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第 1 章
第 39 話
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「ク、クラーケン!?」
エルヴィーノとセラフィーナが言った名前を聞いて、フィオレンツォは驚きの声を上げる。
クラーケンがどれほど危険な魔物なのかというのは、港町であるシオーマの町では嫌でも耳に入る。
出現したら、どこかに去るのを待つか討伐しない限り、漁に出ることは禁止されるのが通常だ。
そうしないと、どれほどの船が沈められるか分からないからだ。
「「あっ!」」
「どうしました!?」
波がどんどん大きくなてくる。
どうやら、クラーケンが海中から上昇してきているようだ。
そのクラーケンに目を向けているエルヴィーノとセラフィーナが、揃って驚きの声を上げる。
嫌な予感しかないその反応に、フィオレンツォは戸惑いつつ問いかけた。
“ズバーーーンッ!!”
大きな波と音を立て、海面の外にクラーケンの体が出現する。
しかし、とんでもないおまけまで付いてきていた。
「シーサーペントがついてきた」
クラーケンに付いてきたおまけとは、巨大海蛇の魔物のシーサーペントだ。
どうやら、両者ともこの船を狙って近づいてきたところ、相手のことに気付いて獲物(この船)の取り合いを始めたようだ。
「…………!!」
「シャーッ!!」
獲物は後回しだとでも言うかのように、クラーケンとシーサーペントは睨みあっている。
どちらが獲物を手に入れるかを、この場で決めるつもりなのだろう。
「シー……」
クラーケンだけでもとんでもない脅威だというのに、これまた最悪ともいえる魔物のシーサペントが出現したため、フィオレンツォはあまりの驚きに声が出ない。
「……クラーケンはそんなに美味くないんだよな」
クラーケンにシーサーペントの出現。
死も覚悟しなければならないと思っているフィオレンツォに反し、エルヴィーノは呑気なことを言っている。
現実逃避しているわけではない。
いつもと変わらない表情で言っているのだ。
「ダイオウイカが魔物化したって話だからな」
魔物でもないのに巨大な体のダイオウイカ。
それが魔物化して、さらに巨大化したのがクラーケンだという話だ。
ダイオウイカの身自体、そんなに美味しくない。
それが巨大化したからといって、美味くなるわけがない。
アンモニア臭があり、その匂いを消したとしてもたいして美味くない。
「クラーケンで有用なのは魔石だけだな」
強い魔物ほど、魔石に内包された魔力は多い。
魔石を電池代わりにしているこの世界では、クラーケンほどの魔力を有した魔石なんて貴重だ。
身が食用に期待できない以上、エルヴィーノは魔石を手に入れることを目指すことにした。
「でも、シーサーペントは美味しかったイメージがあります」
「そうだな……」
美味くないクラーケンの出現をあまり好ましく思っていない様子のエルヴィーノに対し、セラフィーナが話しかける。
料理が苦手なため、もっぱら食べる専門のセラフィーナ。
以前も、エルヴィーノが倒して料理してくれたシーサーペントを食べた経験がある。
その時のことを思い出して感想を述べると、エルヴィーノもシーサーペントの料理のことを思い出した。
「あれは、色々な味付けで楽しむ感じだな」
シーサーペントの身は、淡白な味で弾力のある食感をしている。
そのため、その食感を生かして色々な味付けで食べることが望ましい調理法だろう。
しかも、クラーケン同様魔石に期待できる。
そう考えると、クラーケンよりメリットのある魔物と言っていい。
「おわっ!!」
エルヴィーノとセラフィーナが話していると、睨みあっていたクラーケンとシーサーペントの両者が動き出す。
ある程度離れているとは言っても、巨大な魔物の2体が動くだけで大きな波ができる。
その波が、こちらのまで来て大きく船を揺らす。
エルヴィーノたちは問題なさそうだが、フィオレンツォはそうはいかない。
グラグラとゆれるに船に必死にしがみついて、何とか海に放り出されないように耐える。
「2人とも! そんなこと言っている場合ですか!?」
「そうだな……」
この状況で化け物たちの調理法なんて話している場合ではない。
そのため、フィオレンツォは2人にツッコミを入れる。
もっともなツッコミに、エルヴィーノは頷き、両手を上げる。
「氷槍錐×2!!」
手を上げたエルヴィーノの上空に、氷の錐体ができていく。
しかも、かなり大きい。
「すごい! どんだけ魔力込めているんだ……」
あまりの大きさの魔法に、フィオレンツォは感嘆の声を上げる。
ポルコ・ペッシェの場合は数だったが、今度は威力を重視したような魔法攻撃を放つようだ。
「「ッッッ!?」」
魔法が完成したところで、クラーケンとシーサーペントが上空の氷に気付いた。
そして、それがエルヴィーノによるものだと理解したのか、慌てて2体同時にこの船を潰しにかかってきた。
「遅い!」
2体とも、こちらをただの獲物と思って舐めていたのだろう。
自分たちにとって脅威になる存在だと分かり、慌てて潰しにかかってきたようだが、もう魔法は完成している。
そのため、エルヴィーノは向かってくるクラーケンとシーサーペントに対し、上空の氷の錐体を落とした。
「「ッッッ!!」」
クラーケンとシーサーペントに落とされた、氷の錐体を槍としたエルヴィーノの攻撃。
それが2体に直撃して、胴体に巨大な穴をあけた。
「この2体が、今回の大物のようだな」
「そうみたいですね」
体に大穴を開けて動かなくなったクラーケンとシーサーペント。
その死体を影に収納し、エルヴィーノは周囲を眺める。
海中に他の魔物がいないかを確認するためだ。
しかし、どうやらクラーケンとシーサーペントに匹敵するような魔物を見つけることはできない。
他にもちょこちょこ魔物がいるが、討伐に来ている領兵や冒険者に任せればいいだろう。
「あぁ、そうだ!」
「どうしました!?」
何かを思い出したのか、エルヴィーノが声を上げる。
まさか、まだクラーケンとシーサーペントに匹敵するような魔物を発見したのだろうか。
そう思い、フィオレンツォは慌てたように問いかけた。
「これには注意点がある。海で連発しすぎると、一時だが海温が下がっちまうぞ」
「それは……気を付けた方が良いですね」
海温が下がる程度気にする必要はない。
そう言おうとしたフィオレンツォだったが、よく考えたら確かに気を付けるべきだと気付いた。
海温が下がったら、魚介類が別のところへと散ってしまうだろう。
シオーマの町は漁業がメインの町。
一時とはいえ魚介類がいなくなってしまうのは痛手になる。
そのため、フィオレンツォはエルヴィーノの注意を覚えておくことにした。
エルヴィーノとセラフィーナが言った名前を聞いて、フィオレンツォは驚きの声を上げる。
クラーケンがどれほど危険な魔物なのかというのは、港町であるシオーマの町では嫌でも耳に入る。
出現したら、どこかに去るのを待つか討伐しない限り、漁に出ることは禁止されるのが通常だ。
そうしないと、どれほどの船が沈められるか分からないからだ。
「「あっ!」」
「どうしました!?」
波がどんどん大きくなてくる。
どうやら、クラーケンが海中から上昇してきているようだ。
そのクラーケンに目を向けているエルヴィーノとセラフィーナが、揃って驚きの声を上げる。
嫌な予感しかないその反応に、フィオレンツォは戸惑いつつ問いかけた。
“ズバーーーンッ!!”
大きな波と音を立て、海面の外にクラーケンの体が出現する。
しかし、とんでもないおまけまで付いてきていた。
「シーサーペントがついてきた」
クラーケンに付いてきたおまけとは、巨大海蛇の魔物のシーサーペントだ。
どうやら、両者ともこの船を狙って近づいてきたところ、相手のことに気付いて獲物(この船)の取り合いを始めたようだ。
「…………!!」
「シャーッ!!」
獲物は後回しだとでも言うかのように、クラーケンとシーサーペントは睨みあっている。
どちらが獲物を手に入れるかを、この場で決めるつもりなのだろう。
「シー……」
クラーケンだけでもとんでもない脅威だというのに、これまた最悪ともいえる魔物のシーサペントが出現したため、フィオレンツォはあまりの驚きに声が出ない。
「……クラーケンはそんなに美味くないんだよな」
クラーケンにシーサーペントの出現。
死も覚悟しなければならないと思っているフィオレンツォに反し、エルヴィーノは呑気なことを言っている。
現実逃避しているわけではない。
いつもと変わらない表情で言っているのだ。
「ダイオウイカが魔物化したって話だからな」
魔物でもないのに巨大な体のダイオウイカ。
それが魔物化して、さらに巨大化したのがクラーケンだという話だ。
ダイオウイカの身自体、そんなに美味しくない。
それが巨大化したからといって、美味くなるわけがない。
アンモニア臭があり、その匂いを消したとしてもたいして美味くない。
「クラーケンで有用なのは魔石だけだな」
強い魔物ほど、魔石に内包された魔力は多い。
魔石を電池代わりにしているこの世界では、クラーケンほどの魔力を有した魔石なんて貴重だ。
身が食用に期待できない以上、エルヴィーノは魔石を手に入れることを目指すことにした。
「でも、シーサーペントは美味しかったイメージがあります」
「そうだな……」
美味くないクラーケンの出現をあまり好ましく思っていない様子のエルヴィーノに対し、セラフィーナが話しかける。
料理が苦手なため、もっぱら食べる専門のセラフィーナ。
以前も、エルヴィーノが倒して料理してくれたシーサーペントを食べた経験がある。
その時のことを思い出して感想を述べると、エルヴィーノもシーサーペントの料理のことを思い出した。
「あれは、色々な味付けで楽しむ感じだな」
シーサーペントの身は、淡白な味で弾力のある食感をしている。
そのため、その食感を生かして色々な味付けで食べることが望ましい調理法だろう。
しかも、クラーケン同様魔石に期待できる。
そう考えると、クラーケンよりメリットのある魔物と言っていい。
「おわっ!!」
エルヴィーノとセラフィーナが話していると、睨みあっていたクラーケンとシーサーペントの両者が動き出す。
ある程度離れているとは言っても、巨大な魔物の2体が動くだけで大きな波ができる。
その波が、こちらのまで来て大きく船を揺らす。
エルヴィーノたちは問題なさそうだが、フィオレンツォはそうはいかない。
グラグラとゆれるに船に必死にしがみついて、何とか海に放り出されないように耐える。
「2人とも! そんなこと言っている場合ですか!?」
「そうだな……」
この状況で化け物たちの調理法なんて話している場合ではない。
そのため、フィオレンツォは2人にツッコミを入れる。
もっともなツッコミに、エルヴィーノは頷き、両手を上げる。
「氷槍錐×2!!」
手を上げたエルヴィーノの上空に、氷の錐体ができていく。
しかも、かなり大きい。
「すごい! どんだけ魔力込めているんだ……」
あまりの大きさの魔法に、フィオレンツォは感嘆の声を上げる。
ポルコ・ペッシェの場合は数だったが、今度は威力を重視したような魔法攻撃を放つようだ。
「「ッッッ!?」」
魔法が完成したところで、クラーケンとシーサーペントが上空の氷に気付いた。
そして、それがエルヴィーノによるものだと理解したのか、慌てて2体同時にこの船を潰しにかかってきた。
「遅い!」
2体とも、こちらをただの獲物と思って舐めていたのだろう。
自分たちにとって脅威になる存在だと分かり、慌てて潰しにかかってきたようだが、もう魔法は完成している。
そのため、エルヴィーノは向かってくるクラーケンとシーサーペントに対し、上空の氷の錐体を落とした。
「「ッッッ!!」」
クラーケンとシーサーペントに落とされた、氷の錐体を槍としたエルヴィーノの攻撃。
それが2体に直撃して、胴体に巨大な穴をあけた。
「この2体が、今回の大物のようだな」
「そうみたいですね」
体に大穴を開けて動かなくなったクラーケンとシーサーペント。
その死体を影に収納し、エルヴィーノは周囲を眺める。
海中に他の魔物がいないかを確認するためだ。
しかし、どうやらクラーケンとシーサーペントに匹敵するような魔物を見つけることはできない。
他にもちょこちょこ魔物がいるが、討伐に来ている領兵や冒険者に任せればいいだろう。
「あぁ、そうだ!」
「どうしました!?」
何かを思い出したのか、エルヴィーノが声を上げる。
まさか、まだクラーケンとシーサーペントに匹敵するような魔物を発見したのだろうか。
そう思い、フィオレンツォは慌てたように問いかけた。
「これには注意点がある。海で連発しすぎると、一時だが海温が下がっちまうぞ」
「それは……気を付けた方が良いですね」
海温が下がる程度気にする必要はない。
そう言おうとしたフィオレンツォだったが、よく考えたら確かに気を付けるべきだと気付いた。
海温が下がったら、魚介類が別のところへと散ってしまうだろう。
シオーマの町は漁業がメインの町。
一時とはいえ魚介類がいなくなってしまうのは痛手になる。
そのため、フィオレンツォはエルヴィーノの注意を覚えておくことにした。
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