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エピソード2【天才科学者の兄妹】

【8】

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そして花梨も、ニコニコしながら口を挟み始める。


 「私も設計図を拝見させてもらったわ。目的地のY76星は、学術的に人間が住める事は証明されているけど、今までどの科学者も超えられなかったのは距離の壁……でも、ハルトくんの設計図は、それを可能にしたわ」

 「ありがとうございます!」


ハルトは、深々と頭を下げた。


 「実は、これには1つのきっかけがあったんです。花梨さんも勿論ご存知の通り、何百年も前に地球が爆発しましたよね」

 「ええ……」


 花梨は寂しげに言った。


 「様々な要因が重なったからね……人間の環境破壊も、その原因の1つ……自分たちが犯した過ちのツケが回ってきたのよね……」


 花梨の言葉を聞いて、一瞬、その部屋にいる全員から笑顔が消えた。


そう。

この星は、地球ではない。


 今から何百年も前、人間の環境破壊が進み、地球に生物が住むことは不可能になった。

 温暖化により氷河が急激に溶け始め、一斉に火山が噴火し、地上にマグマがあふれ出し、さらに多数の隕石の衝突もプラス。

まさに、想像を絶するような地獄絵図。

 地球は、長年の歴史が嘘のように、一瞬で爆発。

 信じられないぐらい、あっけない結末だった。


しかし、人類が絶滅することはなかった。

 爆発することを予知した、当時の天才と呼ばれた科学者たちが宇宙船を作り、限られた人数だが、人間を新しい星に移住させた。

それが、ハルトたちが住んでいるこの『惑星メデュー』だ。


ちなみに、惑星メデューは、地球の100分の1ほどの大きさ。

 何百年も時を経て、惑星メデューは、地球以上の文明を手に入れていた。

 地球に存在していた文化や技術を確実に受け継ぎ、長い時間をかけてプラスアルファを加え、今のこの星の時代を作り上げていた。

そしてハルトは、窓の外に広がる透き通った青空を見つめ、


 「人間は、バカな生き物ですよね……」


 感慨深そうに話し始めた。


 「でも、だからこそ、僕たちは同じ過ちを繰り返しちゃいけないんですよね……」

 「そうね……あっ」


ところで、と花梨は言った。


 「ハルトくんは、どうして宇宙船を作ろうと思ったの?」

 「えっと」


ハルトは言った。


 「爆発寸前の地球から、僕達が今住んでいるこの星へと脱出する宇宙船を作った科学者の話を、資料室で観た時……当時もいろんな壁を乗り越えて作ったと思うと、僕も壁を越えてみたくなったんです」


ハルトの目は、メラメラと燃えている。

もちろん、念願の宇宙船製造ができるからだ。

しかし、黙って話を聞いていたレイナは、


 (ちょ、ちょっと! お兄ちゃん!!)


ハルトの服を引っ張り、耳元で慌てたように喋り始めた。


 「お兄ちゃん! 私と2人で書きかけた設計図がないと思ったら! そんな大きい宇宙船を作るために書いたんじゃないのよ!」

 「いいじゃないか」


ハルトも小声で言った。


 「おまえの設計図は良く出来てたし、宇宙船を大きくすることぐらい可能だよ。それに資金の心配もしなくていいし、何も問題ないじゃないか」

 「だから、そうじゃなくて……」

 「何が?」

 「その設計図は、私がお兄ちゃんと2人で……」


レイナが、少しすね気味で話そうとした時──



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