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女戦士様と冒険 1

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   コルの実のなるコルジの木は、魔の森、レキサクライの入り口の近くに多く自生している高木だ。
 レグルスに言われるまで、自分で採りに行くという発想はなかったけれど。コルの実が、安価で使えるとなれば、夏用のプールポワンの『売り』になる。
 ただ、魔の森レキサクライは入り口近くといえど危険だ。
 さすがに一人で行くのは無謀だ。
 そもそも、私は高いところが苦手で、木登りなんてできそうもない。
 解決策は、護衛を雇うことだ。
 幸い、イシュタルトの火球消滅のインパクトある宣伝効果のせいか、父へのオーダーは、かつてないほど順調に増えている。
 皇室御用達という箔までついた。
 金銭的に多少ゆとりがある今こそ、ビジネスチャンスなのだ。
 とはいえ、護衛を頼める伝手がない。
 レグルスが無料で護衛をしてくれるとは言ってくれたが、リップサービスだろう。
 もし、仮に本気だったとしても、一夜を共にするくらい要求されるかもしれない。
 この場合、元手がいらないからラッキーと、割り切れれば幸せだろうけれど。
 やっぱり、そういうのは好きな相手がいいなって思う。
 レグルスは二枚目だし、悪いひとではないけれど、さすがにまだ二回しか会っていないし、私のことが好きってわけではないだろう。
 護衛は、レグルスほどすごいひとでなく、私でもビジネスのお付き合いができる、そこそこの冒険者がいい。
 とはいえ。もともと、私は人づきあいが得意ではない。
 それに、うちの店のプールポワンは、魔力防御付きの高級品だから、顧客は軍人か上級の冒険者ばかりだ。
 冒険者がたむろする酒場とかに行けば、見つかるだろうけれど。
 ただ、魔の森へ行くなんて言えば、父は反対するだろう。
 父だけなら何とかなるだろうけれど、万が一にもロバートに知られたら、絶対に怒られる。
 わが弟は、とにかく怖いのだ。
「どうしたものかなあ」
 今しかチャンスはないけれど、踏み切れない。
 ラカード防具店と書かれた看板のある扉をあける。
 今日は、既製品の御用聞きだ。
「こんにちは。ラムシードです」
 店内には客は誰もおらず、私は奥に声をかけた。
 バタバタっと足音がして、出てきたのは、フィリップだった。
「やあ、久しぶりだね、アリサ」
「ご注文を承りにきたのだけど」
 相変わらず、フィリップは妙に格好つけている。
 近所の娘たちには評判がいいみたいだけれど、ナルシストって感じで私は好きじゃない。
「悪いけれど、今はあまり売れてないんだ。だから例年より少し注文を控えようかと親父は言っていた」
「そうですか」
 夏に向かうこの時期は、もともとプールポワンの売れ行きは落ちる。
 今年はそれよりも悪いということか。
「僕じゃないよ、親父がそう言っているんだ」
 フィリップが私の機嫌を取るかのように言い添える。
「売れ行きが悪いということは、防魔用品の人気が下がっているということですか?」
 私の問いに、フィリップが首を振った。
「違う。魔の森レキサクライの一部を近衛隊が調査中でね。立ち入り禁止区域が、そこかしこにあって、森に入りにくい状態なんだ」
「そういうことですか」
 森に入れなければ、冒険者たちが防具を必要とすることもない。
 当然の流れだ。
 近衛隊が調査中ということは、皇太子がハーピーに襲撃された事件のことだろう。
「立ち入り禁止なら、仕方ないです」
 コルジの木の自生している区域は、入れるのだろうか。
 ロバートとかイシュタルトに確認すればわかるだろうけど、ロバートに絶対に反対されるから無理だ。
「ところで、最近アリサの店に、美形の男が出入りしているって聞いたけど」
 フィリップはねっとりとした視線を私に向ける。
「うちはもともと男性服の専門店だから、男の客しか来ませんが」
「アリサ、気をつけなよ。甘い言葉をかける男にロクな奴はいないんだから」
 言いながら、フィリップは体を近づけてくる。
 鏡を見て、言え。
 口にしなかった私は、偉いと思う。
 フィリップの父親は、とてもやり手で、いい人なのに。
 こいつは、四六時中盛っている。
 その時、扉が開いて、ひとりの女性が入ってきた。
 均整の取れた体つきだが、胸だけが不自然なほど豊満だ。
 私と同じように男物の服を着ているが、そのしなやかな動きから見て、戦士だと思われた。美しい長い黒髪を後ろで無造作に束ねている。少しネコ目であることも含めて、大人の色気があふれ出ているような美人だ。
 フィリップは、彼女が入ってくると明らかに二枚目顔を作り接客に入った。
 女性に対する接客は相変わらず丁寧だ。距離が近い気もするけれど。
 もっとも、フィリップが二枚目なのは確かなので、許してしまう女性も多いのかもしれない。
「ねえ、ラムシードのプールポワンって、これだけのサイズしかないの?」
 帰ろうと思ったところで、そんな言葉が耳に入った。
「あの、うちのプールポワンをお求めで?」
 つい嬉しくなって口をはさむ。
「あなたは?」
「私は、アリサ・ラムシードと申します。プールポワンを作っています」
 私が名乗ると、彼女は、びっくりしたように私を見た。
「ラムシードは、男性の職人だと聞いていたのだけど」
「父のことですね。私はクラーク・ラムシードの娘です」
「まあ」
 彼女は驚いたようだった。
 接客をしていたフィリップには悪いとは思ったが、既製品のサイズには限りがある。
 私は彼女と一緒に防具屋を出て、近くのお茶屋に入った。
 ちょっとドキドキする。
 私は、女性の知り合いが少ない。したがって、こういうふうに、女同士でお茶を楽しむという経験もほぼないのだ。
 夜はバーになるらしいその店は、おしゃれだった。
 窓が大きくて、外光が入りやすくて、店内が明るい。女性が入りやすい雰囲気の店だ。
 美味しい紅茶と、美味しいお菓子。
 お店には、可愛らしい女の子たちがたくさんお茶を楽しんでおり、男装の私たち二人は、ちょっと浮いている感じもしなくもない。
 彼女の名前は、リィナ・バル。
 想像した通り、戦士系の冒険者だった。年は私より二つ上の二十二歳。妖艶な容姿に反して、仕草はとてもかわいらしい。
 私が男なら、ギャップに萌えたに違いない。
「プールポワンって、男性用しかなくて、困っているの」
 紅茶の香りを楽しみながら、彼女は首をすくめた。
「胸にサイズを合わせると、袖が長すぎるのよ」
 恥ずかしそうに、リィナは顔を赤らめる。
「それは、そうですね」
 私は、納得した。既製品の男性用の胸囲に合わせれば、とうぜん袖丈は長すぎる。
 そもそも、女性用の場合、男性ものより、脇側にも防魔対策をしないと、胸元の防御が弱い。
 彼女のような豊満な胸を持つ女性は、特にそうだ。
「オーダーで作れば、大丈夫ですよ。お値段は高くなりますけれど」
 彼女がさらに顔を赤らめた。
「料金もそうなのだけれど、お店に入るのが恥ずかしくて。それに、あなたのような女性の職人さんがいると思わなかったから、採寸されるのも男の方にされるのは、嫌だなあって」
「わかります」
 確かに、リィナの胸回りを採寸している父を想像すると、父がどんな顔をして測るかも想像できる。
 うちの父が、特別スケベジジイというわけではない。ないが、よほど枯れた爺さんでない限り、いやらしい目でみるに違いない。
「私がお作りしましょうか?」
「でもオーダーで作ると、高いでしょ?」
「私はまだ見習いですので…」言いかけ、私は彼女の手を取った。
「あの、リィナさん、ご相談したいことが…」
 私は商談を持ちかけた。
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