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41 コーデリアの死

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 私は一体何が起こったのかすぐには理解出来ずにその場に立ち尽くしていたが、真っ先に行動を起こしたのはお父様だった。

 鉄格子の扉を乱暴に開け放つと、グレンダさんの元に駆け寄りその身体を抱き起こした。

「コーデリア! しっかりしろ! 何を飲んだ!?」

 先程までのお父様の態度とは一変した行動に私は驚きを隠せない。

 「コーデリア」と呼ばれたグレンダさんは薄っすらと目を開けて軽く微笑んだ。

「…コン…ラッド…」

 お父様の名前を呼んだ口からまたコポリと血が吐き出される。

 まさか、毒を飲んだ?

 さっきの何かが折れたような音は歯が折れた音なのかしら。

 歯の中に毒を仕込むなんて、まるでスパイ映画みたいだわ。

「コーデリア、お前があのままクリスティンと友達でいたら、私もここまで意固地にはならなかったものを…」

 お父様が苦しげに顔を歪ませる。

 グレンダさんは震える手をお父様の顔に近付け、その頬に優しく添えた。

「…わた…くしは……」

 グレンダさんの手が力が抜けたようにお父様の頬から離れていくのをお父様が掴み、その手にそっと口づけた。

 グレンダさんの目から涙が零れ落ちると同時に、その身体が一瞬仰け反った後、動かなくなった。

 見開かれたままのグレンダさんの瞼をお父様が手を当てて閉じさせる。

 そしてグレンダさんの身体を抱きかかえると、ベッドにそっと横たえた。

 その悲しみに満ちた背中に誰もが声を発せずに立ち尽くしている。

 私は先程のお父様の言葉の意味を考えていた。

 友達でいたらって、お母様とコーデリアさんが友達だったって事かしら?

 まあ、男を取り合って友人同士が争うって言うのは前にいた世界でも当たり前にあったものね。

 それじゃあ、コーデリアさんがお母様に嫌がらせをしたりしなければ、コーデリアさんがお父様の後妻になっていたかもしれないって事?

 私がグルグルと考えている間にお父様はクリーン魔法でグレンダさんの口元の血を綺麗にしていた。

 そして、しばらくグレンダさんの顔を見つめていたが、おもむろに振り返り魔術師団長に指示をする。

「魔術師団長。サイラスの行方を追え!生死は問わぬから必ずサイラスを捕まえろ!」

「はっ! 直ちに!」 

 お父様から厳命された魔術師団長は他の魔術師を伴って独房を出て行った。

 お父様はお兄様の側に来るとその肩をポンと叩いた。

「済まないが私はしばらく自室に籠もる。執務はお前に任せたぞ」

「…わかりました。お任せください。けれど早目に復帰してくださいね」

 いつもは無茶振りされても抵抗を試みるお兄様が、何故かお父様に気を遣っているようだ。

 お父様の後ろ姿を見送りながら私はお兄様にこっそりと聞いてみた。

「お兄様、よろしいのですか? それにお父様はどうしてあんなに落ち込んでいらっしゃるのでしょう?」

 五年前にしろ、今にしろ、「処刑しろ」と言っていたのはお父様だ。

 それなのにグレンダさんの身体にいたコーデリアさんが自殺を図ったら、どうしてお父様があんなに落ち込むのかしら。

「私も人伝てに聞いた話なんだが、父上達三人は幼馴染で小さい頃から仲が良かったそうだ。それが父上の婚約者候補になって関係がおかしくなったそうだ。父上にしても友達として接してきた母上と結婚なんて考えられなかったらしい。それでも月日をかけて恋愛に発展して結婚したけれど、それがコーデリア様には気に入らなかったらしい。『自分の方がコンラッドを愛しているのに…』ってね。実際、母上とコーデリア様はどちらが婚約者になってもおかしくなかったらしいからね」

 そう聞くとコーデリアさんの間違った行動が自ら、お父様との結婚を阻んだって事かしら。

 自業自得とは言ってもあまりにも悲しすぎるわ。

 私は先程から何も言わずに佇んでいるエイブラムさんにチラリと目をやった。

 私がこれを口にしたら命令になるのかしら?

 だけど、私だってどうせ結婚するのならば、好きな人と結婚したいって思うのよね。

 ええい! 

 当たって砕けろよ!

 私はエイブラムさんの前に立ちはだかると、意を決して口を開いた。

「エイブラム様。どうか私と結婚を前提にお付き合いしてください!」

 
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