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3 団長

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 私は目の前に佇む男の人に目が釘付けになった。

 濃紺の髪に青い目をした美形だ。

 …濃紺の髪ってゲームやアニメでしか見ないんだけど、何かのコスプレかしら?

 男達が血塗れで倒れている現実から逃避するためにそんな事を考えてみるけれど、やはり夢ではないらしい。

 そのイケメンはツイと私から目を逸らしたまま「無事か?」と聞いてくる。

 …何で目を逸らすのかしら?

 疑問に思いつつ、自分の姿を見下ろしてあられもない姿だったのを思い出した。

 慌ててスカートを下げて座り直し、はだけられたブラウスとブレザーを掻き合せる。

 ブラウスのボタンは何処に飛ばされたのか、辺りには見当たらない。

「だ、大丈夫です。ありがとうございます」

 一応助けて貰ったからお礼を言ったけれど、彼が本当に敵ではないのかはわからない。

 大体、あの髪の色が染めたものでないならば、ここは私が知っている世界ではない事になる。

 ここが何処なのか尋ねようとした時、外で誰かが呼ぶ声が聞こえてきた。

「団長ー、何処ですかー?」

「こっちだ! 何か包むものを持ってきてくれ!」

 団長と呼ばれたイケメンが外に向かって怒鳴ると、しばらくして一人の男が姿を現した。

「包むものってこれでいいですか? …って、団長! こいつら殺しちゃったんですかー?」

 イケメンさんの部下らしい男が何かの布を持って入ってきたが、私の周りに男達が倒れているのを見て目を丸くした。

「仕方がないだろう。この女性を襲おうとしていたからな。どっちみちこいつらは死罪になるんだから同じ事だろう」

「まあ、大物は既にとっ捕まえていますから、こいつら下っ端が居なくても攫われた女達は救出できますけどね。…ところでこの女性は誰ですか?」

 この部下らしき人もピンクの髪にオレンジ色の目をしている。

 やはりあの電柱の後ろは異世界への通り道だったみたいだ。

 帰り道なんてあるのかしら?

 イケメンさんは部下から布を受け取ると私に差し出してきた。

 ブレザーは元々ボタンを留めていなかったから残っているけど、留めたところで胸までは隠せない。

 差し出された布を羽織り、素肌を隠すとイケメンさんはようやく私と目を合わせてくれた。

「どうやら君はこの村の人間じゃないみたいだな。話を聞きたいから一緒に来てもらえるか?」

 流石にこの状況で嫌と言えるわけもないので頷いて立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。

 どうやら私は腰を抜かしてしまったようだ。

 襲われかけた挙げ句に目の前で人が殺されたのだ。

 平然としていられる方がどうかしている。

「…すみません。立てないんですけど…」

 そう告げるとイケメンさんは私をヒョイと抱き上げて歩き出した。

 …これって、お姫様抱っこ!?

 いつかは誰かにしてもらいたいと思っていたけれど、こんな状況で願いが叶うなんて、素直に喜んでいいのかわからない。

 おまけにすぐ目の前にイケメンさんの顔があって、直視するのも恐れ多い。

 外に出ると、何処から現れたのか大勢の人達が待ち構えていた。

 イケメンさんと同じ服を着ている事からこの人達も部下なのかしら?

 着ている服から推測すると、騎士団と呼ばれる人達かしら?

 その人達が一斉にこちらに注目されていたたまれない事この上ない。

「団長、そちらは?」 

「盗賊に襲われていた女性だ。ショックで歩けなくなったようなので保護する。一旦離脱するので後の指揮は副団長に任せる」

「承知しました。よし、みんな! 先ずは息のある者を助けるんだ!」

 副団長の命令に従って部下の人達はあちこちに散らばって行った。

 人の目がなくなってホッとしたけれど、相変わらずイケメンさんに抱き上げられている状況には耐えられない。

 私重くないかな?

 最近食べ過ぎで太ってなかったかしら?

 早く下ろしてもらいたい。

 そんな事を考えている内にイケメンはさんは村の外に出て行った。

 しばらく歩くとそこには天幕が張ってある場所があった。

 ローブを着た人がイケメンさんの姿に気付いて近寄ってくる。

「団長、どうかされましたか?」

「この女性を保護しただけだ。私の天幕で休ませておくから誰にも近付けさせるな」

 イケメンさん、もとい団長さんはそう告げると一つだけ色が違う天幕に私を連れて行った。

 中に入るとテーブルと椅子、ベッドまで置いてある。

 そのベッドに私を座らせると、気遣わしそうな目をする。

「すまないが私は先程の村に戻らないといけない。この天幕には結界を張っておくので誰も入れなくなるからゆっくり休んでくれ」

 それだけを告げると私の返事も待たずに出ていってしまった。

 結界を張るって?

 ここが異世界で間違いないという事実がこれでもか、と突きつけられるようで悲しい。

 私は大きくため息をつくとベッドに横になった。

  
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