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第 1 章
第 37 話
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「ここら辺でいいだろう」
「はい!」
フィオレンツォの運転で船を進ませ、30分ほど経過したところでエルヴィーノは船を止めるように指示する。
それを受け、フィオレンツォは帆を畳んで速度を落とした。
「先ずは、レモラだな……」
「レモラ……ですか?」
魔力を目に集めることで視力強化し、エルヴィーノは船から少し先の海中を眺める。
そこに集まる海の魔物を見つけ、その魔物の種類を呟いた。
その種類名を聞いたフィオレンツォは、どんな魔物なのか分からないらしく首を傾げた。
「知らないか?」
「魚介類は知っている方ですが、魔物となるとあまり……」
「そりゃそうか」
このマディノッサ男爵領は海産物が売りの領地だ。
四案とはいえその男爵家の子として生まれ育ったこともあり、魚介類に関しては把握している方だと思う。
しかし、貴族の子供の自分が、海の魔物と遭遇したり闘ったりしたことなんて今までないため、魔物の種類の方はそこまで詳しくない。
そのことを告げると、エルヴィーノは納得した。
「知らなくても仕方ないか。レモラは貴族が食べることはないだろうからな」
「美味しくないのですか?」
「小さいし、身が固いから調理に手間がかかるんだ」
体表面が青白いとても小さい魚で、頭部には軟骨でできた吸盤がついているのがレモラだ。
その吸盤を使って船底に吸着し、船の動きを止める迷惑な魔物だ。
小さい魚なだけに食べられる身は少なく、その身は固いことから、昔は食べられずに捨てられていた。
しかし、調理法によっては食べられるため、平民の間では知られていても、貴族のフィオレンツォが知らないのも無理はない。
「大量に捌いたレモラの身をミンチにして、揚げたり焼いたりすると美味いんだけどな」
エルヴィーノが言うように、調理法によっては美味しい。
しかし、その手間が問題だ。
小さいレモラを大量に捌かなければならないからだ。
そんな時間を費やすくらいなら、他の魚を捌いた方が手間いらずだ。
生活費に困っている時の魚という印象がついているため、多くのものが普段は興味も示さないだろう。
「レモラが船底にくっつくと、動力があっても動かなくなってしまうかもしれない。そうなると海上から動けなくなるし、他の魔物との戦闘もできなくなる。そうならないように、先に潰す」
「なるほど」
レモラによって船が動かなくなっても、エルヴィーノたちなら転移魔術が使用できる。
そのため、船を捨てることを決めさえれば特に問題ではない。
そんな選択をすることにならないためにも、エルヴィーノはレモラの討伐から開始することにした。
「今からやることを見てろよ。フィオレンツォ」
「はい!」
魔物の討伐をするために、エルヴィーノは水属性の魔法を使用すると決めていた。
水属性持ちのフィオレンツォに見本を見せるためだ。
「シッ!!」
「っ!!」
海面に手のひらを向け、エルヴィーノは探知で把握した数十匹いる海中のレモラに狙いを定める。
そして、短く息を吐く音と共に、手のひらから魔法が発射された。
その発射されたものを見て、フィオレンツォは目を見開く。
「よし」
「まさか……氷!?」
少し間をおいて、数十匹の魚が浮かんでくる。
頭に吸盤がついていることから、レモラだということは分かる。
それよりも、フィオレンツォとしてはエルヴィーノが放った魔法の方が問題だ。
レモラに刺さっていることからも分かるように、氷の針が放たれたのだ。
「その通りだ。水魔法使いが魔力制御力を上げると、水を凍らせて操ることができるんだ」
「……すごい」
説明を兼ねて、人差し指を立てたエルヴィーノは、その指先から小さな水の球を作り、それを氷に変えていく。
それを見ていたフィオレンツォは、感嘆の声を上げた。
「そうでしょ? エル様はすごいのよ」
とんでもない技術を見せつけられ、フィオレンツォはエルヴィーノに尊敬の眼差しを向ける。
エルヴィーノが褒められたことが嬉しいのか、何故かセラフィーナの方がどや顔をしている。
「闇と水の2属性使いというのもすごいですが、その魔力制御力はとてつもないですね!」
「そうでしょ! そうでしょ!」
魔法には火・水・土・風・光・闇・無の7つの属性があるのだが、魔力のある人間は基本的に無属性が使える。
そのため、属性を数えるときに数に入れないことが多い。
大抵の人間は、無属性にプラスして他の6属性のどれかを1つを使用できるのだが、中にはさらにもう1つの属性を使える人間が存在する。
2属性使いは珍しいが、フィオレンツォはエルヴィーノの魔力制御の凄さに興奮している。
それに賛同するように、セラフィーナは大きく頷いた。
『まぁ、エル様は2属性だけじゃないんだけど……』
2属性使いは珍しい。
しかし、それよりも珍しい人間がいる。
3属性・4属性と使える者だ。
セラフィーナが心の中で呟いたように、エルヴィーノが使えるのは2属性だけではない。
そのことをわざわざフィオレンツォに言う必要はないため、セラフィーナはそれ以上は口にしなかった。
「それより、このレモラどうします?」
エルヴィーノを褒めるのはひとまずここまでにして、セラフィーナは海面に浮かんでいるレモラを指さして問いかける。
「さっきも言ったように、食べられるけど調理に手間がかかる。それに魔石も小さいから大した値も付かないしな……」
「あの……、海が汚れるので、できれば回収してもらえれば」
「そうだな」
食べるのにしても面倒、魔石も安い。
回収する意味がないため、エルヴィーノは放置でいいだろうと考えた。
しかし、フィオレンツォの言葉を受けて、回収することにした。
放置して死体が腐り、海が汚れて他の魚介類に影響が出ては、マディノッサ男爵領の問題解決に来た意味がなくなるからだ。
回収することにしたエルヴィーノは、浮かんでいるレモラを闇魔法で影の中に収納した。
「ホ~!」
「えっ? 食べてみたい?」
レモラを影の中に回収していると、ノッテがエルヴィーノに声をかけてきた。
どうやらレモラを食べてみたいようだ。
「あんまり美味くないけど良いのか?」
「ホ~!」
「じゃあ、ホレ!」
調理しないと身が固くて美味しくないとエルヴィーノが言うのに、ノッテは好奇心からなのか「頂戴!」と言ってくる。
しょうがないので、エルヴィーノは一匹拾ってノッテの口の近くに差し出す。
すると、ノッテは口の中に入れて、バリボリと音を立てて、魔石ごとレモラを食べ始めた。
「ホ~!」
「ボチボチ? でも食えるのか……」
レモラを食べたノッテの様子から、やっぱり美味しくないようだ。
しかし、不味いとも言っていない。
自分もそうだが、ノッテたち従魔も食欲が旺盛だ。
腹の足しにはなるようなので、収納したレモラはただ処分するよりノッテたちのおやつにするのが良いかもしれないとエルヴィーノは考えた。
「さてと、じゃあ次の魔物に行くか?」
「そうですね」
この周辺に集まった魔物はレモラだけではない。
船を止める魔物であるレモラを倒し、小さな憂いを解消したエルヴィーノは、次の魔物を倒すために指示を出す。
その指示に従い、フィオレンツォはまた帆を広げ、エルヴィーノが指さす方向へ向かって船を操縦した。
「はい!」
フィオレンツォの運転で船を進ませ、30分ほど経過したところでエルヴィーノは船を止めるように指示する。
それを受け、フィオレンツォは帆を畳んで速度を落とした。
「先ずは、レモラだな……」
「レモラ……ですか?」
魔力を目に集めることで視力強化し、エルヴィーノは船から少し先の海中を眺める。
そこに集まる海の魔物を見つけ、その魔物の種類を呟いた。
その種類名を聞いたフィオレンツォは、どんな魔物なのか分からないらしく首を傾げた。
「知らないか?」
「魚介類は知っている方ですが、魔物となるとあまり……」
「そりゃそうか」
このマディノッサ男爵領は海産物が売りの領地だ。
四案とはいえその男爵家の子として生まれ育ったこともあり、魚介類に関しては把握している方だと思う。
しかし、貴族の子供の自分が、海の魔物と遭遇したり闘ったりしたことなんて今までないため、魔物の種類の方はそこまで詳しくない。
そのことを告げると、エルヴィーノは納得した。
「知らなくても仕方ないか。レモラは貴族が食べることはないだろうからな」
「美味しくないのですか?」
「小さいし、身が固いから調理に手間がかかるんだ」
体表面が青白いとても小さい魚で、頭部には軟骨でできた吸盤がついているのがレモラだ。
その吸盤を使って船底に吸着し、船の動きを止める迷惑な魔物だ。
小さい魚なだけに食べられる身は少なく、その身は固いことから、昔は食べられずに捨てられていた。
しかし、調理法によっては食べられるため、平民の間では知られていても、貴族のフィオレンツォが知らないのも無理はない。
「大量に捌いたレモラの身をミンチにして、揚げたり焼いたりすると美味いんだけどな」
エルヴィーノが言うように、調理法によっては美味しい。
しかし、その手間が問題だ。
小さいレモラを大量に捌かなければならないからだ。
そんな時間を費やすくらいなら、他の魚を捌いた方が手間いらずだ。
生活費に困っている時の魚という印象がついているため、多くのものが普段は興味も示さないだろう。
「レモラが船底にくっつくと、動力があっても動かなくなってしまうかもしれない。そうなると海上から動けなくなるし、他の魔物との戦闘もできなくなる。そうならないように、先に潰す」
「なるほど」
レモラによって船が動かなくなっても、エルヴィーノたちなら転移魔術が使用できる。
そのため、船を捨てることを決めさえれば特に問題ではない。
そんな選択をすることにならないためにも、エルヴィーノはレモラの討伐から開始することにした。
「今からやることを見てろよ。フィオレンツォ」
「はい!」
魔物の討伐をするために、エルヴィーノは水属性の魔法を使用すると決めていた。
水属性持ちのフィオレンツォに見本を見せるためだ。
「シッ!!」
「っ!!」
海面に手のひらを向け、エルヴィーノは探知で把握した数十匹いる海中のレモラに狙いを定める。
そして、短く息を吐く音と共に、手のひらから魔法が発射された。
その発射されたものを見て、フィオレンツォは目を見開く。
「よし」
「まさか……氷!?」
少し間をおいて、数十匹の魚が浮かんでくる。
頭に吸盤がついていることから、レモラだということは分かる。
それよりも、フィオレンツォとしてはエルヴィーノが放った魔法の方が問題だ。
レモラに刺さっていることからも分かるように、氷の針が放たれたのだ。
「その通りだ。水魔法使いが魔力制御力を上げると、水を凍らせて操ることができるんだ」
「……すごい」
説明を兼ねて、人差し指を立てたエルヴィーノは、その指先から小さな水の球を作り、それを氷に変えていく。
それを見ていたフィオレンツォは、感嘆の声を上げた。
「そうでしょ? エル様はすごいのよ」
とんでもない技術を見せつけられ、フィオレンツォはエルヴィーノに尊敬の眼差しを向ける。
エルヴィーノが褒められたことが嬉しいのか、何故かセラフィーナの方がどや顔をしている。
「闇と水の2属性使いというのもすごいですが、その魔力制御力はとてつもないですね!」
「そうでしょ! そうでしょ!」
魔法には火・水・土・風・光・闇・無の7つの属性があるのだが、魔力のある人間は基本的に無属性が使える。
そのため、属性を数えるときに数に入れないことが多い。
大抵の人間は、無属性にプラスして他の6属性のどれかを1つを使用できるのだが、中にはさらにもう1つの属性を使える人間が存在する。
2属性使いは珍しいが、フィオレンツォはエルヴィーノの魔力制御の凄さに興奮している。
それに賛同するように、セラフィーナは大きく頷いた。
『まぁ、エル様は2属性だけじゃないんだけど……』
2属性使いは珍しい。
しかし、それよりも珍しい人間がいる。
3属性・4属性と使える者だ。
セラフィーナが心の中で呟いたように、エルヴィーノが使えるのは2属性だけではない。
そのことをわざわざフィオレンツォに言う必要はないため、セラフィーナはそれ以上は口にしなかった。
「それより、このレモラどうします?」
エルヴィーノを褒めるのはひとまずここまでにして、セラフィーナは海面に浮かんでいるレモラを指さして問いかける。
「さっきも言ったように、食べられるけど調理に手間がかかる。それに魔石も小さいから大した値も付かないしな……」
「あの……、海が汚れるので、できれば回収してもらえれば」
「そうだな」
食べるのにしても面倒、魔石も安い。
回収する意味がないため、エルヴィーノは放置でいいだろうと考えた。
しかし、フィオレンツォの言葉を受けて、回収することにした。
放置して死体が腐り、海が汚れて他の魚介類に影響が出ては、マディノッサ男爵領の問題解決に来た意味がなくなるからだ。
回収することにしたエルヴィーノは、浮かんでいるレモラを闇魔法で影の中に収納した。
「ホ~!」
「えっ? 食べてみたい?」
レモラを影の中に回収していると、ノッテがエルヴィーノに声をかけてきた。
どうやらレモラを食べてみたいようだ。
「あんまり美味くないけど良いのか?」
「ホ~!」
「じゃあ、ホレ!」
調理しないと身が固くて美味しくないとエルヴィーノが言うのに、ノッテは好奇心からなのか「頂戴!」と言ってくる。
しょうがないので、エルヴィーノは一匹拾ってノッテの口の近くに差し出す。
すると、ノッテは口の中に入れて、バリボリと音を立てて、魔石ごとレモラを食べ始めた。
「ホ~!」
「ボチボチ? でも食えるのか……」
レモラを食べたノッテの様子から、やっぱり美味しくないようだ。
しかし、不味いとも言っていない。
自分もそうだが、ノッテたち従魔も食欲が旺盛だ。
腹の足しにはなるようなので、収納したレモラはただ処分するよりノッテたちのおやつにするのが良いかもしれないとエルヴィーノは考えた。
「さてと、じゃあ次の魔物に行くか?」
「そうですね」
この周辺に集まった魔物はレモラだけではない。
船を止める魔物であるレモラを倒し、小さな憂いを解消したエルヴィーノは、次の魔物を倒すために指示を出す。
その指示に従い、フィオレンツォはまた帆を広げ、エルヴィーノが指さす方向へ向かって船を操縦した。
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