殺しただけではベーニンヤ伯爵に後悔させられない。
そのため、エルヴィーノは奴隷化の報復に、彼も奴隷化とすることにしたのだ。
「ふざけ……」
「まあ、命令を断ることはできない。隷属魔法をかけたからな。部屋に戻ったらその出っ張った腹を見てみるんだな」
貴族の自分が奴隷になんて許しがたい。
そのため、ベーニンヤ伯爵はすぐさま解除するように言おうとした。
しかし、それを遮り、エルヴィーノは言いたいことだけ言う。
「じゃあな!」
「ちょっ! ま、待てっ!」
納得していようと、していなかろうと関係ない。
説明を終えたエルヴィーノは、すぐに影の中から追い出そうとする。
体の浮遊感を受け、ベーニンヤ伯爵はまだ話は終わっていないとばかりに喚き立てる。
しかし、それも虚しく、ベーニンヤ伯爵は寝ていたベッドに戻った。
「……ハッ!!」
部屋の暗さから、まだ夜中だと分かる。
もしかしたら夢を見ていたのかと思ったベーニンヤ伯爵だったが、それを確認するために慌てて服をめくり上げ、腹を見た。
「そんな……」
夢ではなかった。
姿が見えず何者か分からないが、本当に自分に隷属魔法をかけていた。
奴隷のマークが、はっきりと腹に描かれていたからだ。
そのことを理解したベーニンヤ伯爵は、この世の終わりといったように力なく声を漏らしたのだった。
「ガァ~……!! ゴオォ~……!!」
ベーニンヤ伯爵を探し、エルヴィーノは村の中を探知する。
そして、村の中でも一番大きい家、恐らく村長宅らしき場所に護衛の兵が多いことに気付く。
その一室に、恰幅の良い男がベッドで鼾をかいて寝ている。
テーブルの上に空の酒瓶があることから、酒を飲んで眠りについたのだろう。
冒険者を攫って奴隷兵として利用しているクズのくせに、自分は美味い酒を飲んで高鼾なんて不愉快でしかない。
奴隷化した冒険者たちを転移させたことで、ベーニンヤ伯爵への怒りはほんの少しだけ収まった気になっていたが、この姿を見たことでエルヴィーノの怒りは再燃していた。
「兵たちとやり合うのは骨が折れる。奴にだけ接触して、さっさと帰るか……」
100人近い冒険者たちの転移は、さすがのエルヴィーノでも魔力の大量消費による疲労できついものがある。
そのうえ、伯爵の兵たちを相手に大立ち回りをするのはきついため、あまり大きな騒動にすることなく報復を遂行することにした。
「フッ!!」
闇魔法を使用し、影の中に入り込むエルヴィーノ。
その影から出た場所は、ベーニンヤ伯爵の寝ているベッドの横だった。
「ガアァ~……!! グオォ~……!!」
『うるせえな……』
転移すると、爆音とも言えるベーニンヤ伯爵の鼾が襲い掛かってきた。
耳を塞ぎたくあるようなその鼾に、エルヴィーノは心の中で文句を言った。
「クッ……」
「…………っ?」
こんなうるさい所にいつまでも居たくない。
さっさと報復をして帰ろうとエルヴィーノが思ったところで、急にベーニンヤ伯爵の鼾が止まる。
一瞬、もしかして起きたのかとも思ったが、動く気配がないため、エルヴィーノは首を傾げた。
「……ッ、グオォ~……!!」
『無呼吸症候群かよ!!』
動くどころか、よく見ると呼吸をしている様子がない。
そんなベーニンヤ伯爵を見たエルヴィーノは、自分より先に誰かに毒でも盛られていたのかと頭をよぎった。
しかし、その予想はすぐに覆される。
呼吸が止まってから10秒以上経って、ベーニンヤ伯爵がまた鼾を掻きはじめたからだ。
どうやら、呼吸が止まっていたのは睡眠時無呼吸症候群と呼ばれる状態だったためで、その症状のことを知っていたエルヴィーノは、心の中でツッコミを入れていた。
『そりゃそうか……』
ベーニンヤ伯爵はかなり恰幅が良い。
正確に言えばかなりのデブで、首もどこにあるのか分からないような状態だ。
またも鼾を掻いて寝ているベーニンヤ伯爵を見て、これでは気道が圧迫されて無呼吸症候群になるのも仕方がないとエルヴィーノは当然だと納得した。
『そのまま息が止まってくれたら楽なんだがな……』
もしも、先程自分が考えたように、呼吸が止まったのは何者かの手によるものだったならそれでも良かった。
死んだのを確認して、この場から去れば良いだけのことだからだ。
これから報復をする予定だったが、その手間が省けるならそれに越したことはない。
そのため、エルヴィーノは心の中で嘆息しつつ呟いた。
『さてと……』
僅かとは言え無駄な時間を要した。
これ以上この愚者に無駄な時間をかけるのはがもったいないと、エルヴィーノは報復を実行することにし、開いた右手をベーニンヤ伯爵へと向けた。
そして、ベーニンヤ伯爵は影の中に飲み込まれるように入って行った。
「おいっ! 起きろ!!」
「なっ!? 何だ!?」
共に影の中に入ったエルヴィーノは、ベーニンヤ伯爵を往復ビンタをして起こす。
痛みで起きたベーニンヤ伯爵は、慌てて体を起こして周囲を見渡した。
「何だ? まだ夜中か?」
「そんなの気にしなくていい」
「っ!? 何者だ!? 姿を見せろ! 俺を誰だと思っている!?」
周囲は真っ暗なため、真夜中だと判断するベーニンヤ伯爵。
しかし、夜中にしても部屋の中の物も見えない程暗すぎるため、ベーニンヤ伯爵は違和感を覚える。
そんなベーニンヤ伯爵に、 エルヴィーノが話しかける。
収納・転移魔法の応用で、影の中の異空間に留めさせるというエルヴィーノが生み出した技だ。
誰にも邪魔をされることはないため、ここに彼を引きずり込んだのだ。
しかも、ベーニンヤ伯爵はエルヴィーノの姿が見えていないが、エルヴィーノの方はしっかりと姿が見えているのも利点だ。
これで、誰に何をされたかなんて調べられないはずだ。
「うるさいからさっさと済まさせてもらう」
状況を理解できず、ギャーギャー騒ぐベーニンヤ伯爵が黙るはいつになるのか分からない。
そのため、エルヴィーノは説明をすっ飛ばして報復を実行することにした。
「がっ!? な、何をした!?」
「隷属魔法をかけた。これでお前は俺の命令を遵守しなければならない」
隷属魔法は闇属性の1つのため、エルヴィーノも使用できる。
この魔法をかけ、手出しをさせないようにする。
ベーニンヤ伯爵への報復をどんなものにするか考えていたが、思いついたのがこの方法だ。
「な、なんだと!? 何故っ!?」
「カンリーン王国の冒険者を攫って奴隷化していた報いだ」
「なっ!? お、俺が関与した証拠なんてないだろ!?」
貴族である自分が奴隷化されるなんて考えたこともなかったため、エルヴィーノの言葉を聞いたベーニンヤ伯爵は目を見開く。
そんなベーニンヤ伯爵に対し、エルヴィーノは隷属魔法をかけた理由を説明する。
カンリーン王国の冒険者を攫うように依頼した傭兵たちからの連絡が途絶えたと思っていたが、どうやら捕まってしまったのだろう。
その傭兵たちを尋問した結果、指示したと自分の名前が出たのかもしれないが、それはあくまでも彼らが言っているだけのこと。
自分に繋がるような証拠はどこにも残していない。
そのため、ベーニンヤ伯爵はすぐさま反論した。
「奴隷化された兵の中にカンリーン王国の知り合いがいた。それなのに証拠がないなんてよく言えるな」
「くっ……!!」
先程助けた奴隷兵の中に、カトゥッロたち【月の光】のメンバーがいた。
それなのに、証拠がないなんて話にならない。
そのことを告げると、ベーニンヤ伯爵は反論することができなかった。
「俺の命令の1つ目は、この隷属魔法を解除しようとするな。2つ目は、二度と冒険者を攫おうとするな。以上だ」
まだ何か言い訳しようとするベーニンヤ伯爵を無視し、エルヴィーノは2つの命令をする。
「殺そうと思ったらいつでも殺せる。けどこの程度で許してやるんだ。俺のやさしさに感謝するんだな」
自分は、複数の兵を警護に立てていたお前をあっさりと攫うような人間だ。
つまりはいつでも殺せるということだ。
そう言っていることを理解できないほど、いくら何でも馬鹿ではないだろう。
最初は殺すという選択もあり得たのだが、あっさり殺しただけではベーニンヤ伯爵に後悔させられない。
そのため、エルヴィーノは奴隷化の報復に、彼も奴隷化とすることにしたのだ。
「ふざけ……」
「まあ、命令を断ることはできない。隷属魔法をかけたからな。部屋に戻ったらその出っ張った腹を見てみるんだな」
貴族の自分が奴隷になんて許しがたい。
そのため、ベーニンヤ伯爵はすぐさま解除するように言おうとした。
しかし、それを遮り、エルヴィーノは言いたいことだけ言う。
「じゃあな!」
「ちょっ! ま、待てっ!」
納得していようと、していなかろうと関係ない。
説明を終えたエルヴィーノは、すぐに影の中から追い出そうとする。
体の浮遊感を受け、ベーニンヤ伯爵はまだ話は終わっていないとばかりに喚き立てる。
しかし、それも虚しく、ベーニンヤ伯爵は寝ていたベッドに戻った。
「……ハッ!!」
部屋の暗さから、まだ夜中だと分かる。
もしかしたら夢を見ていたのかと思ったベーニンヤ伯爵だったが、それを確認するために慌てて服をめくり上げ、腹を見た。
「そんな……」
夢ではなかった。
姿が見えず何者か分からないが、本当に自分に隷属魔法をかけていた。
奴隷のマークが、はっきりと腹に描かれていたからだ。
そのことを理解したベーニンヤ伯爵は、この世の終わりといったように力なく声を漏らしたのだった。
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